第13話 不安と不穏


 その後は会話もなく、半刻はんとき程都の中を歩いた。


 見回りの途中、特に問題は起きず。


 というより、御当主様が姿を見せた瞬間に問題になりそうな事柄が消えるというか。


 まあ、あの威圧感を前にすれば無理もない。


 やがて御当主様の足が止まったのは、あしたが都で見た中で一番大きな家だった。


 立派な門構えと、遠くまで延びている塀。


 そして中に控えるのは何部屋あるのか想像もつかない、黒い瓦が敷かれた家、というより屋敷。


 庭も広いのか、塀を越えて背の高い樹々が幾つも顔を覗かせている。


 呆気に取られていると、御当主様がつかつかと門の中へと入っていくのが見え、あたしは慌てて後を追った。


 すると特に報せがあった訳でもないのに、艶の無い長羽織を来た青鬼が出迎えた。


 歳は五十を過ぎているだろうか。


 皺のある顔は歳相応だけど、短く切り揃えた青い髪が実際より若く見せている。


「お帰りなさいませ、旦那様」


「うむ」


 短く応え、御当主様が笠を外し手渡す。


 笠の下から現れたのは切れ長の目に、肩まである黒髪、そして同色の二本の角。


 青鬼と違い顔に皺はなく、三十歳と言われても違和感がない。


 けど本当に驚いたのは、別のこと。


 御当主様も鬼だったのか……。


 驚愕するあたしへ、笠を受け取った青鬼の目が訝しそうに向けられる。


彼奴あやつの新しい世話役だ。侍従頭じじゅうがしらのお前が、すべきことを教えてやれ」


「畏まりました」


 青……侍従頭がその場で深く一礼する合間に、御当主様が屋敷の奥へと進む。

 

 その姿が見えなくなるのと同時に、侍従頭が頭を上げる。


 そしてあたしを一瞥するなり、納得したように頷いた。


「なるほど、これまで者を選ばれたか」


 納得するのはいいけど、どうにも不安になる言葉が混ざっている。


 試すとは一体……。


 更に言えば、これまで者達がどうなったのかも気になる。


 ただ、その行く末は直ぐ教えられた。


「これまでの世話役は一月と持たずに気が触れ、私が始末するか勝手に自害したが……さて、此度こたびはどこまで持つのやら」


 うん、知りたかったけど知りたくなかったなあ……。


 あたしの中で不安が急速に膨らみ、不穏へと変化したのは一瞬のことだった…………。

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