第3話 考察

 腹の中が強烈に痛み、身体がビクンと跳ねる。

 胃が焼け付く様な痛みに襲われ、全身に激痛が走り痙攣と灼熱感に襲われる。

 身体の痛みに耐えながら、倒したゴブリンを睨んで凍れ! と願う。

 凍れ! 凍れ! 凍れ!

 三頭のゴブリンが凍り付くと、次は地面を凍らせる。

 今回は魔法を使えば、体内の魔力が減っていくのが判っているので、周囲を積極的に凍らせていく。


 激痛が少し治まり、身体は燃える様だが考え事が出来る様になったので、生活魔法を試してみた。

 ウォーターではカップから水が溢れ出る、フレイムも拳大の炎が出来る。

 思っていたとおりだ、生活魔法も魔力が多ければ人並み以上のものになる。 俺の生活魔法がしょぼかったのは、元々の魔力量が少ないからだ。


 ゴブリンの心臓の残りを凍らせ、地面に穴を掘り心臓を放り込んで上を氷で覆う。

 後はひたすら地面を凍らせて、食べた心臓の魔力が尽きるのを待つ。


 ゴブリンの心臓を食べて、魔法が使える間だけでも攻撃魔法が欲しい。

 アニメやラノベを参考にすれば、俺の場合はアイスアローとかアイスランスだが、果たして何も無い空間に氷の矢や槍を作り出せるのだろうか。


 試してみた結果、現物を凍らせなくても強く念じると空間に氷を作り出せる事が判った。

 文字通り氷の塊が出現し、出来たとたん地面にボトボトと落ちて氷の山が出来る。

 目の前に氷の山が出来るのは邪魔なので、少し離れた場所に落ちる様にイメージし氷を作って見ると此れも出来た。

 木の上のベースでゴブリンの心臓を口に放り込み、魔力を減らす為に氷塊を作って下に落とせば安全に魔力を増やす練習が出来る。


 10日も練習すると、安定してバレーボールほどの氷の塊を作れる様になったので、飛ばせるかどうか試す。

 バレーボール程の氷塊が、投石くらいの速度で飛んで行ったのを見た時は感動した。


 ひたすら氷塊を作っていた時、ふと思って少し離れた場所を凍らせる事が出来るのかと思いつき、近くの枝先を凍れ! と念じてみた。

 何故こんな事を思いついたのかといえば、ゴブリンの心臓を口に捩じ込まれて、生きるか死ぬかの瀬戸際で苦しんでいた時の事を思い出したからだ。


 苦しむ俺を見て笑っていた糞野郎達を、凍れと念じて凍らせた時に俺は奴等に触れていない。

 あの時近くに居た奴でも3m程、遠い奴で4~5mは離れていたのに凍って死んだ。

 見つめた枝先を凍れと念じると、枝先が凍り陽の光にキラキラと煌めく様は綺麗だったが、氷結魔法の使い方を一つ掴んだと思った。


 見つめて凍れと念じて凍らせれば、直接戦闘しなくても殺せる事になる。

 後はどの程度離れた距離まで凍らせる事が出来るかだが、概ね25m程度なら可能と判った。

 ゴブリンの心臓を食べれば魔法が使える程度の魔力を得るが、魔力が増えればもっと遠くまで凍らせる事が出来る筈だ。

 これを覚えてからは、ゴブリンやホーンラビットなどを簡単に狩れる様になった。


 俺のベースキャンプに近づく野獣や魔物も、尻尾や片足とかを凍らせた後氷塊を上から落として、追い払うのに役立った。

 最初は頭を凍らせて倒していたのだが、死骸の処理に困り追い払う事にした。

 何せ運搬手段が無いので、狩る度に死骸を持って街に戻るのは面倒だし魔力を増やす邪魔になる。


 氷塊もソフトボール大からバレーボール大まで自在に作れる様になると、投擲の練習に励む。

 何日も氷塊を作っては投擲の練習をしたが速度が上がらないので、何が悪いのか散々悩んでイメージだと気づいた。

 氷塊を作るのも飛ばすのもイメージなら、飛んで行く速度もイメージだと気づき砲弾をイメージすると、格段に早くなった。


 富士の裾野で開催される陸上自衛隊の総合火力演習、ユーチューブで時々見ていた戦車の砲弾が飛んで行く様をイメージした。

 速度が上がれば飛距離も伸びる、推定50mくらいは飛んでいる。

 最も50mは着地点で、狙った所に当たるのは35mといったところか。


 氷塊をアイスバレットと命名、ちょっと砲丸みたいだが格好良いのでよしとする。

 バレットの次はアイスアローとアイスランスを目指す。

 強力な投擲武器の攻撃距離は、凍らせる方法の倍近い距離まで攻撃出来るので魅力だ。


 ゴブリンの心臓を食っては、熱暴走と名付けた激痛と身体が焼ける様な始めの段階を乗り切り、何とか耐えられる様になったらアイスアローをひたすら作り続ける。

 最初に出来たアイスアローは地面に落ちるとポキポキ折れて使い物にならない。

 作る時には木に突き立っても折れない固い氷をイメージして、作る練習に変えなんとか出来る様になった。

 空中にアイスアローが出現して地面に落ちると、キンキンと硬質な音を立てる。


 ゴブリンの心臓を食べてから、魔力切れ寸前になるまでに約70本のアイスアローが作れる。

