第16話 ロリッ娘と ”ナノコスト”

 ディーヴァに真っ二つにされた金属蚯蚓メタルワームは逆に好機とばかりに、両断された頭側と尻尾側それぞれに、攻撃本能を宿らせた。

 頭部側ワームAが、思わず快哉を叫んでしまった俺に。

 尻尾側ワームBが、自分をちょん切った憎きディーヴァに。

 さらに猛然と襲い掛かってきた。


(剣が――ない!)


 これでも俺は自他共に認める?世界ハイセリア最強の騎士だ。

 たとえ ”騎士の鎧ナイト・メイル” がなくても、これぐらいの窮地は切り抜けてみせる。

 だがそれも、武器があってのこと。

 いくらなんでも素手で、あんな化物を相手にはできない。

 鎧もアスタロテと逃亡する際に、脱ぎ捨ててしまっている。

 今身につけているのは汗と、敵と自身の血に塗れた鎧下よろいしただけだ。


(剣が欲しい! 剣がっ!)


 俺は心の底から、鍛えられた一振りの剣を渇望した。


しろ! マスターナイト!」


 ディーヴァから鋭い声が飛んだのと、俺がしたのはほぼ同時だった。

 瞬間的に右手が熱を帯び、掌に重たい手触りがされた。


「りゃーーーーーーーああああああっっっっ!!!!」


 意味不明な絶叫がほとばしり両手に握られた長剣が振り抜かれれば、極大の運動をエネルギーを持った金属同士が激しく衝突した。

 飛び散った火花が薄闇うすやみを照らし、悲鳴のような耳障りな金属音が響き渡る。

 両手の骨が粉々に砕けるのでは、と思えるほどの衝撃。


 それでも鍛錬だけは怠らなかった鬼畜騎士の両腕は、耐えた。

 衝撃が弱まったとき、メタルワームは円形の口から横一文字に、動体の半ばまでを斬り裂かれていた。

 のたうち回って、俺から離れる金属の蚯蚓ミミズ


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!!」


 全身からドッと噴き出す脂汗。

 心臓が喉から飛び出るような荒い呼吸も忘れて、俺は手の中の剣を見た。


「な、なんだよ、これ!?」


 想像したら――創造した!?

 まさか俺にもディーヴァみたいに、エネルギーから物質を作り出す力が!?


「似ているがノーだ」


 その時ワームBを前蹴りひとつで吹き飛ばしたディーヴァが、シュタッと俺の横に着地した。


「マスターナイトが行ったのは、ナノマシンを使った物体の顕現けんげん化だ」


「ナノマシンを使った物体の顕現化かぁ!?」


「そうだ。治療のために注入されたナノマシンを体外に放出し、マスターナイトの想像イメージ創造クリエートしたのだ」


「す、す、す、スゲエエーーーーッッッッ!!!」


 俺もしかして、”クリエイト・グレーター・アイテム” を修得しちゃった!?

 最強の(鬼畜)騎士なうえに、最強の汎用量子オートマトンのマスターで、今度はアイテム作製能力だって!?

 チートだ!

 これをチートと言わずして、いったい何をチートと言うのか!


「よ、よーし! 見てろ、ミミ公! 一〇倍にして返してやる!」


 そして、俺は想像した!


「いでよ、ジャベリン!」


 何も起きない。


「いでよ、ジャベリン!」


 何も起きない。


「? 投げ槍を創造したいのか、マスターナイト?」


ノー! 創りたいのは歩兵携行式多目的ミサイル、FGM-148!」


 あれがあればミミズワームどころかドラゴンワームだって、一発でボッカーンと!


「それが何かアクセス可能な拡張記憶領域にヒットするデータがないので不明だが、マスターナイトが正確な構造を知らない限り、ナノマシンを変化させることはできないだろう」


「………………えっ?」


 絶句する俺。


「で、でも、剣は創れたぞ!?」


「それはマスターナイトが構造と製法を熟知していたからだ」


 言われてみれば、そのとおりだった。

 マキシマム・サークは、剣や甲冑だのといった武具に異様なまでの執着があった。

 それは騎士として興味を遙かに超えていて、鍛冶屋に弟子入りして、その手で剣を打ったことさえある。

 俺の万能感と高揚感は、あっという間に萎んでしまった。

 携帯型ミサイルの構造?

 マキシマムはもちろん瀬名岳斗だって、そんなの知ってるわけがない。


「クソッ! それじゃせめて盾ぐらいは!」


 そして、創造する。

 何も起きない。


「盾! 盾! 盾!」


 何も起きない。


「畜生、なんでだよ!?」


 盾なら構造も製法もマキシマムは知ってるぞ!?


「ナノコストが足りないのだ」


「ナ、ナノコスト!?」


「マスターナイトに注入されたナノマシンは、損傷した細胞を修復するために六五パーセントが使われている。さらにその剣を創り出すために二五パーセントが消費された。残りの一〇パーセントで創造できる物しか、今は顕現化できない」


「そ、それがナノコストか」


「イエスだ。減少したナノマシンが増殖して、再び最大量になるまで時間が掛かる。それまでは相応の物しか創り出せない」


「まるでマジックポイントだな……」


「――マスターナイト、ワームが立ち直ったようだぞ。ご丁寧にダメージの再生までしている」


 ふたりの視線の先で、二匹にのメタルワームが再び鎌首かまくびをもたげた。


 喋ってないで追撃をするべきだった。

 いや、それも駄目だ。

 奴の生態や弱点がわからないかぎり、トドメはさせない。


 どっちにせよ――。


 残り一〇パーセントのナノマシンで何を創り出し、どう使うか。

 この戦いの帰趨きすうは、それで決まる。


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