第4話母、小林夏美

夏美は自転車で15分の場所にある、高齢者デイサービスの職員である。勤めて15年の中堅職員だ。

この日は、日勤で朝9時から17時半までの勤務である。

千紗が引きこもりになるまでは、遅番、夜勤とシフトに組まれていたが、同級生の管理者・池上純子に事情を話すと、快くシフト変更を受けてくれた。

昼間の、食事介助が終わると、後輩の西直子とスタッフ休憩室でお昼ご飯を食べた。

西は介護を始めてまだ、2年目の新人であるが、てきぱきと仕事をこなし、夏美は西を信頼している。

2人で談笑しながら、食べていると池上が部屋に現れた。


「夏美ちゃん、来週の職員交流会また欠席するの?たまには、息抜きしたら?」

と、サンドウィッチを食べながら池上が言った。

「うちは、あれだから」と、夏美。

「私は夏美が心配なの。娘さんの事は可哀想だけど、これは日にち薬なんだから」

「うん、考えてみる。でも、うちの旦那、私がいないと何にも出来ないんだから、心配で」

「じゃ、一次会だけ顔見せてよ。一次会なんて、8時には終わるから」

「じゃ、その日の晩御飯は出前を取ってもらおうかしら」

「先輩。うちら、若い子チームは先輩の仕事振りを見習っているんです。特養の子達にも人気があるんですよ」

「直子ちゃん、私はもう38のババアなの。仕事振りは課長の純子ちゃんを見習いなさいよ」

「夏美、私はもう現場じゃないの。現場のことは、私より夏美の方がお手本よ!来週の、交流会参加でいいわよね?」

「うん」

夏美たちは、短い休み時間を終えて、現場に戻った。


夏美は仕事を終えると、スーパーに寄って、晩御飯の材料を買って帰宅した。

まだ、一郎と健太は帰宅していない。

家には夏美と部屋に籠る千紗しかいない。相変わらず、ネットゲームをしているようだ。クレカの明細で、ゲームで課金している事が証明している。

今夜のおかずは豆腐ハンバーグだ。

一郎が中年太りしてきた。ヘルシーなメニューにした。

「ただいま~」

健太が帰って来た。三年生の6月にサッカー部を引退し、受験勉強に勤しんでいる。

「オイッスー、ただいま~」

馬鹿な言葉を発し帰宅したのは、一郎だった。

夏美は2階のドアの前に、夕御飯を置くと3人で夕食を始めた。

「ねえ、お父さん。来週の金曜日、職場の交流会参加してくる。一次会だけ」

「いいよ!行っておいで」

「ありがとう」

「晩御飯はオレが作る」

「いや、出前でも頼んだら」

「オレは料理の鉄人見てた世代なんだ。任せておけ!」

「……ありがとう」

健太は厭な予感がした。それは、夏美も同じであった。

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