陰キャと学校一の清楚美少女が付き合うまでの「お手伝い」をする~マッチング率100%の最強キューピッドは性格がゴミカスだそうです~
下蒼銀杏
前編
「す、すぅ、すきっ、すっ、好きでっす!! つきあ、あっ……つ、付き合ってくだしゃ、あっ……」
ボサボサの黒髪男は、ひゅっと息を吸った。
「ボクと付き合ってください!!!」
夏。テニスコート前。午後6時過ぎ。
部活動終了のチャイムが鳴ったすぐ後のことだった。
テニスボールでいっぱいのカゴを持っている彼女――
「え、えっと……土岡君? 今、なんて言ったの?」
水無月の紫陽花のような色の瞳が揺れる。
そして、夜のように魅惑的な黒色のポニーテールをなびかせ、カゴを足下に置く。
男――
「ボ、ボクと付き合ってください!!!」
水無月の息を呑む音が、土岡の耳に届く。
静寂。
後、嘲笑。
「ぎゃははははははは! オマエみたいな陰キャが紫帆と付き合えるわけないでしょ」
「おもろっ。マジウケる」
告白のことで頭がいっぱいになっていた土岡は、水無月の周りにも複数の女子部員がいたとようやく気付く。
その中の一人が土岡のカバンについている缶バッチを引きちぎって、言った。
「あ、これオタクが好きなヤツっしょ。女の子に告るのにこんなんつけてるとかマジ論外なんですけど(笑)」
「ちょっと! そんな汚いのこっちに向けないでよ!!」
「捨てちゃえ捨てちゃえ」
パチン、と女子部員の手から弾かれた缶バッチは、自動販売機の隙間に姿を消した。
「ああっ! ボクの……」
「うっわ、こいつマジ!?」
「自販機の下に手、突っ込んでる。必死すぎ」
「きっも」
缶バッチを取り戻そうとしている土岡を見下す女子部員たち。
ただ、水無月だけは違った。
「だめだよ、そんなことしちゃ」
嘲笑う女子部員たちを咎める水無月。
しかし、女子部員たちは嘲笑を止めようとしない。
「いいんだって、紫帆。こーゆーキモイ奴はこのくらいやんないと粘着されるんだから」
「そうそう。身だしなみをちゃんとしてないオタクなんて中身もゴミに決まってるんだから」
「でも乱暴なことはしちゃダメだと思うよ」
「紫帆みたいな優しい女の子がキモイ奴にストーカーされちゃうの。だからきっぱり拒絶するべきなの」
ピクリ、と土岡は肩を震わせた。それは怒りだった。
「ボクはストーカーなんかしたことない!!!」
「急に怒鳴るじゃん。やば、どうせキモいオタクはやってんでしょ」
「人を勝手に犯罪者扱いするな!!!」
「あーはいはい。わかったから、早く消えてくれる? 臭いんだけど」
しっしっ、と追い払うジェスチャーがひとつ。ふたつ。みっつ――
顔を真っ赤にした土岡は、缶バッチや水無月紫帆にすら目もくれることなく、そそくさとその場を後にした。
「
誰にも聞かれることのない独り言を土岡はこぼす。
そして、土岡の視線の先では、校門前にいる
※
「なんで! いきなり! 今日! 告白! しちゃうん! ですか!!!?」
海のように澄んだ切れ長の瞳が怒りで波を打つ。
通学路からややはずれた小さな公園。人通りは著しく少ない。
土岡は所在なさげにブランコに揺られている。
「だって、ボクの中ではすべての準備が出来上がったし」
「あなたの外ではすべての準備が出来上がってないんです!!」
理解できないものを目の当たりにしたかのような表情で、月夜見は土岡を見下ろす。
「まず最低限身だしなみは整えてって言いましたよね? 髪もボサボサだし、爪もドラゴンくらい長いのやめてください」
「生娘を生贄にしていただけるならドラゴンは本望っすね」
「人の道を外れた倫理観も告白する前にどうにかしてください」
はぁ、とため息を吐く月夜見のことを気にすることなく、土岡は淡々と続けた。
「第一、お前ら”生徒会恋愛相談委員会”が無能なんじゃないの? やれ見た目だの、やれコミュ力だのそれができねえからボクみたいなオタクは困ってんの!」
「だからそういう気遣いができるように、私たち”生徒会恋愛相談委員会”がサポートしているんです! とにかく今回のような勝手な行動は今後一切とらないでください!」
「……ったく。成功率95%の肩書に釣られて来てみれば、なんの進展もないし。ただ色んな人から罵倒されるだけだし。おまけにボクのサポート役は人から借りたような言葉ばかり投げかける思いやりも胸も薄い変な女なの不憫すぎんだろ」
「下品な言葉遣いもやめてください。私も怒るときは怒りますよ」
こめかみをヒクつかせた月夜見は、昨日の出来事を思い返す。
※
「あのキモオタは諦めろ。あれは手遅れだ」
生徒会の一室。この部屋で最も大きなテーブルから生徒会長の一言が飛んできた。
スカートの裾をギュッと握りしめ、月夜見は言った。
「諦めません。私たち生徒会恋愛相談委員会は恋人を作りたいと望むすべての学生をサポートするべきです!」
「違うな。我々生徒会恋愛相談委員会はあくまで未成年版マッチングアプリのようなもの。全員に手を差し伸べる義理はない」
「だからといって土岡君を見捨てていい理由にはならないです。彼だって頑張れば彼女くらい作れます」
「世の中には向き不向きがあるだろう? あれがその最たる例だ。わかったらキモオタは見捨てて別の生徒をサポートしてくれ。相談者は他にも山ほどいるんだ」
生徒会長はそれだけ言い残し、生徒会室を去った。
ひとり取り残された月夜見は、棚から資料を引っ張り出し、黙々と土岡をサポートするための作戦を練り始めたのだった。
※
月夜見には信念がある。
生徒会恋愛相談委員会に所属している以上、依頼者の願いは絶対に叶えること。
マッチング成功率95%の内情はずばり、5パーセントを完全に見限っているということなのだ。
そんな日和見主義の生徒会に、月夜見は飽き飽きしていた。
だからこそ土岡にどれだけムカつくことを言われても、グッと踏ん張り耐え凌ぐことができる。
横柄な態度を取る土岡に対し、月夜見はまだ策はあると言わんばかりの、余裕が表れてそうな笑顔を無理やり作った。
「起きてしまったことは仕方がありません。とりあえず、明日の放課後にまた作戦会議をしましょう」
「しゃーないな。もうミスは許されないよ」
「お前が言うな。爪折るぞ」
今までブチぎれたことのない月夜見は、今日も今日とてブチぎれることなく一日を終えたのだった。
決して……。決してブチぎれたわけじゃない月夜見はなぜか目くじらをスタンディングオベーションさせていた。
弱々しい陽光を放つ夕日は、もうすでに半分沈んでいる。
※
「あ~~~~~~~もうムカつく」
翌日の放課後。
お手洗いを済ませた月夜見はのしのしと廊下を歩いている。
先ほどまで行われていた土岡との作戦会議を想起し、はらわたが煮えくり返っていたのだ。
(なんなの!? あの、絶対自分は努力しませんスタイル。何も美容にこだわれなんて一言も言ってないでしょ! 最低限の清潔感を確保してくださいって言ってるだけなのに。せめて歯は毎日磨いてくださいよ……)
わしゃわしゃと自らの頭を掻く月夜見。
(あと理想が高いのはいいですけど、なんで男性はみんな巨乳にこだわるんですか? 水無月さんは清楚で優しくて巨乳というオタクにとっての天使なんだとか言ってましたけれども。別に私が小さいから憤っているわけではなくてですね。決してそうではなくてですね。大きいと良いみたいな風潮マジで滅べよ……滅んでくださいまし?)
ここ最近は気落ちすることがしばしば。
ため息をすると幸せが逃げるとはよく聞くが、不幸が飛んでくるのもあり得るのだろうか。
「きゃっ!?」「わっ!?」
廊下の曲がり角で、月夜見は背の高い女子生徒とぶつかってしまい、二人とも尻もちをついた。
「すみません。お怪我はありませんか?」
「いえ、
「はい。私はなんと……も」
月夜見の視線の先には相手方のはち切れんばかりの豊満な胸部。
(そういえば、さっきぶつかった時、柔らかい何かが私の顔を覆いつくしていましたよね?)
