第3話 変身許容
引き続き、水城先生との面談は続く。あたしとママの緊張がいくらかほぐれたところで、水城先生が真剣な顔をして口を開いた。
「さて……次年度の入学式の前に、一つお二人にお話しておくことがあります。先程、
「えっ」
その言葉に、あたし以上にママが驚きの声を上げた。
あたし以外に数人しか
水城先生いわく、体育などの
信じられないという顔をしながら、ママが水城先生に問いかける。
「クラスが分かれるとか……そういうことはないんですか?」
「クラスそのものを分けるには、あまりにも
ママの質問に水城先生も苦笑するしかない。そりゃあ、たったの数人で別クラスを作って対応する、なんてことをしたら無駄だし、クラスが分かれていたらなかなか互いに交流が出来ない。
一部の授業は仕方がないにしても、クラスが一緒のほうが互いに得られるものが大きいのは間違いないだろう。
と、そこで水城先生が微笑みながらあたしに視線を向けてきた。
「ただ、和山さんは入学試験を受験され、見事合格された。あの試験では学力の他、異能に対する許容値……つまりは異能を目の当たりにした時に、どれだけ
「異能を見て、正気を保つ……ですか?」
水城先生の言葉を聞いて、あたしもママも小さく首を傾げた。
それだけ異能が一般的で、よく見かけるものである中で、「異能を見て正気を保てるかどうか」とはどういうことだろう。確かに変身系の異能は、異能の中でも珍しいものだけれど。
すると水城先生は真剣な表情をして、両手を組みながら口を開いた。
「そうです。変身系
真剣に話しながら、水城先生があたし達二人を見た。
確かにそうだ。あたしだって、髪型を変えたり服をガラッと変えたりした時に友達から驚かれたりしたら、あれって思う。
あたし達へと、水城先生はさらに言葉を重ねる。
「我が校の教育方針は『優れた
その言葉は特に真剣だった。あたしが元々この学校への入学を考えていないで、勘違いで受験して合格して、入学することになるから、なのだろう。
自然とあたしの顔も引き締まる。そんなあたしを見て、組んでいた両手を広げながら水城先生は言った。
「異能は一般的なものとして人々の生活に浸透し、社会で活躍する
静かに、ゆっくりと話された水城先生の言葉に、あたしもママも小さく息を吐きだした。
この学校は
ママがしみじみと、鼻先をこすりながら言う。
「人間だから……なんですね」
「はい。人間であるなら、その異能を発揮することを恐れる方は我が校にはふさわしくない、そういう考え方です。だから我が校は、学校敷地内での異能使用を許可しているんですよ」
ママの言葉に水城先生がはっきりとうなずいた。確かにそういう方針の学校なら、異能を使ったことにびっくりするような生徒はふさわしくない、と言えそうだ。
そういう点なら、あたしは大概平然としていられる方だ。小さい時から
巽山高校は当然のように、「異能甲子園」に毎年出場している。ここへの入学は棚からぼたもちみたいなものだが、もしかしたら「異能甲子園」を間近で見られるかも、という期待もあったりした。
瞳を輝かせるあたしに、水城先生が微笑みながら話す。
「校舎内でも異能を使用している生徒をお見かけしたと思いますが、アレを目にしても平然としていられる、日常と受け入れられる生徒を受け入れているわけです」
「な、なるほど……それなら確かに、和泉は大丈夫だわ」
その言葉を聞いて、ほうとママも息を吐き出した。ようやく、ママもこの学校にあたしを通わせても問題なさそうだ、と感じられたらしい。
と、そこで水城先生が手首のスマートウォッチを見た。気がつけばもう15分が経過している。時間を確認した水城先生はすぐに立ち上がった。
「おっと、もうこんな時間だ。つい話し込んでしまいましたね。次の面談がありますので、今日はこれにて。入学式の日にお待ちしています」
「は、はい」
「ありがとうございます」
水城先生に促されて、あたしとママも席を立った。そのまま職員室の外へと向かって歩いていく。次の面談の人に迷惑をかけてはいけない。
と、ちょうどあたしが水城先生の横に来たところで。
「和山さん」
「はい?」
水城先生に声をかけられ、あたしはきょとんとしながら立ち止まった。何だろう。
すると水城先生が、片方の口角を持ち上げながら小さくうなずいた。
「君なら、うちの学校で充実した三年間を過ごせると信じている。頑張ってくれよ」
「は……はい。ありがとうございます」
先生からの、激励の言葉。それにハッと目を見開いたあたしは、思わずその場で足を止めていた。
直接そんな言葉をかけてもらえるとは思っていなかった。なんとかなる、というぼんやりした思いが、少しずつなんとかやっていけるだろう、という確信めいた思いに変わっていく。
と、そこであたしはハッとした。ここで立ち止まっていたら他の人の迷惑だ。あたしはすぐに、もうドアの前にいるママの方に小走りで走っていった。
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