これが私の『ディスグラフィア』 ~障がいを持った少女の10年~

星野 未来@miraii♪

【 10年ぶりの再会 】

「なあ、お前ら知ってるか?」


 10年後の4月29日。

 ビールを片手に、茶髪でキツネ目の淳司アツシが、ニヤリと笑いながら、俺たちに語り始めた。

 隣には、体の大きな武英タケヒデが、既に酔っぱらって顔が真っ赤の状態。


「知ってるって、何が?」


 俺が居酒屋のテーブルの向かいに座る淳司にそう言うと、「聞きたいか?」と白い歯を見せながら、顔を近づけてきた。


「小学校の時の卒業アルバム、何で回収になったか、お前ら知ってるか?」


「知らないけど、あれ何で一回回収されたの?」


 隣に座る武英が、ビールジョッキをテーブルに置くと、赤い顔で淳司に問いかけた。

 すると、淳司が自慢げに、嬉しそうに俺たちに話してくれる。

 地元の高校を卒業し、東京の大学へ進学して、そのまま都内で就職をしたばかりの俺と武英とは違い、地元に残った淳司。さすがは、自営業の呉服屋の店主。地元のことは何でもよく知っている。


「あれな。実は、あの当時、いじめてた女の子いたろ? 『知美ともみ』っていうやつ。ひらがなの『』とか『』とかのくるんと丸の部分を反対に書いちゃうやつ。覚えてるか?」


「ああ~、覚えてる、覚えてる。習字の時、『ねこ』の『ね』とか、『あけましておめでとう』の『ま』とか左右反対に書いて、教室の後ろに貼り出してたの見て、みんなで大笑いしたやつな」


 武英はあの時のことを鮮明に覚えているようだ。

 もちろん、俺も覚えてはいる。


 忘れる訳がない。それは、小学生だった俺にとって、とても理解に苦しむ出来事だったから。


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