顔面に残る沈み込んだ感触と甘い匂いとは裏腹に、じわじわとくだらない私怨が胸の内に広がっていく。
そんな月夜見の黒い感情のことなどつゆ知らず、自分のことを『不知火』と呼称した彼女はすくっと立ち上がる。
「月夜見さん、立てる?」
「なんで私の名前を知っているんですか?」
呆けた月夜見に二つ返事の不知火。
「不知火は人より少しだけ知識欲がすごいのよ」
月夜見が手を取り、ゆっくり立ち上がると同時に、不知火は矢継ぎ早にこう言葉を並べた。
「月夜見朱莉。17歳。好きな食べ物はししゃも。嫌いな食べ物はハンバーグの付け合わせに出てくるにんじん。趣味は動画サイトのコメント欄に見どころのシーンのタイムスタンプを残すこと。ほくろは首筋に一つとあと左……」
「そこまでにしていただけますか!?」
あと少しで恥ずかしい事実が晒されてしまいそうになり、顔を真っ赤にする月夜見。
不知火は軽快に一歩後ろに下がって、不敵な笑みを浮かべる。
「そして、生徒会恋愛相談委員会に所属。今は依頼者、土岡緑太の件で悩んでいる」
月夜見はただ閉口する。
まるで刃物を突きたてられているかのような。
あるいは背中を見せたら即座に襲ってくる熊と対峙しているかのような。
兎も角、隙を見せてはいけないオーラを月夜見は感じ取った。
出方を慎重に窺う月夜見とは対照的に、不知火は麦わら帽子を被った田舎のお姉さんのようにあどけなく破顔する。
「手伝わせてよ、その件」
要求内容は至極単純だったため、月夜見の強張っていた身体は一気に弛緩する。
「……本当にいいんですか? 大変ですよ?」
恋愛相談委員会はワークシェアリングを是としている。
また土岡自身も、学校全体に言いふらさないのであれば、他者に協力を求めても良いと言及していた。
ひとりで抱え込むことに多少なりとも限界を感じていた月夜見からすれば、悪くない巡りあわせだ。
不知火は「ええ」と頷くや否や、土岡が待っている教室へと、月夜見の手をグイグイと引っ張っていった。
そして、土岡に有無を言わさず、そのまま一緒に、とある一室へと連れてこられた。
そこは校舎の隅の隅。
まるでこの教室だけ学校から切り取られたかのような静けさは、まさに嵐の前を彷彿とさせていた。
※
「
不知火の奥行きのある声が、閑散とした教室に響く。
運動部の掛け声も吹奏楽の音色も何もない。
教室という見た目のみが、この空間を学校たらしめている。
そして、不知火が呼びかけたであろう金粕という男は教卓に足を乗せ、まるでハンモックにでも揺られているかのようにゆったりと読書に勤しんでいた。
「あの……いきなり連れてこられてわけわかんないんすけど。誰ですか、あの人」
「土岡さん。金粕は失礼な人が大嫌いだから発言には気を付けてくれる?」
不知火に釘を刺され、やや委縮する土岡。
金粕のただならぬ雰囲気は、月夜見も感じ取っている。
ふたりが固唾を呑んでいると、金粕はパタンと本を閉じた。
次に月夜見、土岡の順で目線を送る。
「………………おっぱいは惜しいが、顔がいい。合格!!!」
「は?」
月夜見はまだ金粕に何を言われたのか処理しきれていないが、脊髄反射でキレなければいけないと思ったようだ。
その様子を横目に金粕は続ける。
「………………なんか汚い。不合格!!!」
しっしっと払いのける仕草を土岡にひとつ。
「能ある鷹は爪を隠すならぬ能なしトンビは爪大放出か? 俺とご対面した縁とその長い爪を今すぐに切ってくれないか。あ、隣の女の子はこっちでお話しようよぉ~。じっくりお声を拝聴したいなぁ~」
「「こいつが一番失礼だろ!!!!」」
珍しく月夜見と土岡のセリフが重なった。
「なんなんですか!? このSDGsから最も遠いところにいそうな男性は」
「いそうじゃない。いるんだ。環境保護だの人類平等だのうまい空気を吸いながら高らかに謳ってる奴を見ると反吐が出る。あんなもん、ご冥福をお祈りされる瞬間が一番のSDGsだろ」
「誰かガムテープ持ってないですか? この人の口を塞ぐことでいくつかのトラブルを防げそうな気がします」
月夜見はズカズカと金粕との距離を詰める。
その二人の間に不知火が割り込んで、
「まあまあ落ち着いて。喧嘩しに来たわけじゃないわよね?」
「そうですけど、この人がいるところで話したくないです」
「ツクちゃんの気持ちはわかるけど、大丈夫。安心して。金粕は元生徒会恋愛相談委員会の一員なの」
「そうなんですか!?」
ツクちゃんと呼ばれたことよりも後の情報が衝撃的で、月夜見は目を剥く。
一方、不知火はなぜか楽しげに金粕の人物像を語り始めた。
「
「不知火が人を呼んでくるからだろ。俺はできればモテない奴となんか関わりを持ちたくないんだよ」
