リスカ
サトウ
第1話
くらやみは深く、スマホの明かりだけが部屋の中でボンヤリと浮かんでいます。それは、まるで星のようにこうこうと輝いていました。
ある月曜日のことです。少年はその身から鮮血を滲ませていました。
生きていることの実感に飢えていたのです。しかし、それはある種のウソのことばで、現実の苦しみを
どうにもできない苦しみを、その身から解放しているのです。ニヤついた、焦燥に焦げついた笑みを浮かべながら、彼は泣いているのです。そのうち、代替された
跡はやけに、目についてしまう。その赤みを帯びた線の数々に、少年は思いを馳せます。長い袖に隠された生きているという証が、自分に脈々と受け継がれているのだと。
また怖くなって、少年は袖で傷口を隠しました。隠すことで、こんなことをしなければ生きていけない自分に気がついて動揺してしまい、涙が袖に滲んでいきました。
涙の落ちた円形の跡と、線状に滲む血をぼんやりと少年は眺めていました。こうやってどちらも流さなければ生きていけない自分は人間のなりそこないなんだ。そんな考えが少年の体中を駆け巡って、ふきだしていきます。
「死にたい」
その小さなことばは、空気を振動させ、他人に聞かれることもなく、少年の鼓膜と心を揺らします。
生きていくことは、あまりにも少年にとって重荷でした。
昔、ドロッとした自分の悩みを相談したことがありました。それはふいに、少年から漏れてしまったのです。彼は残念なことに、恵まれた人間ではありませんでした。彼の目の前にいる女性は、そのドロッとした悩みを受け止めてくれる存在ではなかったのです。
少年が俯いていたその顔を、現実と向き合わせようとした時に、彼は見てしまったのです。その女性の顔色を。
そして、その後に発せられたことばが、彼の心を完膚なきまでに粉砕してしまったのです。
そうして、壊れてしまった関係は二度と戻ることはありませんでした。よそよそしい、他人のような存在へと変えてしまったのです。
少年は心に刻みました。自分の存在はあやまちのようなもので、自分の心など理解してもらえないのだと。
少年はくらやみの中で自分が死んでいるのか、生きているのか分からなくなっていました。ぐるぐると駆け巡る思考がそうさせるのです。そうして、また自分に刻み込むのです。その瞬間だけが、彼を正常に戻してくれるのですから。
少年の思考回路は既にオーバーヒートを起こしていて、熱に浮かされていたのです。瞬間的にその思考を冷却したところで、絶えず呪いは彼を包み込んでいくのでした。
「おはよう」
「おはよう」
気がつけば、世界は朝日を浴びていました。彼もまた、朝日を浴びていました。
朝食をむりやり胃袋に詰め込んで、身支度を整えます。
「いってきます」
「……いってらっしゃい」
彼はドアノブを握り、深呼吸に似た深いため息をつくと、ドアを開けて出ていきました。
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