第2話 大きな変化

 委員長と俺は並んで歩いていて、気持ち二人の間の距離が近いような気がする。正直言って余裕がない、かなり緊張している。中学の時も一緒に帰った事があったが全く状況が違う。隣を歩く委員長の顔をまともに見ることが出来ない。


(どうしよう、何を喋ればいいのか分からない。でもこのまま何も喋らない訳にもいかないよな……)


 お互い黙ったまま歩いているが、気になって委員長の様子を窺うと楽しそうな表情をしている。少しだけ安堵したが、まだ歩き始めたばかりだ。今のところは委員長の機嫌は良さそうなので、何か適当な話題がないのか悩んでいると、委員長が先に口を開いた。


「ふふっ、一緒に帰るのは久しぶりだね!」

「う、うん、そうだね……」


 あれこれと考え過ぎなのかもしれないが、やはり緊張してしまう。


「う〜ん、蒼生くん、やっぱり今日一日ずっとよそよそしいかな?」


 俺の返事に委員長は少しだけ顔が曇る。怒っているとかではないが、俺の反応に不満があるみたいだ。


「えっ、そ、そんなことはないけど……」

「ん〜、そんなことないけど、その先はなに?」


 中途半端な返事がいけなかったみたいで、委員長は顔を覗き込むようにして最接近してくる。自分自身の顔が熱くなるのがはっきりと分かるほど照れてしまった。


「あっ!? え、えっ、えっと、委員長があまりにも可愛いくて……ど、どんなふうに接していいのか分からなくて迷っているんだ……」


 これ以上は無理だと思い、素直な気持ちを伝えた。これまで余裕ある表情をしていた委員長が初めて恥ずかしそうな顔を見せる。


「えっ、あっ、か、かわいい……わ、私が……ほ、ほんとうに?」


 顔を真っ赤にした委員長はそのまま固まってしまう。これまで俺が何度か見た事のある表情をしている。

 中学時代は素顔を隠すかのようにしていた委員長で、立場上クラスの世話をしていたがどちらかといえばあまり自己主張することがなく大人しい感じだった。クラスの中では表情を崩すことは少なかったが、俺と一緒に勉強している時は表情が変わる機会が多かった。


「……よかった、やっぱり委員長だな、変わってないやーー」


 容姿の変わり様に俺は中身まで変わったのかと不安だったけど、委員長の反応を見て変わっていなくてほっとした。やっと今まであった恥ずかしい気持ちが治まってきた様な気がした。


「……もう、いじわるだね、えへへ〜」

「でも何かきっかけがあったの?」


 委員長も落ち着いてきた様で笑顔が戻ってきて、俺が一番気になっていた事をそのまま勢いで聞いてみた。


「……蒼生くんが言ってくれたからね」

「えっ!? ……俺が?」

「うん、そうだよー!」


 いっぱいの笑顔で嬉しそうに大きく頷いて委員長が答える。委員長の表情からして俺が間違えなく言ったのだろう。

 確かに、放課後に委員長と残って勉強していた時に心の中で雰囲気を変えれば可愛くなるだろうと思っていた。普段あまり外す事が無かった黒縁の眼鏡を外した時の素顔を見て凄く綺麗な瞳をしていることに気が付いたのだ。それに、素肌がめちゃくちゃ綺麗なことにも気がついていた。


「……そうだった、ちょっとした勇気と自信だな」

「うん、蒼生くんが教えてくれたじゃない」


 委員長と一緒に行った合格発表の時に合格したお礼代わりに言った何気ないひと言だった。その時、半年近くお世話になった委員長に何となく変わった欲しかったのかもしれない。


「やっぱり、委員長は凄いよ……」

「そんなことはないよ。でも蒼生くん、ちゃんと責任とってね。ふふふーー!」

「ん……? 責任って、なに?」

「ふふっ、冗談だよ!」


 首を傾げている俺を見てからかう様な笑顔を委員長がする。俺は結局、意味が分からないままだった。

 でもここまで可愛くなるのは予想外だった。よく考えてみると、もともと委員長は性格は良くて面倒見も良く、もちろん成績も良かった。これでこの可愛さが加わったのでほぼ完璧じゃないかなと思う。

 それに今朝からの俺が委員長の顔をちゃんと見る事が出来なかったのは、好みのタイプにおもっきり当てはまっていたからだ。まるで自分の為に言ったみたいで、口が裂けても言えない。これから毎日のように顔を合わすのだから、いちいち緊張したり照れていたらキリがない。どうすればいいのかと悩んでいた。


「急に黙って、どうしたの?」


 不意に委員長が覗き込むように話しかけてきたが、顔と顔の位置が微妙に近かった。一瞬、状況が分からず止まってしまう。顔を背ける訳にもいかず、そのままの体勢で答える。


「えっ、えっと、だ、大丈夫だよ。な、なんでもないから」


 必死に動揺を抑えようとする俺とは正反対に委員長は意識している様子がなく心配顔のままで俺の顔を窺っている。

 委員長の顔が小さいのがよく分かる。中学の時は髪型が地味な感じでもさっとした雰囲気だったが、以前と違い綺麗に髪を編んでいてさらっと整えてあるので、余計に小顔に見えた。


「それならいいけどねーー」


 心配そうな表情だった委員長は顔を上げると笑顔に戻ったが、俺の心臓はまだバクバクしている。顔が熱いので、きっとまた顔が赤くなっているのかもしれない。


(もう考えても仕方がない……明日から油断ならない毎日だな)


 心の中でそう言ってこれ以上考えるのは無駄だとあきらめモードになる。

 帰宅した後は、今日一日あった事があまり多くて処理出来ずに気が付けば寝てしまっていた。

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