第5章 トラウマ

拓也の生まれ故郷

 まだアズバドルに住んでいた頃、拓也は名をティル・ルナドールといった。



 拓也の生まれはアズバドル王国の北端。

 隣国との国境であるサラン山のふもとに位置する、カレド村という小さい集落だった。



 四方八方を森に囲まれ、林業で生計を立てている小さな村は、森の中に隠れるようにして存在していた。



 大きな隣町へ向かうには、森の道なき道をしばらく進まなければならない。



 交通や流通は不便だが、村の人間は皆自給自足で生活しており、それを不便だと感じる人々はほとんどいなかったという。



 時おり、隣国から山を越えて来た人間が村に辿り着くことがあるので、一応宿と食堂が一つずつあるものの、それらが使われることは滅多にない。



 ここに迷い込んだ人間は一晩をここで過ごし、翌日には村の者の先導で隣町に去っていく。

 月に一度か二度そんなことがある以外は、余所よそからの人間が来ることはほとんどない。



 故にこの村は、森の中に隔離されているといっても過言ではなかった。





 ここで穏やかに過ごしていた拓也に波乱が訪れたのは、彼がちょうど六歳を迎える頃だったという。




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