もう一度、バスケットボールを始めたら今度は上手くいきそうだ
束子みのり
第一章
第1話 クラスメイト
平穏な高校生活を送りたいと思っていたのだが早くも黄色信号が点滅している、目の前に知らない清楚な雰囲気の美少女が俺のことをジッと見ている。
このような場合、ロクでもないことが起きてしまう可能性が高い。第一、この学校には中学時代に仲の良かった友達はいないはずだ。ましてやこんな美少女の知り合いはそもそもいないのだが……
「う〜ん、蒼生くん! せっかく同じクラスになったのに無視するのはひどいな〜」
いきなり名前を呼ばれてびっくりして顔を上げる。笑みを浮かべながら彼女は口を尖らせて視線を送ってくる。俺の名前は
まだクラスで自己紹介はしていないので簡単に名前が分かるはずがないのだ。それに名字どころか下の名前で呼ばれたから余計に驚いていた。それに「せっかく同じクラスに」と前から知っているみたいな言い方をしている。
「えっと、何で名前を知っているのでしょうか? もしかして何処かで会ったことがあるのかな?」
全く思い当たる節がないので不安そうな声になって、どう対処していいのか迷っていた。綺麗な顔立ちをしているので恥ずかしくて顔をなかなかじっくりと見ることは出来ないがチラッと見た感じで会ったことはないような気がする。
「ふふふ、まだ分からないかなーー」
「ん……あ、あれ、で、でも……」
再び彼女が発した声に聞き覚えがあった。もう一度、彼女の顔をちゃんと見ようと視線を上げると、嬉しそうに笑っている表情が可愛くてやはり照れてしまう。でもなんとなく見覚えがある顔に見える。
まだ確たる証拠がない……俺が怪しいと思っている人物と決定的に違って、いつもかけていた黒縁の眼鏡がなく、髪型も違う、それにこんな垢抜けた雰囲気ではなかった。
彼女はなかなか答えの出ない俺にだんだんとイラついてきたみたいで頬が膨らんできた。
「ぷぅーー、ここまでしないとわからないかな?」
怒っている顔もめちゃくちゃ可愛いのだが、なぜか彼女はポケットから黒縁の眼鏡を出してきた。その黒縁の眼鏡を掛けると、すぐ俺は誰だか分かった。
「いい、委員長!?」
自分でもびっくりするぐらいの大きな声が出てしまう。周囲は驚いた顔をして俺を見ていて、委員長は苦笑いをしている。
俺はすかさず周りに頭を下げながら少し間を入れて落ち着こうとしていた。
彼女の正体は俺と同じ中学出身で元クラスメイトの委員長こと
「やっと分かってくれたね、えへへーー」
「いやーー、う〜んなんて言っていいのかな……」
嬉しそうな顔で可愛く笑う委員長だが、掛けている黒縁の眼鏡はかなり違和感がある。それだけ中学の時の面影がほとんどなく、俺はどう言えばいいのか迷ってしまう。
とにかく可愛いということだけは間違いがない……素直に可愛くなったと言えばいいのだろうか……
「ふふふ、安心していいよ!これまでどおり、何も変わってないからね」
無邪気な笑顔で委員長は嬉しそうな顔をしているが、一番委員長が変わったと突っ込みたくなる。でもこの笑顔は一緒に受験勉強をしていた時に見たことがある顔だった。
「あ、ありがとう、委員長……仲が良かった友達がいないから心強いよ」
「ふふっ、任せてよね!」
自信満々な笑顔で答える委員長に俺も嬉しくなって教室に入ってきてから続いていた不安な気持ちがやっと和んできた。でもかなり雰囲気の変わった委員長にはまだ緊張してしまう。
特に周囲の男子からは鋭い視線が飛んできている気がする。入学式早々にこんな美少女と仲良さ気に話せば目立ってしまうようだ。だんだんと妬むような視線が強くなってきたタイミングでチャイムが鳴り、委員長は席に戻った。
(やれやれ、あまり目立ちたくないのだが……)
委員長が戻った後に大きくため息を吐いた。俺が一生懸命に勉強をしてこの高校を選んだから平凡に静かに過ごしていきたい。その為に委員長と一緒に受験勉強をしてきたのだが、ここで裏目に出ることになろうとは予想外だった。
早めの下校時間になり、再び朝の状況が訪れてしまう。
「蒼生くん、一緒に帰ろう!」
朝と同じように満面の笑顔で委員長がやってきた。もちろん委員長は何も悪くない、素直に一緒に帰りたいだけなのだろう。でも周りの男子からは殺気じみた視線が降り注いできたが、委員長の優しさを断る訳にはいかなかった。
「う、うん、い、いいよ」
これまで中学の時も何度か一緒に下校したことはあったが、その時とは違いめちゃくちゃ緊張して返事をした。返事を聞いた委員長は嬉しそう微笑んでいて、最高可愛いらしく周りにいた男子達も見惚れてしまうぐらいだった。
(や、やばい……この笑顔は反則だろう……)
周囲の男子達からは羨望の的になっている状態だ。でも委員長は周囲の状況を気にする様子はなく俺の帰り支度が終わるのを待っている。もうこれ以上周りを気しても仕方がないとあきらめて手早く帰り支度を終わらせて教室を出ることにした。
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