第45話 第四階梯
「ふむ、これが探しても見つからなんだ、魔物の群れの正体か」
現れた犬の魔物の数は、二十。
百目樹に残されていた目の数と一致する。
「ここまで姿を変えるとは……第四
御当主様自身も太刀を抜き、
踏み込みからの、袈裟斬り。
それを魔犬は、後方に飛んで躱す。
「ちっ」
舌打ちする、御当主様。
見れば、魔犬は前脚を一本斬り飛ばされていた。
「頭を落とした思うたのだが」
どうやら、思い描いていた結果とは違うらしい。
不満げな御当主様に、危険と判断したのか他の魔犬も集まる。
「旦那様!」
珍しく声を張り上げた侍従頭へ、
「手出し無用。お主らは数名で当たれ、中々楽しめそうな相手だ」
にやりと笑い、太刀を握り直す。
兵達は指示に従い、数名で魔犬を囲む。
数としては、こちらが多い。
御当主様が仕留めきれない相手でも、注意をばらけさせ、その隙をついて攻撃を繰り返せば……。
「よしっ!」
「仕留めた!!」
程なくして、魔犬の一匹が目を貫かれ倒れた。
「次だ! 他の所へ加勢にっ!?」
掛け声を発する兵の背後で、倒したはずの魔犬がのそりと起き上がる。
しかも潰された目は元に戻っており、体を震わせた直後、内側から鋭い棘が突き出てきた。
「なっ!」
「ぐっ!?」
不意打ちを食らい、負傷する兵。
それでも、咄嗟に致命傷を避けるあたりはさすが。
兵達は即座に魔犬を囲み直し、起き上がりきる前に再び殺す。
今度は念入りに、目だけでなく魔犬の全身を滅多刺しにして。
「これなら……」
気を緩めず生死を確かめていると、しかし魔犬はまたも息を吹き返した。
異常な事態に、周囲に目を向ければどこも同じようなことが起こっている。
なのに恐慌に陥る者がいないのは、日々鍛えている成果だろう。
でもそれを嘲笑うかのように、魔犬は何度倒されても蘇ってくる。
しかも、あたしの気のせいでなければ……。
「つよくなっている」
スサノオが、魔犬を凝視し呟く。
戦い続けることで、疲れから兵の動きは鈍くなるだろう。
ただそれとは無関係に、魔犬は傷付き倒される程、強さを増していた。
スサノオはともかく、素人のあたしでも分かるくらいだから、実際に戦っている兵達はより実感しているに違いない。
と、呑気に眺めていたのが悪かったのだろう。
包囲を突破した一匹の魔犬が、あたし達の方へ向かってきた。
あたしとスサノオの周りにいた兵は、既に苦戦する所の支援に行っている。
つまり、あたし達だけで対処する必要がある。
スサノオが、太刀を構えあたしを守るように前へ出る。
けど刀術を習い始めて日の浅いその切っ先は、乱れていた。
牽制にすらならないことを、スサノオが一番分かっているはず。
にも拘わらず、あたしのために……。
その想いを嬉しく感じながら
覚悟はとうに決めている。
「クシナ!」
スサノオが、いつになく大きな声を出す。
あたしは瞼をぎゅっと閉じ、魔犬のもたらす痛みに備え……あれ?
痛みが、やってこない??
恐る恐る目を開けると、なぜか魔犬はあたしの数歩先で止まり、忌々しそうに一つきりの目をこちらへ向け、やがて他の者の方へ駆け出した。
どうやら助かったらしいけど、理由が全く分からない。
その後、御当主様の命で一度皆で固まり、円陣を組むことになった。
なお移動する間、ぶすっとした様子であたしの手を引くスサノオが子供っぽく、可愛いと思ったのはここだけの秘密。
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