第2話2・チートがな話


 アルカスは生まれてから3歳までの記憶がない。

 だが、それより前の記憶があり、前世の自我が融合している。


「にーにー」


 2つ下の妹、レピーに懐かれ、溺愛しながら彼は思う。


(何処が呪われてるんだろう)


 ウゼスとのやり取りが夢だったのではないかと思われる。


 アルカスは比較的裕福な村で育つ。

 母、メーネは赤茶な髪で、とても美しい清楚な女性。

 父、アンピリオンはたまにしか帰って来ないが優しく、男でも見惚れて仕舞いそうな容姿で、アルカスとレピーと同じ金髪だ。

 2人の容姿から自分の将来に希望を持つ。


(これはきっとモテるはず)


 そう思った彼は皮を剥いた。


(5歳から剥けてたら立派に育つでしょ)


 将来の安寧を確信している。

 そう思うのも、父が王都に暮らす、裕福か高貴な人だから。

 母は現地妻で、父の支援が村を豊かにしているお陰で村人から良くして貰えている。

 子供にそんな内情を話す者は居ないが、普通の子供でも薄々気付く。


(もしかしたらハーレムスローライフおくれるんじゃね?)


 そんな期待に思いを馳せる。




 6歳の誕生日、男子のその日は祝われると言うよりも振る舞うのが村の習わしだった。

 振る舞われる山羊を自分で捌く。

 それがとにかく憂鬱だった。


(嫌だなぁ、怖いんだよなぁ)


 村で暮らしていれば山羊を絞める所に遭遇する事もしばしばだったが、アルカスはそれが苦手だ。

 見てしまった後は当分肉が食べれなくなる。

 その日の山羊は既に大人が絞めてくれているので捌くだけなのだが、山羊の死骸を前に立ち尽くしてしまう。


「初めは、おっかないよな」


 と父、アンピリオンが後ろから頭を撫でる。

 アンピリオンが朝から家に居るのはアルカスが記憶している限り初めて。


「でも、お前の為に死んでくれたんだからちゃんと捌いて食べてあげないとな」


 言いたい事は分かる。だからといって手の震えは止まらない。

 アンピリオンはそんな息子に手を添えて導く様に一緒に捌いてくれた。


 何とか捌けると、達成感が感じられる。


「綺麗に捌けてますね」


 母、メーネが目線を同じにして頭を撫でる。


「うん。お父さんに手伝ってもらったけど」

「それでもちゃんと出来て、立派ですよ」


 メーネはそう言うと立ち上がり、アンピリオンを見る。


「(良く出来ましたね。練習したのですか?)」

「(ああ。ここ1ヶ月毎日)」


 小声で喋っているのでアルカスは肉に夢中で聞いていない振りをする。

 この通過儀礼は田舎特有のモノで育ちの良いアンピリオンは行っていない。

 なんなら1ヶ月前まで包丁を握った事も無かった。


「(アルカスの為にありがとうございます)」

「(何、ただ父親らしい事してやりたかっただけだよ)」


 両親の愛情を感じる。


(こんな幸せな呪いとかないでしょ)


 ウゼスとのやり取りは夢だったんだと思う。




 10歳になった時、アルカスは数日間高熱にうなされた。


(インフルエンザかな・・・)


 そんな名称は誰からも教わっていないし、そもそもリシギアに存在しない。

 そう言う知識は口には出さない様にしているが、無意識に出てしまう事もあり、村では聡明な子と持て囃されている。


 熱が治まり、ベッドから出ると妹、レピーが居なかった。


「お母さん、レピーは?」

「にーにーが元気になる様にって山羊の乳を貰いに行ってくれてますよ」


 なんと愛おしい妹なのだろうと顔がにやける。


「じゃぁ迎えに行ってくるね」

「体が大丈夫ならいいけど、無理しないでね」

「うん、大丈夫。行ってきます」


 迎えに来たと知った時のレピーの喜び様を想像して、ワクワクしながら家を出た。


「おや?アルカス君。もう風邪はいいのかい?」


 自宅から1番遠い家に来た。

 近頃子を産み、乳の出る山羊が居るのはこの一軒のみ。


「はい、治りました。あの、レピーが来ませんでしたか?」

「レピーちゃんなら一足先に帰ったよ」


 入れ違いだった様だ。


(すれ違って気付かない様な道じゃないんだけどな)


 アルカスは行きとは違う道を足早に戻る。

 そこに男の子3人に囲まれて、うずくまって泣いている女の子。

 女の子をイジメたくなる男の子心は分かるが、見過ごす訳にも行かない。

 急いでいるのだが周りの評価も気になるし、何より颯爽と助けて女の子に好かれたい。


(将来の嫁候補?)


 そんな事を考えながら走りよる。


「やーい、妾の子。お前も妾にしてやろうか」


 アルカスは自分達家族が村の経済に多大な影響を与えているので、自分の力で無いにしても敬われている存在だと思っていた。

 そんな風に言われているとはつゆほども思っていなかった。

 イジメられている娘が妹だと分かった途端、もの凄い怒りが湧いてくる。


「おい!やめろよ!」


 男の子の腕を掴み振り返らせる。


「いてー!いてー!痛いよー!」


 男の子が肩を押さえながら転げ回る。


「てめー、何しやがった!」


 アルカスも状況は理解していない。


「聞いてるのか!?」

「触るな!」


 肩に触れた手を振り払う。


「あぁぁぁ!」


 振り払われた男の子も肘のうら辺りを押さえ、膝から崩れる。

 2人共触れている所より先がダランと垂れている。

 脱臼と骨折か。

 何故そうなったのか分からないが形勢が自分に向いているのは確かなので、


「お前ら、二度と妹に近付くな!」


 と啖呵を切った。


「お前達、何をしているんだ!?」


 男の子の絶叫で大人が集まって来た。


「大丈夫!?」

「レピーちゃんもどうしたんだい?」


 男の子達を介抱する大人とは別に男性が1人レピーの肩を撫でる。


(子供が妾なんて言葉使うって事は大人が話しているのを聞いたからだ)


 そう思うとまた怒りが汲み上げる。

 そしてレピーの肩を男が撫でるのが許せなくなってくる。


「汚い手でレピーに触るな!」


  ぐちゃり


 男の子達の脱臼や骨折は偶然で説明付きそうだったが、今回はそうはならなそうだ。

 明らかにアルカスの握った前腕が握り潰されている。

 彼自身もそれで認識する。

自分が怪力になった事を。


(これってチート能力ってやつ?)


 ウゼスとそんなやり取りをしたような気がする。

 夢ではなかったのだと再認識する。

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