喪失と発芽
アオピーナ
喪失と発芽
思い出の木の下で、あの子の命は桜と共に地へと散った。
暖かな風は、喪失の香りを運んできた。
それから、幾ばくかの月日が経った。
返事が来る筈のない手紙に日々の出来事を記し、砕け散った心の破片を掻き集める。
日記のようなそれは、未練にしがみつく男のみっともない嘆きを呪詛のように羅列していた。
二人で撮った写真を呆けた面で見つめ、モノクロの日常を機械的にこなす日々。
息をすることすら億劫で、手足は鉛のように重く。
心の奥底に打ち込まれた楔は、痛苦に苛まれるあの子を助けてやれなかったことへの心残りと相まって、悔恨の亀裂を広げていった。
――昨日に縋り、今日を厭い、明日を拒む。
もはや、人生に光を見れなくなっていた。
そんなある日、一通の手紙を見つけた。あの子が使っていた机の引き出しの奥にしまってあった、薄茶に褪せた手紙。
なんとはなしに、封を切って紙を開く。
明らかに、あの子が記したであろう手紙。
それには、まるで自分が死ぬことを予期していた旨や、自分が早くして逝くことへの贖罪、今までの人生の中で受けた数多の祝福への礼句が、震えた文字で綴られていた。
気が付いたら、声を上げて泣いていた。
嗚咽混じりに響く声には、改めて向き合った事実によって打ちひしがれた心の叫びと、それでも微かに差した光明を目にしたことへの喜びが混じり合っていた。
だって、あの子は自分のような未練がましく弱々しい男に、「生きて欲しい」という希望を託してくれたのだ。ありきたりの励ましであり、それでいて呪いのような願望を。
覚悟が固まるまでに、さほど時間はいらなかった。
砕け散っていた心の破片は、生きる希望へと昇華する。
憑き物が取れたような解放感に駆られるまま、玄関の扉を開けて、外を歩く。
自分の足で前に進めないのなら、誰かに背中を押してもらえばいい。
それが願いという形であるのなら、尚更。
道端に咲く一輪の花を見て、より強くそう思った――。
喪失と発芽 アオピーナ @aopina
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