第6話 1月7日、9日、10日
1月7日(金)
パパ、おかえり。
手にもってる物、何?
年賀状。会社に届いたんだね。綺麗ね。
誰から? 女の人?
……
やっぱり。女の人か女の子からのハガキじゃないとわざわざ家までも持って帰って来ないでしょう。
東京の有名なガーデンデザイナーさんなんだって。女社長さんなんだ。小倉にも事務所持ってるって。
何でそんな人知ってるのさ?
ガーデニング関係のアイテムも作ったことあるのか。その方もたぶん美人さんなんでしょう?
ちゃんと仕事してたの、パパ? ガーデニングのテレビチャンピョンだった方とも名刺交換したことあるって。そっちは男か。一応仕事してたんだね。有名なガーデニング雑誌の女編集長さんに酷評されたこともあるって。まあ、仕事は、上手く行くことばかりじゃないよね。東京ビッグサイトで展示会してた事もあるけど、パパが倒れてしまったこともあって、その事業やめてしまったんだって。
そのアイテムがついてるお庭、お宝もんだね。もう造ってないんでしょ? そのアイテム。
その関係で地方の夕方の情報番組に出演したこともあるって。その時は、お天気お姉さんと共演だったし、打合せ1分ぐらいで、いきなり生放送だったので、オンエアになった途端に頭が真っ白になって、セリフが一瞬、飛んだって。
またあ、パパのことだからお天気お姉さんのこと気にしすぎて緊張したんじゃない? それともその頃から脳出血の兆候が出てた? その冬に倒れたんだよね。
そのガーデンデザイナーの人、パパの小説を読んだって書いてあるの? 嬉しい?『面白いタイトルにストーリー、引き込まれました』か。まあ、『面白くなかったです』と年賀状に書く人はいないだろうね。あっ、パパ、ごめん。女性には、みんなに小説のこと紹介するんだね。
パパの長編小説『つかさ』のつかさちゃんが住んでる町田に事務所があったんだけど、今回、四ツ谷へ移りましたって、書いてあるんだって。お願いしていた『つかさちゃん捜索』は、益々難しくなっちゃったね。って、つかさちゃんって誰さ? 今は、人を捜そうにもみんなマスクしてるからパパも分からないんじゃない? 何を他人に頼んでるのさ? しかも女性に女の子の捜索を。
ということで、パパが捜しているので、私のことかも? と思うつかさん、パパに連絡してやって下さい。
で、連絡取れたらどうするつもり?
『つかさ』を読んでもらいたいんだね。分かった、分かった。でも何回も言うけど、若い子を追いかけちゃだめだって。若い子はみんな忙しいんだから。偶然、逢おうなんて夢の夢だよ。あっ、小説の中では、偶然、再会するんだね。
そりゃ、創作の世界だもんね。そんな空想の世界のつかさちゃんより、現実の目の前のスピカ、あたいを見て、パパ。あたいは、ここに生きてるよ。
1月9日(日)
パパ、何見てるの? スマホになにか送ってきたの? ニヤニヤして、また女の子見てるんでしょう。スピカにも見せて。
えっ? 男じゃん。しかも若くてイケメンで、背が高くて、スーツ着て。パパ、男の子、いや青年にも興味あるの? 実は、スピカよりアルク兄ちゃんの方が好きなの?
…………
成人式かぁ。だからスーツなんだね。お友だちの息子さんなんだね。カッコいいね。あたい、少しタイプかも? アルク兄ちゃんもいいけど、食いしん坊だし、しつこいしなあ。 パパ、この人なんて言う人? 大学生か、昔はサッカーもやってたのかな? よろしく言っておいて。
1月10日(月祝)
パパ、今日は祝日だったのに、会社行って来たの? お疲れ様。なんかいきなり机、着いてるね。何やってるの? 『つかさ』を〇〇〇大賞に応募しようとしてるんだね。新型コロナが始まって間もない頃書いた作品で、未来のことを書いてたからそこを既に過ぎてる今に合わせて修正してるんだって。7万5千文字もあるから修正も大変みたい。締め切り、今日の23時59分だって。間に合うの?
☆ ☆ ☆
やっぱり間に合わなかったかあ。1秒差で0:00になっちゃったって。あ〜あ、応募のために10時間もかけたのに最後の1秒の差で間に合わないなんて。
パパもっと、早くから準備出来なかったの? もっと、早く終わるはずだったけど、ついつい自分の作品なのに、読み込んじゃって、時間掛かっちゃったみたい。
そんなバタバタで修正しないで、ちゃんとしなさいと神様が言ってるのよ。諦めたら。そんなに『つかさ』思い入れ強いの? つかさちゃんに妬いちゃう。
あたいの『スピカ』も書いて。
あつ、そうか、これが『スピカ』か………。
もうちょっとロマンチックなやつがいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます