愛会い傘

口羽龍

愛会い傘

 夏は晴れが多い。だが、その中で突然雨が起こり、すぐ止む。夕立だ。夕立は突然起きる。それに驚き、ある人は雨宿りをし、ある人は洗濯物を屋内に入れる。


 下校の途中だった高校生の陽子(ようこ)は突然の夕立で駅の近くのコンビニの入口で雨宿りをしていた。イヤホンで音楽を聴いていた。だが、大きな雨音が雑音となって入ってくる。


 陽子は焦っていた。早く家に帰りたいのに、突然の雨で何もできない。どうしよう。早く帰らないと母が心配する。コンビニで傘を買うのはもったいない。


 突然、コンビニから人が出てきた。カップルだ。2人は相合傘をしている。幸せそうな表情をしている。自分も高校でこんな恋人と巡り合えるんだろうか? もし巡り合えたら、こんなように帰りたいな。


「大丈夫かい?」


 突然、男が声をかけた。男はスポーツ刈りで、体育会系のようだ。胸のワッペンを見ると、同じ学校の生徒のようだ。その男は傘を持っている。まさか誰かが声をかけてくるとは。


「傘を持ってこなくて」


 陽子は少し苦笑いをした。すると男は陽子に持っていた傘を差し出した。まさか、差し出してくれるとは。突然の事に陽子は驚いた。だが、このままでは家に帰れない。誘いに乗らないと。


「駅まで一緒に行こうよ。この時期、暑くて晴れる事が多いけど、夕立ちがあるからね。気を付けないと」


 男は笑顔を見せた。どうやらあの男は人懐っこい性格のようだ。怪しい人じゃないようだ。陽子はほっとした。


「あ、ありがとうございます。ところで、名前は?」

「勝也といいます」


 男の名前は勝也(かつや)。陽子と同じ高校の生徒だ。まさか帰り道で同じ学校の生徒に声をかけられるとは。


 2人は一緒に駅に向かう。駅には帰宅途中の生徒の他に、カップルが歩いている。彼らは今日の授業を終えた大学生だろうか? 陽子と勝也はまるでカップルのようだ。仲が良くて、笑顔が絶えない。


 2人は駅のホームにやって来た。駅のホームには多くの人がいて、電車を待っている。だが、朝に比べると少ない。まだ帰宅ラッシュではないようだ。それでも人が多い。


 しばらく待っていると、電車がやって来た。4ドア、10両編成の通勤車だ。車内には多くの人が乗っている。ただ、朝に比べると若干余裕がある。


「同じ高校ですか?」

「はい」


 陽子は笑顔で答えた。同じ高校というだけで、嬉しくなってしまう。どうしてだろう。


 電車がホームに着くと、ドアが開いた。それと連動して、ホーム柵も開く。それと共に、乗客が降りてきた。乗客が降りるのが終わると、ホームで待っていた人々の一部が電車に入った。2人も中に入る。中は清潔で、電車の案内をするLCDの他に、デジタルサイネージもある。


 2人が入ると、すぐに扉が閉まり、続いてホーム柵も閉まった。すぐに電車は動き出し、駅を後にした。車内は静かで、中には本を読んでいる人もいる。文庫本を読んでいる人もいれば、参考書や教科書を読んでいる人もいる。


「学校生活どう?」

「まぁまぁかな? これから慣れてくると思う」


 陽子は入学して3カ月ぐらいになる。最初はなかなか慣れなくて大変だったけど、徐々に慣れてきて、今では女友達もできる程になった。だが、男友達はできた事がない。勝也が初めてだ。


 しばらくすると、雨が上がり、雲が切れて、晴れ間が見えてきた。夕立は終わったようだ。陽子はほっとした。駅の近くのコンビニで傘を買わなくてもよさそうだ。


「もう晴れたか」


 勝也も笑みを浮かべた。雨だと気持ちが落ち込んでしまう。どうしてかわからない。ただ単に雨が嫌いなだけだと思う。


 数駅を後にしたところで、陽子は勝也に声をかけた。


「あっ、次の駅で降りますので」


 勝也は驚いた。この駅で降りるのか。どこに住んでいるんだろう。また行ってみたいな。そして、恋人同士遊んでみたいな。


「そうですか」


 1分も経たないうちに、次の駅に着いた。陽子は電車から降りた。それと共に、何人かの乗客も降りる。陽子は勝也を見つめている。勝也は陽子を見つめている。ここも恋人同士のようだ。


「じゃあね」


 陽子は手を振った。すると、勝也も手を振る。2人とも嬉しそうだ。


「今日はありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


 それと共に、発車ベルが鳴り、電車のドアとホーム柵が閉まった。そして電車はホームを後にした。降りた客は階段を降り、改札に向かう。陽子もその人たちに続いて階段を降り、改札に向かう。


 陽子は改札を出て、家に向かった。陽子は今日出会った勝也の事がすっかり好きになった。家までの帰り道、陽子はずっと笑みを浮かべていた。また会いたいな。そして、家に招いて遊びたいな。


 陽子の興奮は、家に帰ってからも続いていた。陽子の母も、様子がおかしい事に気が付いた。悩んでいることがあるんだろうか? 恋だろうか?


「陽子、どうしたの?」


 ベッドで仰向けになっていた陽子は顔を上げた。そこには母がいる。陽子がおかしい事に気付き、声をかけたのだ。


「いや、何でもないよ」


 陽子は少し照れているようだ。好きな人ができたなんて、まだ言える程ではない。もっと親密性を深めてから明かしたいな。




 次の日、陽子はいつも通りに高校にやって来た。今日も晴れの予報だが、昨日のように夕立が起きるかもしれないので、傘を持ってきた。晴れているのに傘を持っていると、変に思われると思った。だが、そんなに変だと思われない。今の時期は持ってくることが大事だとみんな思っているんだろう。


 教室に着くと、陽子は1限目の準備を始めた。最初の授業は国語だ。陽子は教科書とノートを出した。


「あれっ、昨日の女の子じゃん」


 突然、誰かが声をかけた。誰かの声に気付き、横は振り向いた。そこには勝也がいる。


「あっ・・・」


 突然の出来事に、陽子は驚いた。まさか、同じクラスだったとは。これから仲良くしていこうと思っていたら、こんなに近くにいるなんて。

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愛会い傘 口羽龍 @ryo_kuchiba

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