発泡性細胞

トルコキキョウ

第1話 誕生

先日、37歳の誕生日を迎えた。

30歳を過ぎてから自分の年齢が何歳なのかわからなくなって、子供にママ何歳だっけ?と聞くのが当たり前になってしまった。

37歳の誕生日は、夫と久しぶりに帰ってきた長女と次女と長男に焼肉屋で祝ってもらい、大きくなった子供たちと落ち着いて食べて呑める悦びを感じた。


 ふと、また頭に過ぎる…。


( 嫌な思い出?いや、私は覚えていない。)


37年前のこと、私を産んだ母は、夜中に自宅で陣痛が始まり明け方私は産まれた。

かなりの安産だったのか、隣に寝ている旦那は気付かず寝ていたのだろう。

その後、自らへそ脳を裁縫用の裁ちバサミで切り、産んだばかりの赤ちゃんを手拭いで包み、茶色の紙袋へ入れ、自転車のカゴに入れられ、地元の産婦人科へ向い


産みの母親:「知り合いの子供を預かって連れてきた。」


と、受付に茶色の紙袋を置いて立ち去り、その後仕事へ向ったのだという。


私は、低体重、低体温、肺炎になっていたようで治療を受け救われた。


数年前に赤ちゃんポストのニュースが流れていたのを覚えている。

いままでに何人かの赤ちゃんが置いて行かれて、施設や里親に貰われたのか。


私は、16歳で長女を授かり、17歳で出産し若い母親だからと悪く思われたくなくて必死で育児に奮闘した。3人の子供の母。愛おしくて、愛おしくてこんなにも愛おしい子を紙袋に入れて置いてくる…理解が出来なかった。

長女を産んですぐに、あの時も自分の記憶にも残っていない私の出生時のことが頭をよぎった…。


なんで?なんでそうしたの?と聞きたいと思ったことがある。

ただ、どんな理由があったとしても聞いたところで私の気持ちが晴れる訳ではないと思うし、私を育ててくれた母と父は沢山の愛で私を育ててくれた。

だからかもしれない、産みの母に会いたいと思ったことが一度もない。


なんなら、産みの母親は従姉妹の母親だったと知り、幼い頃の従姉妹との思い出の中に度々出てくるあの人。

そして、いつの事だったか…浮気がバレ、叔父と離婚し家を出て行ったあの人。

そして、私は、叔父の子でもあると言うこと…。

叔父に尋ねたことがある。


私:「なんで、私は捨てられたの?」


すると、


叔父:「母親(祖母)が悪いんだ!腹に子供いることを隠していたのもこれ以上子供作るな!ってうるさかったから!」


と、言われた。

正直、ガッカリして笑いが止まらなかった。


叔父は軽い知的障害がある。読み書きが出来なかったり、コミュニケーションがあまり上手じゃない。でも、いい人。

産みの母親も軽い知的障害だったようで、祖母が孫の面倒をみていたことを聞いていた。

私には、兄・姉・妹がいることになる。

そんな中で、経済的にもきっとこれ以上子供を預からないように…と話したことがきっかけだったのかもしれない。


ただ、私を捨てて一年もしない間に妹が産まれている。


私もこの事実に苦しんだ幼少期がある。

うる覚えだが、従兄弟に

「本当は俺の妹なんだ」

と言われたことを母に話すと、翌日、従兄弟は母と祖母からこっ酷く叱られていたのをみて、

(なんでそんなに叱るんだろう?)

と、不思議に思ったことからなんだか、引っかかっていた。

小学生の三年生辺りだったか、近所のおばさんに

「貴方かわいそうにね〜出て行った産みのお母さんのことは知っているの?」

と言われた。

確かその場を笑って誤魔化して走って家へ帰ったが、流石に母には言えなかった。

そんなことを、ちょくちょく繰り返され大きくなると、話し方は似ていても父とも母とも兄弟とも顔が似ていない、周りの友達からも言われたりもした。

私:「そう?私昔の若い頃のお母さんに似てるって言われるよ!」

と、言い返していた。


しっかりと事実を伝えられたのは、私が夫と結婚すると決めた時だった。

母は泣きながら、

母:「いつか、いつか言う日がくると思っていたんだけど、実はね、実のお母さんじゃないの。でもね、私の子供に変わりはないのよ。お腹を痛めてないだけで、私がお母さんなのよ。こんなにも早くあんたが結婚するとは思っていなかったから…伝えるのが恐くて嫌で。」

と言われた。

私も泣き、震える声で話した。

私:「お母さん、話してくれてありがとう。でも私にはお母さんはお母さんしかいないし、お父さんはお父さんしかいないの。それにね、ずっとずっと前から知ってたから、あんまり驚かないよ。」

と、話すと、母は飛び出すかもしれない程目を見開き驚いていた。



そして、今はこう思う。私の細胞はあの人のお腹の中で細胞分裂を繰り返してこの世に生をあげたことに間違いはないんだと、憎しみがなかったわけじゃない、感謝はしていないけれども、今私がここにいるのはあの人のおかげだと受け入れるしかない。

そして、家族に血のつながりはあまり関係ないのかもしれない。








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