必殺ナルト三枚乗せ

「やっぱりラーメンでしょ」

 藤田は、味噌ラーメンを目の前に手を合わせる。


「ラーメン屋さんで食べるのなんて何年振りだろう」

 健人は、とんこつラーメンの香りを嗅ぎながら割り箸を割っていた。


「おいしそう、いただきます」

 麻衣は、さっそくレンゲを塩ラーメンのスープにくぐらせる。


 小さいラーメン屋のカウンター席、健人を真ん中に横並びで座る三人。麻衣の号令に合わせ、藤田と健人も「いただきます」と手を合わせると、ラーメンを食べ始めた。


「いつもよりおいしく感じる」

 麻衣が言う。


「久しぶりだからかな、俺もそう感じるよ」

 健人も驚いた様子でスープを飲んだ。


「ハイになってるからだろ。店員さん、餃子追加で」

 藤田はラーメンにがっつきながら注文した。


「藤田さん、もういい歳なんだからそんなに食べたら大変なことになるよ」

 健人が藤田に言う。


「大変なことってなんだよ、そんなことより俺はまだ20代だっての」

 藤田はラーメンを食べる手を止めた。


「あ、そうか。そうだったよね」

 麻衣は驚いている。


「おまえら、馬鹿にしやがって。店員さん、ナルト三枚下さい」

 藤田はヤケになっていた。


「ナルト三枚ってどうゆうこと」

 健人は吹き出してしまう。


「私ナルトは一枚でいいです...」

 麻衣が遠慮がちに言った。


「なにを言ってんだおまえら、ナルト三枚は当たり前だろ。俺はナルトが大好きなんだよ」

 藤田は、訳の分からない主張をカウンター席で訴え始める。


「藤田さんすごく声大きいよ、他のお客さんの迷惑に」

 健人が藤田を注意した。


「健人、今のところ他のお客さんがいないのがせめてもの救いだよ」

 麻衣は健人に言う。


「まあ大丈夫だろ、せっかくなら楽しもう。こんなに美味いラーメンがあるんだから。よし、ここで必殺ナルト三枚乗せだ」

 藤田は、店員が小皿に盛り付けしてくれたナルト三枚を、スープに浮かべた。


「なんだよ、それ」

 健人は笑いながら言う。


「やめてくださいよ、恥ずかしいじゃないですか」

 麻衣も腹を抱えて笑った。


「おまえらもやれって、ナルトはうまいぞ」

 藤田はナルト三枚を頬張りながら言う。


「ナルトが美味しいのは知ってますけど、三枚はさすがに...」

 麻衣は笑い涙を拭いた。


「俺も。ナルトは一枚だからおいしいんだよ藤田さん」

 スープを啜った健人は、箸を置く。


「いや、それは譲れない。ナルトは何枚あってもうまい」


 藤田はこれだけは譲れないようだった。


「そういえば藤田さん、カナダでは大麻が吸えるって本当なの」

 麻衣の言葉に目を丸くした店員は、藤田たちに背を向けタバコに火をつけた。


「カナダでは吸える。もちろん吸えない地域はあるが、ほとんどの場所では吸えるだろう。沢山の噂話があるが、今後世界的にも大麻合法化の方向に進んで行くと思うぞ」


「そうなんだ。日本はどうかな」

 健人が言う。


「日本で大麻合法化か...。物凄く難しいことだと思うが、アメリカの動向次第にはなるんじゃないかな」

 藤田は腕を組んだ。


「アメリカが関係あるの」

 麻衣は言う。


「まったく関係ないってわけにもいかないと思うぞ。未だにアメリカに意見出来ない日本政府だからな」


「そんな話は確かに聞くわ。戦後の関係性からなかなか抜け出せないのね」


「まあ、それはともかく。日本で大麻合法化が謳われたとしても、反対派が勝つだろうな。なんせ日本の上に立つ人間は頭の固い連中ばかりだからな」


「世界的に大麻合法化が進んでも、日本での合法化は遠いか...」

 健人が言う。


「そうは言っても、歴史は突然変わるからな。首を長くして待ってようぜ」


「そうですね。さあ、麺が伸びちゃう前に食べましょう」

 麻衣が話を終わらせ、三人はまだ温かいラーメンを啜った。


 実は三人が来店したラーメン屋は、地元では有名な美味しいラーメン店。濃厚ながら清らかで深みのあるスープ。そのスープが良く絡む平たく縮れた絶妙なコシの麺、ナルト、焼豚、ゆで卵にメンマ、海苔というスタンダードなトッピングからは想像できないほどの奥ゆかしさ。三人の舌は完全に魅せられ、食べ終わる頃には無言のままラーメンのスープまで飲み干していた。


「嗚呼美味しかった。そろそろ行くか、店員さんごちそうさまでした」

 藤田はそうゆうと力強く手を合わせ立ち上がり、お会計を頼んだ。


「ごちそうさまでした」

 健人と麻衣は手を合わせる。


「ありがとうございました、またお越しください」

 煙草の火を消した店員の声が店に木霊した。


____________________________________________________________________________


 店を出た三人は、アパートへと歩いていた。


「藤田さんごちそうさまでした」

 健人と麻衣は藤田にも手を合わせ挨拶する。


「おう。この後は梱包作業があるから大変だぞ、おまえら」

 藤田は腕を捲くる仕草をした。


「頑張りましょう」

 麻衣は気合を入れる。


 辺りは暗くなり、街灯だけが夜道を照らしていた。藤田は、前を歩く健人と麻衣の後ろ姿を見ていると、夜風が鼻から全身を通り抜け、一瞬浮遊したような感覚になる。三人はきっと同じ気持ちで、心地良い夜風に身を任せていたのだろう。この道がずっと続けばいいのにとさえ思った。


 アパートに着いた三人は、さっそく梱包作業に移る。健人が、丁寧に1グラムづつ小分けしたGreenCrackを、藤田が注文に合わせ足してゆく。


「健人、すごいな。ぴったり1グラムだよ」

 GreenCrackを秤にかける藤田は驚く。


「感覚だよね」

 健人は得意げだ。


「さすが健人、さぁ件数が多いのでちゃちゃっと終わらせちゃいましょう」

 麻衣も腕を捲ると小分けにした袋を梱包してゆく。


 発送は、三人別々の場所から、毎日コツコツと作業を繰り返し資金を集め、藤田、健人、麻衣は順調に大麻ビジネスを成功させてゆくのだった。

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