「意外にすごい人? 金粕さんは恋愛についてとても詳しいということですか?」
嫌悪感を忘れ、興味の眼差しを向ける月夜見。
不知火は飄々と返答する。
「ええ、それはもうすごいわ。なんてったって、金粕は恋愛で失敗したことがないのだから」
「ええ!? そいつはすげえや! いわゆる師匠って奴だ。ボクの師匠だ!」
唐突に土岡が身振り手振りを使って、興奮を表している。
土岡の様子に少し気持ち良くなったのか、金粕は口元をもにゅもにゅさせた。
「おうおう、苦しゅうないぞ。恋愛のことなら何でもわかるからな。もっと崇め奉るといいぞ」
「でしたら、金粕さんの恋バナ聞かせてください。勉強になるかもしれないので」
月夜見が勤勉な姿勢を見せ、金粕は即座にこう答えた。
「ない」
「え?」
「彼女いたことない童貞だし、ない」
「え、でも何でもって……」
「恋愛で成功したって誰も言ってないし。そもそも失敗したことないで察せよ。バーカバーカァ。まぬけ~」
「このカス。お金払うから合法的に殴らせてほしい」
今に振り下ろさんとする握り拳を尻目に、ゲラゲラと嘲笑の限りを尽くす金粕はビシッと月夜見を指差した。
「ちょっと話してわかったが、この女は俺が最も嫌いなタイプだ。いくら顔が綺麗でも正義面が全部を帳消しにしてるんだよ!」
「私のことをわかったような口利かないで」
「ここに
「それの何がいけないんですか!?」
「不可能だからだよ! みんなを救えるのはJ○MPの主人公だけだァ!」
「そうやってすぐに諦めていると、救える人も救えなくなりますよ」
「神でもないくせに救う側に立つな。お前みたいな奴が大抵『結果が全てではありません。努力したことが大切なんです』って勝手にごまかすんだろ。土壇場で目的地変えるな。デート初心者か」
「あなたはひねくれすぎです。それに、エ○モだって言ってました。『親切は大事。なぜなら、あなたが誰かに親切すれば、その人は誰かに親切してくれるからです』って」
「セサミ○トリートから名言引っ張ってくる奴初めて見た」
「やっぱりこんなカスに手伝わせたくないんですけど?」
「それはこっちのセリフだァ! せいぜい跡を濁さないように爪長トンビを連れて帰ってくれ」
「爪長トンビではありません。爪岡……あっ、間違えました。土岡君です」
ここで不知火がカットイン。
「二人とも。爪の長い人が泣いているわ」
「こうなりゃ意地でも爪伸ばしてやる!」
「土岡君、もう出ましょう。こんなカスが恋愛相談に乗れるわけないです。嘘に決まってます!」
真顔の土岡の首根っこを引っ張って教室を出ようとする月夜見。
だが、その直前で小太りの男子生徒が勢いよく入室してきた。
「金粕先生! やりました! オレやりましたよ!!」
走ってきたのか、ぜいぜいと息を切らしている。
息を整える間もなく、彼は謝辞を述べる。
「好きな子と付き合えることができました! 金粕先生に言われた通り、諦めないで本当に良かったです! ありがとうございました!!」
「そうかそうか。まあ、こっからが正念場だ。がんばれ」
金粕とそれから一言二言交わした後、その男子生徒は一目散に教室を出ていった。
どうやらこの後、その彼女とデートらしい。
一瞬、静まり返ってから土岡が言った。
「金粕さん! いや、金粕先生! 厚かましいお願いではございますが、このボクにもどうかお力添えいただけないでしょうか?」
すると、金粕は嫌悪感丸出しの顔で、
「お断りだ! 不知火。爪長トンビと
と切り捨てた。
しかし、不知火は食い下がる。
「ざ~んねん。せっかく金粕に見せたい新作があったのに~」
「なにっ?」
急に眼の色を変えた金粕に対し、おもむろにスマホの画面を不知火が見せつけた。
そして金粕はそのスマホをガバっと奪い取り、まるでクヌギの木の蜜に群がるカブトムシみたいに、一心不乱に画面に目をくぎ付けにされている。
不思議に思った月夜見は疑問を投げかける。
「不知火さん。何見せてるんですか?」
「二次元美少女の新作オリジナル18禁漫画」
「は?」
「不知火はイラストレーター兼漫画家なの。えっちなのも描くわ」
「は、ちょ……えっちってそんな……ぁ」
「ちなみに金粕は今、細身のキャラの生足見て発狂してるわ」
不知火が指差した方向には、
「おおおおおおおおおおおおおおぉっほおほほおほほほおおおおおお」
動物のような鳴き声を発する金粕に向けて、不知火は妖艶な笑みを浮かべる。
「土岡さんの件を手伝ってくれたら、完成版を見せてあげるわ」
「やっちゃうのおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっぉおぉおぉぉ」
金粕はバレリーナのように踊り狂う。
