54.告白
「あ! 和人君!!」
突然の和人の登場に、都は驚いた顔をしたが、途端に笑顔になった。
「どうしたの? 和人君?」
都はすぐに和人の傍に駆け寄ろうとしたが、高田の手が伸びた。
高田は都の手首を掴んで、和人の傍に行くことを制した。
「都ちゃん、待って」
「!?」
都は驚いて高田を見上げた。
しかし高田は都を見ておらず、その奥の和人を見ている。
「津田君。邪魔しないでくれる? 俺は今、都ちゃんと二人で話がしたいんだけど」
高田は軽く和人を睨んでいる。
和人はまだ息が整わない。それでも何とか言葉と絞り出した。
「それは・・・、それは出来ないよ。高田君・・・。君が・・・、君が何を言うのか分かっているのに・・・」
膝に手を置いたまま、苦しそうに高田を見上げた。
「???」
都は不安そうに二人をキョロキョロと交互に見た。
和人はゆっくり膝から手を放し、立ち上がると、懸命に呼吸を整えた。
そして、勇気を出して、大きく一歩前に出た。
「高田君。手を放してくれる? 都ちゃんは、僕の彼女だから」
「え・・・?」
高田は目を丸めた。
和人が都の事を好きなのは知っていた。だが、唯の幼馴染だったじゃないか。
高田が告白することを嗅ぎつけて、自分も告白するつもりで駆け込んできたんじゃないのか?
それが、『彼女』?
いつの間に先を越されたんだ?
この男にそんな勇気があったのか?
それよりも、まさか、都がこの男の申し出を受けたのか?
高田は都を見た。
都は口を半開きにして、目を丸めていた。
しかし、見る見る顔が輝き出したと思ったら、バッと高田に振り向いた。
「聞いた?! 高田君!! 今の!!!」
「・・・え?」
都の勢いに、高田はますます目が丸くなった。
都は高田に捕まれた手を振り解いたと思ったら、今度は高田の両手首をガシッと掴んだ。
そしてその手をブンブン振った。
「きゃあ!! そうなの! そうなの! 都、和人君の彼女なの!!」
嬉々とする笑顔で高田を見た。
「高田君も、ちゃんと聞いたわよね?! 今、和人君が都を『僕の彼女』って言ったの!」
「う、うん・・・」
「あーん! 録音したかったぁ~! 高田君、もしかして録音してない?」
「・・・いや・・・」
都は高田の手と掴んだまま、和人に振り向いた。
その目はキラーンと光っている。
「和人君・・・」
都は高田の手をパッと放ると、じりじりっと和人に近づいた。
和人は思わず一歩下がった。
「え、えっと・・・、都ちゃん・・・? その・・・、録音とかしないよ・・・?」
「う~~。じゃあ、録音しないから、もう一回言って! 都、よく聞こえなかったから!」
「いや、ちゃんと聞こえてたよね?」
「もう一回聞きたいの!!」
まるで獲物を捕らえるかのように両手を前に構えて、じりじり寄ってくる都に、和人もじりじりと後ずさりする。
「そ、そんなことより、都ちゃん。準備委員でしょ? ほら、集まりに遅れるよ! ぼ、僕も図書室に行かないと!」
「そんなことじゃないもん~!」
「きょ、今日は体育館だっけ? そこまで送ってあげるから! ほら、早く行こう!」
「あ゛~! 待って~! 和人君~!」
くるんと向きを変えると逃げるように歩き出した和人を、都は追いかけて行った。
★
すっかり存在を忘れられた高田は、ボーゼンと二人を見送った。
そんな高田の肩を誰かがポンポンと叩いた。
「ドンマイ」
「・・・佐々木さん・・・」
静香は気の毒そうに高田を見ると、大げさに肩を竦めた。
「都は可愛いけど、あの通り中身はちょっと残念な子だから」
「佐々木さん・・・」
「ま、都にこっぴどくフラれたところで、高田君の輝かしい経歴には傷は付かないから、安心して」
「・・・」
「明日は体育祭なんだから、今日の事をウジウジ引きずって、参加競技に影響しないようにね。応援してるわ」
静香はにっこりと笑って、もう一度、高田の肩をポンポン叩いた。
「・・・佐々木さん」
「あ、そうそう、よくあるじゃない? 失恋を慰めてくれた女子を好きになるって構図。悪いけど、そういうのやってないから。私、彼氏持ちなんで」
「・・・」
「じゃあね。ごきげんよう。高田君」
静香は高田に手を振ると、踵を返し、さっさとその場から立去ってしまった。
都のみならず、何故か静香にもフラれた高田は、暫くの間、廃人のようにその場に立ち尽くしていた。
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