 最初のポキポキ折れるアイスアローの時には、楽に百本以上を作れていたので、イメージを高めると魔力を多く消費する様だ。

 これを立木に突き立てたり撃ち抜くとなると、もっと多くの魔力を消費すると思われる。


 太さ3cm長さ60cmのアイスアローが、立木に半分以上打ち込める様になるのに約一月掛かった。

 アイスアローを射てる数は約35本、作れる数の半分とは随分魔力を使っている事になる。

 アイスアローを作ると射つで、二つの魔力を使っている計算になる。


 毎日毎日同じ事の繰り返しで、今日が何日か知らないが少し寒さが緩んできたのは判る。

 練習を繰り返し続けて判った事は、確かに魔物の心臓を食べれば魔力は増える。

 しかし、ゴブリンの心臓で増えた魔力がなくなると、ウォーターで出せる水の量は僅かに増えただけだった。

 この調子でいけば、カップ一杯の水を出せる様になるには三月以上掛かりそうである。


 魔力の増える速度が余りにも遅いので何か見落としがないか考える。

 魔物の心臓を食べて魔力が増える・・・これは間違っていない、何故食った分だけ増えないのか。

 アニメやラノベの魔力を増やす方法は魔物の心臓を食うか、元々の魔力を振り絞り魔力切れを起こして増やす方法が有った事を思い出した。

 魔力切れで倒れると無防備になり、死ぬ確率が跳ね上がる。

 最低限倒れない様に魔法を使い、体内に取り込んだ魔力を使っていたが此れからは積極的に魔力切れを起こす事にした。

 ベースキャンプに戻ると就寝前には必ずゴブリンの心臓を食い、魔力切れまでアイスアローやアイスランスを射ち続ける日々が始まった。


 10日程たって魔力切れから目覚めた時に、生活魔法が強くなっているのに気づいた。

 ウォーターはカップ一杯少々作れる、クリーンは一発で綺麗になりフレイムもピンポン球くらいはある。

 姉のヘレナの生活魔法より、ほんの少し上回っていると思われる。

 嬉しかった、この調子で魔力が増えればゴブリンの心臓とおさらば出来る。


 それから一月以上経ち、ウォーターではカップ二杯近くを出せる様になったが、溢れる水で毎回濡れる為カップ一杯に収めるコツも掴んだ。

 カップの水を凍らせる事は未だ出来ないが、冷たくする事は出来る様になったので、氷結魔法が使える様になる日も近いと確信している。


 春になり木々が芽吹く頃に塩が無くなり、ヨールの街に戻る事にした。

 前日からゴブリンの心臓を食べるのを止め、臭くならない様に気を付ける。

 荷物は背負子に背負った薬草袋とゴブリンの魔石、一日平均二匹は殺していたので150以上有った。

 半分を埋めて残りを換金して、食糧や塩と香辛料等を買う事にする。


 * * * * * * *


 他の冒険者と余り顔を合わせたくないので、朝少し遅くヨールの街に戻った。

 冒険者ギルドの前で深呼吸してから扉を押し開けて中へ入り、薬草買い取りカウンターに行き買い取りを依頼する。


 「坊主は、剣風の舞に所属していたよな」


 「そうですが・・・何か」


 「他の奴等はどうした」


 「知りませんよ。オークの群れに襲われた時、俺を置いて逃げやがったきり会ってませんから」


 「大分長い間見なかったが、お前は何をしていたんだ」


 「見てのとおり、薬草採取とゴブリンを狩ってたんですよ」


 考えていた嘘が、すらすらと出て来る。

 それ以上は何も聞かれなかったので、ゴブリンの魔石買い取りも依頼してベンチに座る。

 俺を奴等に紹介した職員が、俺の方をガン見しているが素知らぬ顔でやり過ごす。


 名前を呼ばれて買い取りカウンターに向かい査定用紙を貰う。

 風霊草8本、1,000ダーラ×8=8,000ダーラ

 七色草23本、500ダーラ×23=11,500ダーラ

 春待ち草13本、1,200ダーラ×13=15,600ダーラ

 酔い覚め草17束と3本、300ダーラ×173=51,900ダーラ

 腹痛草42束と6本、100ダーラ×426=42,600ダーラ

 血止め草22束と5本、200ダーラ×225=45,000ダーラ

 ゴブリンの魔石は一個2,000ダーラ×81=162,000ダーラ

 合計336,600ダーラ・・・金貨三枚に銀貨三枚と、銅貨が六枚に鉄貨が六枚か。

 三月少々草原に居たが、一月100,000ダーラにもならない。


 ホテルに泊まらずに一月10万ダーラ、魔法の練習をしながらで此れなら何とか生活出来そうだ。

 ホテルが一泊どの程度必要か知らないが、日本のビジネスホテル換算で一泊四千円食費が一日二千円と計算すれば、埋めた魔石分を合わせれば何とかなる。

 当分はベースキャンプ暮らしで、魔力を増やす事に専念だ。

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