錯綜
SpaceyGoblin
旅立ち
勢いよく玄関のドアが開く。ドンドンと床を鳴らし、荒い呼吸が徐々に近づいてきた。
「電気ぐらいつけとけって」
真っ暗な部屋に男が入ってきた。
その男の両手には大きな黒いボストンバッグがぶら下がっている。バッグを畳に落とすと床の埃が宙に舞った。天井から垂れている細い紐を引くと部屋全体が明かりに照らされる。
男は続けざまに勢いよくカーテンを開けた。
強烈な外の光が闇を跳ねのける。
「ごめんごめん。だから俺には必要ないって言ってるじゃん」
既に部屋にいた男が言う。
男は散らかった低いテーブルに胡座をかき、なにやら手元を精密に働かせていた。
「準備できてんのか、健人」
カーテンを開け放った後、便所座りで健人と呼ばれるその男の顔を覗く。
「そんなに顔を近づけないでよ、藤田さん。はい、これ」
健人は藤田になにかを手渡した。
「やっぱりおまえ、俺よりもずっと上手に巻くよな」
藤田は、健人から受け取った煙草のような物を宙に透かして見せた。
「昔から器用だからね」
得意げに言う健人は気合を入れ直すように膝を叩くと、藤田が持ってきたボストンバッグのジッパーを開ける。
中に入っている大量の札束の一つを手に取り、顔を宙に向け一枚一枚繊細な手つきで数え始めた。その様子を満足げに見ていた藤田は、口に咥えた煙草のような物に火をつける。
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