第12話 今の実力とチームワーク
何も出来ずに第一クォーターが終わってしまった。気が付けば俺達一年生チームが大きく負けている。試合前の余裕が嘘のように暗い雰囲気になっていた。
「……仕方がない、それぞれ違うチームだったのだか上手くいかなくて当たり前だ」
足取りが重くあきらめた顔をした永尾が呟いた。俺自身も疲れてはいたが何か策はあるだろうと考える。ちょっとしたきっかけがあれば何とかなりそうだ。あまり出過ぎた事はしたくないが負けるのは好きではない。
「山西、俺にパスを出す時、もう少しだけ速いタイミングで出してくれないか?」
差し出がましいと思いながら、山西と村野が座っている隣に行き声をかけた。山西は驚いた表情をする。
「マジか? 結構早くパスを出していたけど、いいのかまだ早くても……」
「あぁ、問題ない。俺もちょっとカンが戻ってきているからな、多分先輩達は追いつけないと思う」
思っていたより素直に話を聞いてくれたのでほっとする。俺自身は大袈裟に言ったのではない、徐々にだが感覚は戻りつつある。山西はまだ俺達の事がよく分からないから遠慮があるのだろう。
「……分かった。次からは手加減なしでいくから!」
「あぁ、頼んだぞ。それと永尾は多少強いパスでもしっかりと取ってくれるから試してみてくれ」
俺の意図を理解してくれたみたいで笑みを浮かべて山西が頷いた。隣にいた村野にも同じように伝える。
「永尾は一人でも十分にリバウンドが勝てるから任せて、永尾とはポジション取りで反対側を意識してくれ、きっと永尾が動き易くなって村野にもパスが出し易くなるはずだから……」
「おぅ、分かったよ。なるべくポジションが重ならないように気をつける」
ちょっとだけ驚いた顔をした村野は頷いて理解してくれたようだ。山寺にも同じように簡単にアドバイスをした。これでちょっとは流れが変わってくるはずで、やっぱり負けているのは好きじゃない、みんな気持ちは同じだ。
インターバルが終わり試合再開になると、さっそく俺のアドバイスが活かされる。
山西がパスを回してチャンスを窺っている。俺が相手マークのマークを外して中に入ると、山内とアイコンタクトでパスを要求する。一瞬、タイミングが合わないと思ったが、予想以上の鋭いパスがきてタイミングが合う。
もちろん先輩達は反応が出来ない、俺は慌てることなくボールをキャッチするとそのまま簡単にシュートを決めた。
「おぉーー!」
シュートが決まった瞬間は静まりかえった空気になったが、すぐに歓声があがる。そんな大袈裟なシュートを決めた訳ではないのだが、チームに勢いがつきそうなのでよかった。
「まさか、あのパスをあんなに簡単に決める……さすがだな、伊達じゃないな宅見は……」
ディフェンスに戻る時に山西とすれ違う時に呟いていた。山寺と村野も同様に驚きの表情をしていた。ある程度の俺の実力を知っている永尾はまだまだと言った顔をしてる。
「宅見……お前はあんなものではないよな?」
「ははは……どうだろうな」
鼻で笑いながらこちらを窺っているが、俺は苦笑いをして誤魔化した。正直、かなりギリギリのプレーで余裕など全くない。さすがに一年以上のブランクは相当なものだ。
「さぁ、ここから一気に逆転するぞ!」
永尾がチームを鼓舞するように大きな声を出すと山西達も声を出して気合いを入れてギアが入ったようだ。俺達一年生チームに流れが傾くと次々と得点をあげていった。
オフェンスの調子が上がるとディフェンスも良くなってきて得点差はあっという間に縮まる。ハーフタイムになる前には一年生チームが逆転しいた。第二クォーターが終了すると、先輩達は呆然としていた。
「やっぱり、さすがだな」
永尾が笑顔で駆け寄って来た。俺自身はあまり得点は出来なかったが、山西達がしっかりと稼いでくれた。
「とりあえずは逆転出来たな……」
俺はそう言いかけてちょっとフラついてしまう。かなりの体力を消費してしまったみたいで、予想以上に疲れたようだった。
「お、おい、大丈夫か?」
笑顔だった永尾が慌てて俺の体を支えると、マネージャーの結奈を手招きして呼んでいる。結奈はびっくりした顔をして飛んできている。永尾に支えられて、コートの隅に移動すると崩れるように座り込んだ。
「だ、大丈夫なの?」
「ちょっと頑張りすぎたかな、ははは……」
心配そうな顔で結奈が俺を眺めている。笑って誤魔化したが、試合はまだ半分しか終わっていないのにこの様で情けない気持ちでいっぱいだ。
「……仕方がない、あれだけ献身的にチームの為に動けばバテて当たり前だ」
「そうだな……」
隣にいた永尾が呟くように言うと様子が気になって来た山西達が頷いている。気が付けば俺の周りに一年生全員が揃っていた。
ハーフタイムだけでは回復しそうもない、第三クォーターは無理そうだ。
「……わるいが、このあと誰か代わりに出てくれないか?」
「いいぞ、宅見ほどのプレーは無理だがな」
ちょうど全員いるので交代を頼むと猪口が快く応じてくれた。チーム全員も納得して交代することになった。
へたり込んだ俺はそのまま動くことなく休んだ。ハーフタイムが終わる前に永尾が一言だけ俺に伝えてきた。
「最後のクォーターは出てこいよ! みんなが待ってるから」
俺は『分かった』と頷いて答えた。久しぶりに言われた言葉な気がして嬉しかった。
第三クォーターが始まると相手ボールから再開だったが、デフェンスは崩れていなくてまだ流れが変わっていないみたいだった。
試合が再開されると俺のすぐ背後に人の気配がする。再開される前に結奈は心配だからと俺の横に付いてた。もう一人の一年で試合に出ていない山寺は結奈の代わりに得点盤の所に座っている。
誰か分からないので不安になって振り向くと中学の時の女子バスケ部のキャプテンだった原田が立っていた。
「……蒼生……戻ってきたんだね、よかったよ……」
俺の視線に気が付いた原田は呟き嬉しそうに笑みをを浮かべた。もちろん原田は俺の中学の時の事は知っている。どちらかといえば俺の味方だった側だ。
「あぁ、戻ってきたけど、この様で情けない……」
苦笑いしながら答える。これが現在の姿で、俺自身はもう少し出来ると思っていたが甘かったみたいだ。
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