「商業では一切出回らない、世界で俺だけのMA☆N☆GA! まーたコレクションが増えちゃうなぁ!」
「ボクにも見せてください、先生!」
「見せるわけないだろ、爪長トンビ! お前がやるべきことはさっさと彼女を作ることだ。わかったら黙ってこの俺に従っておけばいいんだよ!」
「先生!」
「なはははははははははははははは!」
高笑いが鳴り響く中、気を失いそうになっている女子が一人。
「不知火さん。この男はいつもこんな感じなんですか?」
「ええ。最初は恋愛相談に乗ることを渋るけれど、不知火が餌を撒くと簡単に釣れるわ」
「なんで相談に乗らせようとするんですか?」
「深い意味はないわ。単純に面白そうだから火をつけているだけ」
「はぁ。さいですか……」
眼前の展開についていけなくなり、考えることを放棄した月夜見。
その横でクスクスと不知火は笑って、
「で? ツクちゃんはどうするの?」
「どうって……」
ため息を吐きつつ、月夜見は何も喋らずにスタスタと金粕の方へ歩みを進めていく。
土岡とバカ騒ぎしている金粕の視界には月夜見の姿は入っていないようだ。
金粕が気づいた時には、すでに月夜見に壁ドンされていた。
恋愛的ではなく、宣戦布告的な意味合いでの壁ドンである。
凛とした目つきで月夜見は言葉を放った。
「土岡さんの件を丸投げするわけにはいきません。私も引き続き従事します」
月夜見の黒く滑らかな長髪が蝶のように揺れる。
金粕は息を呑む。
「ちょちょちょ、ち、近い近い! 離れろっ!」
「慌てすぎじゃないですか?」
金粕の慌てっぷりに、疑問符を頭に浮かべる月夜見。
外野から不知火が回答する。
「ツクちゃんのお顔って金粕のストライクゾーンど真ん中なのよ」
「ち……違うし、全然違うしっ……」
「へぇ~。さっきまであんなに調子に乗ってたのに、今はずいぶんしおらしいですね。だったらこういうのは……好き?」
月夜見はいたずらっ子のように目を細め、髪を耳に掛ける仕草を見せつける。
彼女のまつ毛が見えるほどの距離に追い詰められている金粕は、必死に目を逸らす。
「す、好きじゃないし……。その仕草の魅力とか全っ然わかんないしっ……」
「嫌いな人間が弱ってるのを見るの楽しい~」
月夜見はまるで温泉に入った時のように恍惚とした声と表情で、金粕の顔を覗き込む。
すると、またもや外野から不知火が追い打ちをかける。
「そういえば、前にツクちゃんに似たイラストにガチ恋しそうになってたわね。『屈服させたい~』とか言ってたものね」
「い、い、い、言ってないしっ。そんなん絶対言ってないしっ……」
「待って、それは怖くて私にも効く」
悪夢から目覚めたかのごとく、月夜見は金粕からガバっと退く。
不知火は月夜見の傍で穏やかに諭す。
「大丈夫。金粕にそんな度胸、ミジンコほどもないから」
「お前らホント舐めんなよ! 俺のこと舐めんなよ!」
震える声で金粕は叫んだ。
そのまま黒板の方へ足を運び、教卓の上に乗る。
教卓を踏み台にした金粕は、この場にいる全員を見下ろして、
「爪長トンビの依頼なんかさっさと片付けてやるぅうぅぅぅ!!!」
ガニ股で舌を出し、親指と人差し指と小指を立てるという変なポーズでそう宣言した。
やはり、この教室だけ学校から切り取られたかのような空気を月夜見は感じ取った。
※
「で? 今まで君らは一体何をやってきたの?」
教卓に足を乗っけたまま、金粕は月夜見にそう尋ねた。
先ほどまで激しい舌戦を繰り広げていたとは思えないほど静かな教室で、四人は爪長トンビこと、土岡緑太のマッチング作戦を練っている。
「やってきたといいますか……」
「月夜見さんはボクにあれやれこれやれって指図ばっかりしてくるんすよ」
半ばため息交じりに視線を逸らす月夜見に対し、土岡は不満をぶつける。
「当たり前です! 土岡君が狙っているのは学校一の美少女――
「だから何だって言うんだよ!」
「高嶺の花なんですからより一層モテるための努力をしないといけないに決まってるじゃないですか!」
声を張り上げる月夜見に、不知火が助け舟を出す。
「水無月紫帆さんは容姿端麗、頭脳明晰、おまけに誰に対しても優しく接する性格の良さ。決して裕福ではない家庭の四人姉妹の長女らしく、アルバイトで忙しいのに交友関係も豊富。嫌味ひとつ言わない聖人っぷりから男性だけでなく女性からも慕われているし、ツクちゃんが高値の花って称するのも頷けるわね」
「そうなんですよ! だからこそ土岡君には色々と提案してきましたのに、面倒くさいだの必要ないだの文句ばっかり。やってきたかったのに、実質まだ何もできてないんです。それなのに、昨日土岡さんがいきなり告白しだすんだから、もう胃が痛いですよ」
