第44話 攻防流転
元の色であれば、美しく奇跡のような光景と思ったかもしれない。
けど黒く染まった花弁がまとまって動く様は、まるで虫の大群だ。
迫りくる花弁の群れに、臆せず対処する兵達。
ある者は一瞬の間に太刀を何度も振るい、斬り落としている。
しかし数が多く、何枚かは迎撃を抜け通り鎧を撫でた。
「!?」
驚いた様子で、急に兵が距離を取る。
鎧を見れば、一筋の傷跡が生じていた。
「無数に舞う花びら、その一枚一枚が刃と化しているか」
興味を取り戻したのか、御当主様が口の端を軽く上げる。
「だが、これしきで狼狽える半端者はおらぬな?」
その言葉に、兵達が無言で表情を引き締め新たな動きを見せた。
散会した状態から、数名で固まり妖術を放つ。
吹き荒れたのは、炎。
一斉に放たれた炎が、瞬く間に花弁を焼き払う。
しかし散った花は再び咲き、即座に散ってはこちらを狙い飛んでくる。
その過程があまりに早く、炎の術を使った者の対応は間に合いそうもない。
ただ花の襲撃は、分厚い土の壁により防がれていた。
土の妖術を得意とする者達が、既に備えていたらしい。
更に兵達は止まらず、鋭い音が発せられる。
風の刃だと気付いたのは、百目樹の枝がばらばらと落ちたから。
そして枝が減ったのと同時に、弓を手にした兵達が幹の目に向け矢を射る。
先程とは逆の立場に追い込まれた百目樹は、残された枝で矢を払うも全てとはいかず、目の数を一気に減らされる。
残された目の数は、既に二十。
このまま倒せるのではないか。
そう思った思った、矢先。
「
百目樹が雄叫びを上げた。
今までのような、痛みを訴えるものじゃない。
明らかに、怒りの声。
そして変化は、三度訪れた。
今度は地上じゃなく、地中。
立っていられない程の振動と共に、次々と地中より現れた太い根が、球根のように膨らむ。
やがて根を割り現れたのは、尻尾のない一つ目の黒い犬。
その目は赤く、黒い靄の中で怪しく光っていた。
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