A級ロマンスで行こう

沈黙静寂

第1話

 皆が恋愛する意味を理解出来ない。クラスの色気立った馬鹿騒ぎに迷惑する。このことを日頃付き合いのある未栗みくりに伝えてみれば、「あたしは理解出来るけど」と納得してもらえなかった。

 わたしは恋愛感情も性的欲望も持ち合わせていない。その方が風通しの良い人生を送れていると自負するけど、世間の反発は大きい。

「本気の恋愛をしたことがないだけじゃない?」確かに完全なる反論は為せないが、世間の恋愛作業だってわたしの目には本気であるように見えない、ただのゲーム攻略だ。

「子供みたいなことを言うな」わたしに言わせれば性に踊らされ愛を錯覚する大人共の方が幼い。生殖なら性行為時のみペアを組んで、育児は外注化すれば済む話だろう。

「大人になれば分かるよ」それは年を重ねた後に人間同士の違いを漸く自覚し、寂しくなった末に劣化した頭脳から出た言葉だろう。わたしが独り暮らし向きであることは既に確証があり、他人に依存する程柔ではないことも明らかだ。自分が作り上げた狭苦しい観念を他者に押し付けるなよ。

 わたしは他人に興味が無いし、生まれたとしても大方直ぐに飽きる。自覚している無表情はわたしらしくて素敵だ。世の中の両性は何故そこまでモテる、モテないを注意するのか、安心感を得たいのか、遺伝子を残したいのか、全くよく分からないね。

「単純に顔に惹かれるんじゃない?」未栗は電車の中でマジョリティの浅慮を解き明かす。二年間隣に座ってきた彼女はあくまで友達であり、仮に恋人と定義されたら腰は今のように落ち着けられない。自然体で居られるこの時間が、わたしの人生の隙間を埋める上で大切なんだ。

 因みに未栗から浮いた話は噂されない。本人曰く昔は彼氏が居たらしいが、これまで男の横を歩く様を見たことは無いし、実はわたしと同じタチの指向なのではないかと薄々期待していた。

「…………あの、言いたいことがあって」そんな彼女がタイムリーな口の開き方をした。

「私、あなたのことが好きです。これからは恋人関係になりたいです」

 突然の告白だった。この瞬間、友達だと思っていた人間が透明に溶ける。隣人までが無表情を愛してしまった。

「私なら大丈夫だよね?」普段と変わってしまった緩んだ顔でこちらを覗く。わたしは見つめ返して心を整理した。

「ごめん、もう付き合えないわ」

 そう言って通学途中ながら降車した。わたしは口先だけの禁欲気取りではない。他人と言葉を交わす以上の関係は身体が痙攣して仕方ないんだ。本当に無理だから。長い間共に過ごしてきた彼女と縁を切る。

 バイバイ、バイセクシュアル。列車を変えることにした。

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