ああ、今年の天の川は反乱してる。だったら乗り越えて愛に行くべきだ
ぴこたんすたー
第1話 ああ、今年も邪魔をする天の川
地球が空に浮かび、第二の地球と言われ、ちらほらと人間も移住してきた水と緑に恵まれた辺境の惑星ザブーン。
雨雲から降り注ぐ小雨の中、肩まである髪を青い輪ゴムで結わえた浴衣姿の
その川には無数の星の光が流れている。
今日は七夕の日。
急速な人口増加を防ぐため、異世界恋愛禁止法という法律が設立された、この星恒例の一年に一度だけ会える特別な恋人との再会。
それをこの大きな川が邪魔をするのだ。
元は雨の多い星でもあり、大雨の影響か、この川も増水し、
ある程度緩やかになったとはいえ、まだ川は勢いがあり、水位もそれなりにある。
お陰で下ろし立ての長靴の中にも水が入り込み、すっかり役立たずだ。
「ちぇっ、
まだ数ヵ月しか使用してない青色の長靴には黄色い大人熊キャラが梅酒の木樽を抱えて、がぶ飲みしているイラスト入りで、『この熊、可愛い顔して酒豪なんか?』と思ってしまう。
「そうかい、それで今回ばかりは彼女さんに会うのは諦めるのかい、比子星さん?」
「全く、
「だったら、このワタクシを倒すことね」
二十代半ばの緋色でストレートヘアで黒の競泳水着を着たグラマーな美女、緋星は川の流れに大きな胸を揺らしながら、
「確か去年はゲンジジホタルの掴み取りだったけど、今回は何の勝負だよ? 正直、夏でもこの
「フフッ、良いことを聞いたわよ。今日はそんなアナタの苦手分野から調べて、徹底的にいたぶってあげるわ!」
「それで何の勝負なんだ?」
「ちょっと待ってよ。今調べてるんだから……えっと、水が苦手と……」
防水ケース使用の緋色のスマホでポチポチと調べものを始める緋星。
この偏差値で天の川を司る番人(監視員)なんだからな。
あれほど高貴で聖なる場所として伝説となっていたこの川も堕ちたもんだ。
──数分後……。
「よし、この三叉槍を使って素潜りで川アワビ採りの勝負よ!」
「ああ、いい感じに肉厚なヤツを大量に採っててくれよ。後から
緋星が検索に忙しい隙に比子星は天の川を渡りきり、長靴から背中のリュックに入れていた運動靴に履き替える。
「卑怯よ、人に思う存分、乱獲させて、さらに人が準備中の時に勝手に行動するなんて!」
「こっちも忙しい身なんだ。ヒーローショーの悪役みたいなことできるかよ」
「ちょい待てやー! 歓喜のヒーロー!」
「いや、そもそも笑ってねえし」
緋星を無視した比子星は乙里姫のいる城へと足を進めた。
****
絶え間なく雨が降る一国の王宮、その貴族が暮らす部屋にて……。
「乙里姫お嬢様、今年は天の川は水位が高く、氾濫しているらしいです。お洒落にしてる所、残念ながら、今年の彼とのお出かけは諦めてくだせえ」
「お
「はっ。古代キリシャから伝わる伝統のキルの言葉(死語)であり……」
「オッケー、本当、何に影響されたか知らないけど、キリシャ語好きよね」
お祖父ちゃんって、どこの国の育ちなんだろう?
いえ、この間にも時間は流れてる。
感傷的になっている暇はないわ。
「さあ、早く出ていって。ここは乙女の領域よ!」
「お嬢様、くれぐれも今日の外出は控えるよう……」
「あー、もううるさいから下がって、お祖父ちゃん!」
年齢は二十歳。
金髪のサイドテールで胸元にリボンを付けた黄色いバルーンのパーティードレスを着た乙里姫は手鏡を見ながら手ぐしで前髪を整え、お祖父ちゃんを部屋から追い出す。
「雨、上がったわね……」
乙里姫の声を盗み聞きしていたのか、『カチャリ』と部屋の外から鍵をかける音がする。
あまりにも過保護な対象に乙里姫は『私は籠の中の鳥なの?』と心の奥底で思ってしまう。
「こうなったら今年もやるしかないわね」
乙里姫は押入れにあった防災ケースから、棒切れの塊のような赤い物を一本引っ張りだし、単三電池の両極にアルミはくを付けて電池をショートさせる。
そのショートで出来た火種を棒切れの先端の紐につけて、窓がある向かい側の壁に投げつけた。
スリー、ツー、ワン……。
紐が炎によって燃えていき……。
「ふぁいあぁー!」
『ドカーンー‼』
凄まじい音を立てて、吹き飛ぶ部屋の半分。
両耳を塞いでいた乙里姫は城の奥から盗んだダイナマイトを爆発させて、あっさりと外へと脱走した。
****
「お嬢様、お嬢様ー‼」
「おう、どうしたんだ。乙里姫のじいさん? 人間の話し声って意外と耳に障るもんなんだ。そんなに叫んだら近所迷惑だぞ?」
「おおっ、比子星君ではないですか!!」
白いアゴ髭を伸ばし、老眼鏡にタキシードを身を包んでいる、このじいさんは六十をとうに越えた乙里姫の執事。
正式な名称はスッパーイスターというらしいが、出身地は不明だ。
「そんなに慌ててどうしたんだよ? プチ脳梗塞になるぜ」
「おっ、お嬢様が貴方様に会いにお城を抜け出したのです!」
何だって!?
今年の天の川は一段と危険なのに。
「もしや、お嬢様は晩御飯前かも知れぬし、たい焼きを釣りに天の川に行ったのかも知れませぬ!」
「まあ、落ち着け。あの歌詞はジョークだ」
「ジョークで何億千万も売れたら苦労はしませぬ‼」
「いいから落ち着け。金額の触れ幅が半端ねーから」
金持ちってすぐ億単位のことを口にするよな。
農家生まれの貧乏な比子星とは大違いだった。
「じいさん、ちゃんと説明してもらえるか?」
比子星はじいさんの気を沈め、とりあえず事のあらましを聞く。
「なるほど。やっぱりたい焼きが食いたくなったか」
「比子星君、やはりお嬢様は……」
「ああ、勘違いするなよ。これは物の例えだ。それくらい俺に会いたかったということさ」
「よしっ!」
比子星は髪の毛を縛っていた輪ゴムを赤い輪ゴムに付け変えて、気合いを入れる。
この輪ゴムの色は俺の感情を表している。
感情が読みにくい比子星のことを気遣うための乙里姫なりのアイデアだ。
「気合いを注入したぜー!」
先ほどまで結っていた青は冷静で、この赤は情熱。
今の比子星は赤色に相応しく、最高にテンションが上がっていた。
「じいさんはここで待ってな。必ず乙里姫を探しだすからさ!」
「頼みましたぞ」
居なくなった乙里姫の行方を追うため、じいさんには連絡網に回ってもらう。
乙里姫がこの城に戻ってくる行動もありえるし、近所からの目撃情報もあるかも知れないからだ。
じいさんの話からすると、まだそう遠くには行ってないはず……。
最悪、乙里姫が何者かに襲われていても腕っぷしには自信がある。
比子星は早足になりつつも、一人で乙里姫の捜索を開始した。
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