「それは、こう……なんかフィーリングでビビっときたんだよ。告白するなら今日しかないって」
ヘラヘラと、親の脛をかじるニートのように笑いながら、土岡は続ける。
「第一、月夜見さんの言い方が癪に障るんだよな。『私の彼氏はこうだった』とか何のアピールだよって感じ」
「実体験の方が説得力あると思っただけで、他意はないです!」
食い気味に反駁する月夜見。
しかし、金粕は少し論点からズレたところにフォーカスする。
「
「……………………っ」
「おーい月夜見朱莉~。お前に聞いてるんだ~」
「…………別れました」
「…………………………ぷ」
「今、笑いました?」
「いやっ?」
ここで土岡が横槍を入れる。
「彼氏が巨乳の先輩とキスしてるとこ見たらしいっす。月夜見さんはいわゆるキープにされてたってわけ」
「土岡君のデリカシーの無さも矯正の対象ですからね」
……………………。
……………………。
……………………。
「…………………………ぷはぁっ」
気まずい沈黙を切り裂く、金粕の笑い声。
全員の視線が金粕に集まる。
「キープが上から目線でオタクくんに恋愛相談…………ぷはぁっ」
「ねえ、知ってますか? 中世ヨーロッパの男性は同性の股間にだけは拷問しなかったらしいですよ」
「もう笑いません」
「出せよ、そのちっさい延べ棒。蹴り砕いて金粉にしてやる」
月夜見は青筋を立て、金粕をにらみつける。
彼女の口調から、とめどなく闇が溢れ出ている。
「ハイハイ、そこまでよ」
不知火が手拍子を鳴らし、話を戻す。
「金粕が余計な方向に持っていったからややこしくなってるけれど、不知火はツクちゃんが土岡さんに何を提案してきたのかが気になるわね」
そう言われて、月夜見はこほん、と咳払い。
荒ぶる気持ちを落ち着かせてから、語る。
「例えば、美容院で髪を切ってもらうだったり、服をマネキン買いしてみるだったり、そういう誰でもできる簡単な努力を提案しました」
「うんうん。確かに見た目の清潔感は大事よね」
「あとは、人とコミュニケーションを取る時はとにかく聞くことに注力してくださいと言いました。相手を知ろうとする姿勢が大切だということも合わせて伝えました」
「女の子の多くは自分の話を聞いてもらいたいって考えるものね。一般的な分析をもとにツクちゃんは頑張ったのね」
「さすが、不知火さんはわかってくれると思いました」
「ツクちゃんの真面目さがひしひしと伝わってくるわ。金粕はどう思う?」
「カスアドバイスだ、耳が壊れる」
小指で耳クソをほじる金粕。
あんぐりと口をだらしなく開く月夜見。
小指に付着した耳クソをふっ、と吹いてから言った。
「一度、非リア成り上がり系ラノベとしてどこかの賞に応募してみたらどうだ? 二番煎じでなければ世のオタクたちから高い評価を得られるだろうな」
「そこまで言うなら、あなたは私よりさぞ上等なアドバイスを送るんでしょうね?」
「いいだろう。
「一ミリたりとも垂れてません。印象操作はやめてください」
教卓から脚を下ろし、金粕はビシッと月夜見に指を差した。
「ヤンキーに襲われている水無月紫帆を爪長トンビに助けさせる」
「……はぁ?」
「ポンコツ偽善者の小さい脳みそでも理解できるように補足してやる。つまりは、マッチポンプで出会いを演出するということだ。以上」
月夜見だけ時が止まったかのように微動だにしない。
そのすぐ傍で金粕が、
「隣町のヤンキーたちをひとつまみ頂けるか?」
と不知火に問い、彼女は彼女で、
「明日にでも用意できるわ」
と当然のごとく答えている。
月夜見と同じように事態を把握しきれていない土岡が、おずおずと訊ねる。
「えっと……それはつまり、ボクが水無月さんを助けるお膳立てを金粕先生が整えてくださるということですか?」
「同じことを二度も言わせるな。理解したなら、今のうちにシャドーボクシングでもしておけ」
「任せてください、先生! こう見えてボクは漫画やアニメを参考にバトルシーンを日々イメージトレーニングしているので、ヤンキーくらいなら楽勝っすよ」
「片肘張らなくてもいい。こっちで用意するヤンキーはガチで水無月紫帆や爪長トンビを襲ったりしない。
「こんなんマジでラノベの主人公みたいになれるってことじゃん。金粕先生サイコーすぎっす」
両の手を天に掲げる土岡。
月夜見はその様子にほとほと呆れ、ぐらぐらとふらつく。
「そんな小手先の作戦が上手くいくわけないでしょ」
「ならば食パン曲がり角クラッシュか? だが、キモオタにぶつかられても、ただ殺意が湧くだけだしなぁ」
「正式名称なんてないはずなのにはっきりとシーンが思い浮かぶのはなぜ……じゃなくて! そういう非日常のピンチに白馬の王子様が颯爽と現れて、助けられた女の子が惚れちゃう、みたいな展開は創作物の中だけということです」
