第8話 相楽雛見の目線Part2
「どうなんだよ、あの子と」
叶はいつもものの尋ね方が雑だ。遠慮のないところは昔からだ。
「桔花のことかい?もちろん仲良しさ。この前はパジャマパーティーをしたんだ。なかなか体温が高い子だったよ」
「なんじゃそりゃ。やましいことは何もしてないだろうな?」
「穢れの無い子だよ。そんなことができるとでも?」
「お前は人との距離感が分からないやつだからやりかねん。アタシにも初対面の時、タメ口だったしな」
「それは叶が話しかけやすいのが悪いね」
「おう。だから友達いっぱいいるぞ。お前と違ってな」
にっ、と叶は笑って見せた。私はくす、と微笑む。
別に嫌な気持ちはしない。私は遠慮が無いのが嫌いじゃないのだ。
腫れものに触るような扱いよりかはよっぽどいい。私の家は自慢ではないが、相当裕福だ。けれど、本家には私しか子供はいないし、一時期かなり
私の身体が弱いのは有名だったから、私はなかなかみんなと同じように遊べなかった。叶はそこのところお構いなしだったが。当時の私としては嬉しかったのだけれど。叶とは長い付き合いだったから、今さら敬語を使う気にもなれない。
私達は今、体育館にいる。放課後借り切って練習しているのだ。
私は、少し離れた所で、パイプ椅子に座って休憩する叶の側に立っていた。私の分の椅子は無いのかい、と尋ねると、自分で取ってこいと言われたため、面倒なので立ったままでいることにした。
スポーツドリンクを叶がぐい、と豪快に飲んだ。
幕を開けた舞台上では、桔花が演じるアルマンに、顧問をやってくれている女の先生がアルマンの父親役として接していた。
アルマンが強い調子で言い返している。といっても、強くなりすぎず、程よく威厳と頑固さが出るように演じている。
『一歩間違えれば反抗期の子供のヒステリーみたいになりかねないわ。気を付けて』
と、雫からは何度もダメ出しを食らっていたが、ようやく調子が出てきたようだ。
私もためしに演じてみようか、とも思ったが、雫からは余計なイメージを与えかねないからやめるように、と止められた。
確かに、私が影響を与えなくて正解だった、と今は思う。私がお手本をやっていれば、今の彼女の演技はきっとできなかっただろう。
「遠慮なさすぎだろ。なら仲良くしろよ。気に入ってんだろ?迷惑かけてないか?」
「だいじょうぶさ。あの子は正直に言ってくれるよ、嫌なら嫌って」
「お前はあの子じゃねーだろ」
「ああ、そうか。……それもそうか。そうだったね。君も正直な人なんだったね」
叶と桔花の正直さはきっと別の種類のものだろうけども。
「六月の公演まであと少し、上手くやるさ」
舞台上では、照明を担当する紫が様々な角度からライトを桔花に当てていた。
わ、まぶし。という声が聞こえてくる。
私は軽く手を振ってみせた。
桔花も笑顔で手を振り返してきた。笑顔がまぶしい。
アルマンがもし、純粋なだけでなく、あんな笑顔をする人なら、マルグリットはどうにかしてアルマンから離れまいとしただろうか。例えば、父親に脅迫されたことを話すとかして。それとも、やっぱり好きだからこそ身を引いてしまうのだろうか。好きな人には迷惑をかけたくないだろうから。
分からない。けれど、私がやることは決まっていた。
全力で、私ができるマルグリットを演じ切る。完璧に、この脚本上のマルグリットを理想に近づける。それだけだ。
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