私が彼女を殺した

キザなRye

全編

 病室で一人、誰にも見送られることなく死を迎えようとしている。私には見送ってもらえるような家族がいない。意図的に誰とも結婚せずにここまで来た。大切な人を私の手で殺してしまったためである。

 高校時代から交際していた彼女と大学一年生の時に久しぶりに会おうという話になっていた。この日から一週間前にある感染症の感染者との接触があったとアプリ上で通知があった。そのアプリ上では接触から七日間は体調の変化などに注意するとともに感染を拡大するような行動は控えるようにと記されていた。会おうとしている日はもう七日以上経っており体調的にも何ら問題なかっていたので出かけた。

 それから一週間も経たないうちに彼女から連絡があって感染症に感染したと報告された。この瞬間に私は自分の責任を痛感した。私が実は菌を持っていたのかもしれない。私が感染する要因を作ってしまったのではないか。私と会ったことで感染してしまったのではないか。あらゆることを考えに考えた。私が感染に関与したかどうかは分からないが、そのときには謝罪をすることしか出来なかった。

 こちらから連絡を取り続けることしか私に出来ることはなく、体調の変化がないかということを確認し続けていた。最初の方は連絡が返ってきていたのだが、段々連絡が取れなくなってきた。一週間程度音沙汰がなかった後、急に連絡が来た。文面はどうやら彼女の母親からのようだった。その連絡によれば体調が悪化して入院したとのことだった。私はただ心配することと全力で感染する要因を作ったことを謝罪することしか出来なかった。

 私は彼女の体調が戻るのを祈り、感染を引き起こしてしまったという申し訳なさに苛まれながら一週間近く過ごした。心配が募りに募っている頃に連絡が来た。ただその連絡は彼女からではなく、彼女の母親からだった。そしてその内容がプラスのものではなく、最も最悪な内容だった。感染症によって身体を蝕まれて命を落としてしまった。

 私が軽い気持ちで彼女に会いに行ったことを引き金としてウイルスに感染してしまい、それによって私にとって一番大事な人を失ってしまった。私のせいで自分の大切な人を失ってしまった。この人と自分は一生生きていくんだと決めていたからこそ喪失感が大きかった。

 そのときに私はこの人生を一人で生きていくと決めた。正確には彼女がいるつもりで生きていた。気持ちとしては独身ではなく、既婚だった。色々なところに彼女の写真を飾っていたし、携帯の待ち受け画面も彼女の写真にしていた。

 人生を振り返ってみてやはり彼女のことは気に病む部分があった。まだまだ人生これからというところで殺めてしまったことを死んだらきちんと謝りに行かないと行けない。許してくれたら良いな。

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私が彼女を殺した キザなRye @yosukew1616

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