10.和人の思い
和人が都を嫌いなるなんてあり得ないことだ。
和人にとって都は天使だった。
都は小さいころから可愛らしくて、初めて会った時から、その愛らしに目を奪われていた。
そんな可愛い女の子が、チビでデブの自分の手を躊躇なく繋ぎ、一緒に歩いてくれる。その上、自分の話を楽しそうに聞いてくれる。
そんな都を好きにならない訳がない。
我儘でよく振り回されるが、和人にとっては、それを差引いても余りある程、都は可愛らしかった。
都になら何をされても嫌とは思わないだろう。
じゃあ、何故、許嫁を辞めたいのか?
それは、都が『可愛くなり過ぎ』たから。
中学生の頃から都は見る見る可愛くなっていった。
普通にしていても十分可愛いのに、せっせと女子力を磨いているようだ。
そして、都が洗練されていくにつれて、冴えない自分との差がどんどん広がっていく。
周囲からは、どうしてこんなに可愛い女の子が、自分のようなチビでデブの男と一緒にいるのかと奇異な目で見られていた。
辛うじて、成績だけは常に学年の上位に身を置いていることだけが、周りの納得材料だった。
そんな状況をまったく意に介していない都とは裏腹に、和人は常に居たたまれない思いをしていたのだ。
都はこんな自分を堂々と世間に『許嫁』であると公表したいようだったが、和人はそれを何とか思い止まらせた。
『許嫁っていう事は二人だけの秘密にしよう』
と持ち掛けると、都は、それはそれで目を輝かせた。
『二人だけの秘密』と言う言葉が、都には甘美な響きだったらしい。
二つ返事で了承したが、あくまでも『許嫁』であることを黙っているだけで、都の和人への態度は全く変わらない。
自分の傍から離れるという考えは皆無のようだった。
和人は自分の意図が伝わらず、結局、毎日のように一緒に過ごし、周りの男子らからやっかみを受けながらも、中学校は卒業した。
高校生になると、都はますます綺麗になってしまった。
中学生の頃よりも、はるかに男子にモテるようになった。
よく告白されているところを見かけた。
その度に、自分に義理立てして断っている都を見ると、胸が痛んだ。
和人は、自分が都に嫌われてはいないことは十分に分かっていたが、好かれているという自信はどうしても持てなかった。
都の精一杯のアピールも、自分が『許嫁』だから仲良くしてくれていると思っていたのだ。
こんなに天使のように可愛い子に、本気で自分が好かれるわけがない。
いつか、彼女には本当に好きな男性が出来るだろう。
そんな時のために、自分もこれ以上都を好きにならないようにしないと・・・。
そう思い、少しずつ距離を置こうとしても、都はすぐに距離を詰めてくる。
それに動揺しながらも、心の中では嬉しく思い、もしかして、本当に自分のことを好きなのかと勘違いしそうになる。
だが、やっぱりそれは勘違いだったと思い知らされる出来事と遭遇した。
ある日、同じ特進科クラスのイケメン君と仲良く一緒にいるところを目撃してしまったのだ。
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