1. オーディションの帰り道

「はぁー。また、ダメだった……」

 オーディション会場からの帰り道、ボロアパートに向かいながら、私は大きなため息をついた。


「バイトのシフト増やさないといけないかしら……」

 女優を目指して上京してきたが、何度オーディションを受けても、一つの役ももらえないでいた。

 今日など、通行人の役でさえもらえなかったのだ。


「田舎では、美人だと言われていたのになぁー」

 自分で言うのもなんだが、私は美人である。それは、都会に出ても人目を引く程だと思うのだが……。


 もしかすると、田舎と都会では、美意識が違うのだろうか?

 それともファッションセンスが悪い?

 歩きながら、オーディションに通らない理由を考えていく。


 田舎でも、「美し過ぎてこの世のモノとは思えない」とか、「美人だけど冷たく感じる」とか、「あの切長の目が怖い」とか、陰でいろいろ言われていたから、そのせいかもしれない。


 そういえばこの前のオーディションでは「僕が求めているのは清純なヒロインなんだ。君はどう見ても悪役令嬢だろう」と言われたっけ。


 私は、釣り上がった目の端を、指先で下げてみる。

「これで、いくらか愛らしく見えるかしら」


 そんなことをしながら歩いていたら、通い慣れたコンビニのそばで、何やらキラキラ煌めいている男性に声をかけられた。


「そこのお嬢さん。ちょっといいですか?」

「よくないです!」


 どうせ、ナンパか何かだろう。私はキッパリと拒否を示し、男を避けて歩き続けた。


「いいですね! その気の強さ。僕の求めるところにピッタリです」


 だが、男は諦めていないようだ。

 速度を上げて歩く私に付いてくる。


「しつこいと警察を呼びますよ!」

「怪しい者じゃないですから、警察を呼ぶのは勘弁して欲しいですね」


 私は何とか男を振り切ってコンビニに逃げ込めないかと、さらに足を速めたが、男は並んで歩きながら懐から名刺を取り出すと、それを私に差し出してきた。


「僕はこういう者です」

 田舎者のさがか、差し出された名刺を受け取ってしまった私は、確認のためその名刺に目を落とす。


「神様プロダクション?」

「あなたをスカウトしたいのですが、話を聞いてもらえませんか?」


 スカウトという言葉に、コンビニまであと少しという所で、私は足を止めてしまった。


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