第一章 おまえがわたしのマスターだ
第1話 いきなり ”死刑宣告”
「――格別の配慮をもって、タイベリアルの騎士マキシマム・サークに命ずる!
(……はい、どうみても死刑宣告です。ありがとうございました)
やあ、そこの君。
そうそう。
そこのディスプレイだか、モニターだかの向こうにいる君だよ。
初めまして。
俺は
俗にいう異世界転生に遭って、たった今名指しされたマキシマム・サークっていう騎士になった、この物語の
……。
わかってる。
物語の冒頭からこんなメタな発言するのは、面白さを勘違いしてる寒い作者のすることだって。
でもさ、こういうわけのわからない事態に陥ったとき、
他にもICレコーダーに、いちいち録音したりする人もいるね。
映画とか海外ドラマでたまに観るだろ?
とにかく俺は異世界転生した。
転移じゃなくて転生だ。
魂だか精神だけが、びよ~んと元の世界からジャンプして、このマキシマム・サークって騎士に入り込んでしまった。
それが現地時間で約一ヶ月前の話。
幸いなことに、人格は瀬名岳斗のままだった。
さらに幸いなことに、マキシマム・サークの記憶もそのままだった。
つまり俺は元の人格のまま何の苦労もなく、この世界の国際情勢・風俗・法律・歴史その他諸々の情報を得られたってわけ。
実にご都合主義――じゃなくて運が良かった。
だけど世の中、そんなに美味しい話ばかりじゃない。
ここからは美味しくない、運が悪い話。
この世界はいわゆる中世ヨーロッパ風の世界で、運が悪いことにふたつの国が戦争を始めたばかりだった。
さらに運が悪いことにマキシマム・サークは出征中で、さらにさらに悪いことにこのマキシマム、みんなから鬼畜騎士って呼ばれるくらい評判の悪い男だった。
とにかく乱暴者で、手癖、酒癖、女癖、ついでに寝癖と悪癖のオンパレード。
黒髪に近いダークブラウンの髪と瞳。
顔は……まあ、
中肉中背だが腕っ節だけは抜群に強くて、国でも屈指の剛の者と言われている。
三国志の武将でいえば、
その異世界の呂布が罠にはまって全滅寸前の味方を救うために、戦場に最後まで残って味方の撤退を援護する殿軍を命じられたのが、冒頭のシーンってわけ。
まったく、せめて『追放』にしてくれよ。
「どうした、タイベリアルのサーク卿! 勅命であるぞ!」
勅命っていわれてもねぇ、参謀長閣下。
皇帝陛下は何百キロも離れた帝都の皇城じゃないですか。
「はぁ、光栄です。頑張ります」
なんとも覇気と当たり障りのない返答に、会議の間にざわめきが走った。
『ふん、あのマキシマム・サークもさすがに臆したとみえる』
『これまで繰り返してきた傍若な振る舞いの報いよな。いい面の皮よ』
『名誉ある殿軍での戦死など
etc、etc.
集められた諸卿の間から漏れ聞こえる、一切の同情のない
いやぁ、嫌われてますねぇ、俺。
「――しかし」
「?」
「いくらサーク卿が勇剛でもって鳴るとはいえ、卿とその郎党だけでこの城塞を守るのは至難。そこで以下の者たちにもサーク卿と共に殿軍を命ずる」
そうして参謀長が、次々に名前を読み上げる。
「ハリスラントの騎士ロイド・ロウ!」
「ソファイアの騎士アスタロテ・テレシア!」
「ペリオの騎士ボーラン・ゴード!」
「ライセンの騎士カリオン・セダス!」
「以上の者にも郎党と共に、城塞の死守を命ずる」
(あら~~……)
ご指名を受けた、若い騎士たちの表情が凍り付く。
どの顔にも見覚えがある。
そりゃそうだ。
四人とも俺の――マキシマム・サークの
全員が一九~二〇才。
揃いも揃って優秀だが、揃いも揃って下級騎士の出身で、捨て石にするにはもってこい。
(気の毒に……)
俺はかつての級友たちに、心の底から同情した。
参謀長やその上の侵攻軍総司令官がこの機会に乗じて、目障りな次代の騎士たちを葬った。
……などということはまったくない。
それならまだ四人にとっては名誉なことだ。
そこに謀略や害意はなく、単に撤退時の
これでは彼らも泣くに泣けないだろう。
「殿軍の栄誉を賜り、恐悦にございます――ですが我らは全員が下級騎士。所有する ”
ハリスラントのロイドが願い出て、頭を垂れた。
”飛竜の翼” は飛翔能力を持たない ”鎧” に装着して、能力を付与する
支給されれば、わずかなりとはいえ生還の可能性があがるはず。
そして騎士が生き残れれば、その郎党にも希望が生まれる。
ロイドの望みも自身の生存ではなく、彼の……彼ら彼女らが率いてきた郎党たちを救うことにあるのだろう。
まさに騎士の鑑というべき行動だった。
そして逆立ちしても騎士の鑑にはなれない俺、マキシマム・サークは、
「あ~~、それいらないです」
ロイドの隣に進み出て、丁重にお断り申し上げた。
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