狐魔王の二重生活

清水裕

第1話 勇者、捕らえられる。

「くくく、此度の勇者は口ほどでもなかったのう」


 玉座に座ったまま、跪くように拘束されてしまい……、それを魔王フォクスロリアは邪悪な笑みを浮かべながら見下ろす。

 勇者、聖女、賢者、騎士、忍者の5人は魔王フォクスロリアを倒すために世界を冒険し、力をつけて魔王城に乗り込んだ。

 立ちはだかる四天王を相手するために、仲間がひとり、またひとりと減っていき……、最終的にひとりでフォクスロリアと対峙することとなった。

 しかし、玉座に座るフォクスロリアへと振るわれた聖剣の一撃はあっさりと手で掴まれ、そのままポキッとへし折るなんて……魔王マジヤバイ。

 そして拘束魔法を使われてしまい、今に至る。


「なんじゃ、その目は? わしが憎いか? それとも、このような魔法など簡単に解くことが出来るという意志の表れかのう?」


 ニヤニヤと嗤いながら、フォクスロリアは挑発する。

 その言葉にグッと腹が立ち、グググと体を動かそうとする……だが、魔王の魔法は強力で首をあげる途中で体の動きは止まってしまった。

 最悪なことに、止まった位置からパンツ! パンツが見えてる!!

 黒、スケスケな黒いパンツ!! ――だがそれを見ている場合ではない!!


「ん? くくっ、お主……わしの下着を見たいがために必死に首を動かしたのか? おお、すけべ、すけべ。此度の勇者はスケベじゃのお。くっくっくっ」


 違う、見たいわけじゃない。確かに興奮はする。

 だが、こいつとは敵同士なんだ。だから下着で興奮するのはもってのほかだ。

 しかし何故か声が出ない。


「無駄じゃ無駄じゃ。わしの魔法によって、お主は喋れぬし、指一本さえ動かせぬ。先ほど動いたときは驚いたが……結果、貴様はわしの下着を覗こうとするスケベと化しておるのう」


 違う、誤解だ。そう言いたいが、言えない。

 何というもどかしさ。

 ちなみに、魔王フォクスロリアは|東の大国で暮らす女性が着ているスリットの深い体にフィットしたドレス《セクシーなチャイナドレス》に身を包んだ……お色気ムンムンな男性であれば簡単に魅了されてしまう体つきをした九つの尾を持つ狐の魔王だ。

 しかも顔立ちもすごく美人であり、魔王でなければ……捕まって奴隷とか、貴族からの寵愛を受けるほどだが、切れ長の目から覗く紅い瞳からは強い覇気を感じさせた。

 正直、見た目も印象も、この魔王は刺激が強すぎる。

 だが、何故魔王は殺さないのか。魔王だから勇者を殺すのが当たり前のはずだ?


「くくく、お主がわしの下着を覗く視線はゾクゾクするのう。……まあ、冗談はさて置き、何故殺さないと思っておるのじゃろう?

 決まっておる。お主は勇者となったことを後悔しきってから殺すと決めておるのじゃ」


 ――どういうことだ?


「言っても分からぬか。ならば言ってやろう。お主にはこの場で屈辱的な行為、そして仲間たちがどうなったかを事細かに説明してやると言っておるのじゃ」


 ――っ!? な、なんだって……!


 しかも、聖女、騎士、賢者、忍者も捕まっているというのか!?

 くそ……っ! 不甲斐ないばかりに。魔王を倒すことが出来なかったために!!


「悔しいか? 悔しいじゃろう。じゃが、お主にはわしの恐ろしさを思う存分味合わせてやろう。じゃが、準備は手間がかかる……じゃからお主は眠るがよい」


 魔王はそう言うと手を顔に近づける。

 手のひらからは甘い、甘い、華のような香りがした……。その香りに頭が蕩け、意識が遠くなる。

 魔王の眠りの魔法。それに気づいたけれど……抗うことが出来ない。


 そして、意識は闇に落ちていった。

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