「なぜそう断言できる?」
「はい?」
食い気味に発せられた金粕の質問に、月夜見は面食らい、やや間を空けてから主張する。
「女の子は好きでもない男性に助けられただけで好意を抱くほど単純じゃないからです。現実と理想をごっちゃにしないでください」
「そうか。では、実際に助けられたけどその相手に好意を抱かなかった女子をここに連れてきてくれないか?」
「私の周りにはいないですけど……」
「ならばお前の主張は根拠のないただの妄想にすぎないな」
「根拠なんてなくてもちょっと考えればわかることでしょ! 私以外の女性、いや男性だって私と同じことを言いますよ、絶対」
「いいや違うな。『白馬の王子様なんて現実にいるわけない』が世の中の主張だ。誰も『現れた白馬の王子様に惚れない』とは言っていない」
「そんなの屁理屈でしょ」
「屁理屈かどうかは、君の目で実際に見てみるといい」
すまし顔の金粕は土岡の肩に手を置く。
「決行日は追って連絡する。せいぜい残り僅かの童貞生活をエンジョイするんだな」
「はい、金粕先生!」
ビシッと敬礼のポーズをとる土岡。
月夜見は泣きそうな目で窓の外を眺める。
灰色の空の下で、木々がこそこそと揺れていた。
※
「確か、ここの路地を右に曲がるんだったな」
スマホの地図アプリを開きながら、土岡は帰路についている。
しかし、いつもと同じ帰路ではない。
水無月紫帆が日常的に利用している、人通りの少ない路地である。
日も落ちかけていて、辺りは暗い。
あの話し合いから数日後の今日。
金粕と不知火からすべての舞台が整ったと聞いて、決行日を迎えたのだった。
「次の曲がり角を左に曲がった先で、水無月さんを待ってればいいんだよな」
今までに味わったことのないタイプの緊張感からか、土岡の足取りが重い。
まるで足の裏に接着剤でもついているかのようだ。
定位置につき、息をひそめる土岡。
当然、待ち伏せしていることがバレたら不自然に映ってしまう。
あくまで偶然を装う必要があり、そのことがかえって土岡の心臓を激しく鼓動させている。
(来た!)
前方から部活帰りの水無月紫帆だ。
彼女はいつも一人で下校している。
今日も例に漏れず、無防備に歩いている。
「ねえ、君、一人?」
そう彼女に話しかけたのは四人のヤンキーたち。
水無月の逃げ場を四方から塞ぐような陣形だ。
急に話しかけられた水無月は、驚きながらもすぐさま早足でその場を後にしようとするが。
「おぉっと。待ってよ、そっけないな。ちょっと話そうよ」
「すみません。急いでるので」
「家に帰るだけでしょ? 部活帰りなの丸わかりだよ」
「……塾があるので」
「さぼっちゃおうよ。俺らと遊んでた方がぜってえ楽しいって」
「あの……本当に困ります」
ギュッとバッグを握る手から、水無月の恐怖度合いが窺い知れる。
ヤンキーたちは水無月の前に完全に身体を入れ、立ち往生になっている。
その状況を物影から凝視している土岡。
事前に聞いていた計画通りなら、ここで颯爽と登場し、水無月の手を引っ張って連れ出すというシナリオなのだが――
(やば。コワイ)
ヤンキーのクオリティが高いのか、それとも土岡が根っからのビビり体質なのか。
ブルブルと子犬のように震えるだけであった。
(やっぱもうやめて帰っちゃおうかな。どうせボクなんかがこんなことしても無駄だろうし)
土岡はすでに諦観の念で心中が埋め尽くされていた。
足が重くなればなるほど、言い訳がとめどなく溢れだしてくる。
踵を返し始めたその時、ヤンキーたちの元に黒いワゴン車が到着する。
それと同時に、ヤンキーの一人が水無月の口を手で覆い隠した。
「んんんっ!!?」
焦る水無月の両手をヤンキーたちは間髪入れずに掴み、拘束。
ワゴン車から顔を出す別のヤンキーが言う。
「ほら、さっさと車ん中入れちまえ。いつもの倉庫でオレらがその子の保健体育の先生をしてやんなくちゃいけないんだからさぁ」
(おいおいおいおいおいおい。金粕先生から聞いてた話と違うぞ。水無月さんには指一本触れないって予定だったはずなのに。ていうかあれって拉致じゃね? ガチでヤバイって……)
未だ物影から出ようともしない土岡は、焦燥感に駆られていた。
だが、それは水無月の身の危険を案じるというよりも、犯罪に首を突っ込んでしまったのではないかという自身への心配である。
(まだ誰にも見られていないし、知らなかったことにすれば何とかなるよな)
もう土岡の脳みそは、この場から逃げ出すための言い訳を思いつくだけの装置と化していた。
まるで万引きがバレたかのように、はぁはぁと息を荒げていると、ふと、水無月の姿がくっきりと目に入った。
「――――――――ッ」
土岡に向けて発したわけではない。というより地球上で助けてくれそうな人全員に向けて発せられたのだろう。
水無月は何かを必死で訴えた。
もちろん口を塞がれているので、明確に聞き取れるわけではなかった。
だが――
「お、おいっ! その子を離せ!」
土岡はどこかの漫画から借りてきたかのようなセリフを吐き、ヤンキーたちの前に立ちはだかった。
(コワイコワイコワイ。なんで逃げなかったんだよ、ボク)
足がスマホのバイブレーションみたく震えている。
恐怖心は今もなお、こびりついてはいるが、そんなメンタルよりも身体が先に動いたようだ。
「あ? どうした? お前も一緒に楽しむか?」
ヤンキーたちは闖入者に最初は驚いたが、土岡を見るや否や、舐め切った笑顔を見せる。
手持無沙汰のヤンキーが一人、じわじわと土岡の方へ近づいていく。
距離と比例して、土岡の拳もどんどん震えていく。
しかし、この震えは恐怖だけでなく、確実に武者震いの要素も孕んでいた。
そして一呼吸置いた後、土岡は血相変えてヤンキーに突撃していく。
「水無月さんが『助けて』って言ったんだよぉぉおおぉお!!!」
「うるせえ、黙れよ」
ヤンキーは土岡のパンチを軽々と躱し、流れるような動作で膝蹴りを腹部にヒットさせる。
加えて、間髪入れずに路地の壁に土岡を投げ飛ばす。
「かはっ!?!」
肺の空気が全部押し出されたような感覚に陥り、項垂れる土岡。
(やっぱ話と違う。一縷の望みにかけて金粕先生が用意したヤンキーたちかと思ってたけど、約束通りならボクに対しても手を出してこないはずだしな。あぁ泣きそう。なんでボク、こんな目に遭ってんだよ)
勇気と臆病が渦を巻いて、土岡の表情がぐちゃぐちゃになる。
だが、今一度車に押し込まれそうになっている水無月が目に入ると、土岡は再び立ち上がれた。
「友達が一人もいないボクって本当に生きてる意味あるのかなって、ずっと考えてた」
「あ? なんだよ急に」
「とはいえ自分の命を絶つことは怖くて、選択肢には一切入らなかった。ずっと臆病な自分に嫌気が差してたんだよ。なんとか変わりたいって。きっかけさえあればって何千回と言い訳してきた」
すぅと土岡は息を吸う。
「けれどお前らのせいでもうその言い訳使えなくなっちゃったんだよ。マジで責任取れよな」
「はいはい。寝言は寝てから言おうね」
「わかったんだよ、ボクが今まで生きてた意味!」
近づいてきたヤンキーに負けじと睨み返す。
「今、この瞬間! 水無月さんを助けるためにのうのうと生きながらえてたんだよ!!!」
ガッと叫んで、土岡はヤンキーの股間を思いっきり蹴った。
「あひょっ!?!」
不意を突かれたのは、蹴られたヤンキーだけでなく、水無月を拘束していた側も同様だ。
呆気にとられているうちに、土岡は一気に距離を詰め、ヤンキーたちの目元に向かって、ドラゴンくらい長い爪を振りかざした。
「うおっ。あぶねっ」
爪に怯えたヤンキーたちは、ふと水無月の手を離してしまった。
その隙に土岡が水無月の手を取り、一目散に走りだした。
通常なら余裕で追いつかれるだろうが、これ以上深追いして騒ぎになるのを嫌ったのだろう。
姿を晦ませることを優先したことで、土岡たちは無事に逃げ切りに成功した。
二人はひとまず大通りに出て、人目を確保。
タイミングよくタクシーが通りかかったので、土岡が手を挙げる。
「家、ここから遠いよね? 一人じゃ怖いだろうし、タクシー使って」
そう言って、水無月に一万円札を手渡す。
水無月は申し訳なさそうな顔で、
「こんな大金悪いよ。それにまださっきのお礼が――」
「その顔で感謝の気持ちは十分伝わってるよ。こっちこそかっこつけさせてくれてありがとう」
半ば強引に乗車席へ水無月を押し込む。
水無月は奥の席へ詰め、隣の席をポンポンと手で叩く。
「まだ色々と話したいことがあるの」
対する土岡は手を顔の前でひらひらと振る。
「いやいや、ボクみたいなキモオタが隣にいたら、それこそ水無月さんを怖がらせちゃうよ」
土岡は運転手に「もう終わります」と一言添えて、
「あと、外に出るのが怖かったら学校休むんだよ。理由に困ったら、『土岡に変な事された』って言っていいから」
「そんなこと絶対に言わないよ――」
「じゃあ、運転手さん。出してください」
水無月の言い分を最後まで聞かずに、土岡はバタン、と扉を閉めた。
ぶうんと勢いよく走りだしたタクシーの後ろ姿を見て、土岡はこう呟く。
「変わんなきゃいけないな、ボク」
その言葉は人知れず風に乗って、すでに黒くなった夜空に向かって飛び立っていた。
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