第16話 魔術特訓夜の部・後編
(こんなに悦んでもらえるなんて…)
熱っぽく喘ぐアランを、リーファは感慨深い思いで見下ろしてしまう。
他者に魔力を過剰に送るこの技術は、送られた側にとっては体の内側をかき乱されるような感覚がある。これを快と思うか不快と思うかは個人差があり、リーファはあまり好きじゃない。
しかしアランにとっては『今までに感じた事のない快楽』らしく、訓練を始めてからは毎晩ねだられるようになってしまった。
(乗り気なのはありがたいんだけど…なんか目的と手段がひっくり返ってるような気が…)
複雑な気持ちを振り払い、恍惚に打ち震えているアランの目の前で舌を出した。
「…さあ、体の内に余分なものが入り込んで辛いでしょう?
私に、アラン様のものを下さいな」
艶めかしく舌を動かすと、アランは物欲しそうに喉を鳴らし、リーファの唇にキスをした。
絡みつく舌を介して、リーファにアランの魔力が送られてくる。かなりゆっくりで量も微々たるものだが、これでも最初の頃に比べれば随分上達した方だ。
(早く、抱いてもらいたい…)
アランのがむしゃらな愛撫に、リーファの体が熱くなっていく。
アランから注がれるわずかな異物感は、恐らくは全ての生き物が持つだろう性的欲求によって
(………我慢、我慢………)
夜は長いのだ。こんな時間から張り切っていたら身が持たない。
慣れていない赤ワインを飲んだ事を後悔しつつ、リーファはちょっとだけ成長したアランの額にキスをした。
「…お上手ですね。それに、すごく可愛いですよ。アラン様…」
「からかう、な…っ、………ぬわっ!?」
文句を言おうとしたアランの耳の穴に、リーファは指を突っ込んだ。耳の入り口を、爪を立てないように指の腹で触れながら魔力を送る。
「ぐ、う…あ、あはぁ………!」
もはやまともに喋る事もままならない。アランは懇願するようにリーファの控えめな胸に顔を埋め、押し寄せてくる魔力と快感に身を委ねている。アランが手に力を籠めるものだから、リーファのネグリジェはすっかりぐちゃぐちゃだ。
「湯浴みから帰ってきたら、アラン様が一番気持ち良くなる所、探しましょうね…。
そういう所が、魔力を通しやすいんですから…」
「い、ま………今、が………いい…!」
「駄目ですよ。これからカールさんと、仲良くなりに行くんでしょう?
私がやきもちを焼いてしまうくらい、カールさんと仲良くなってきて下さい。
そうしたら、私───」
───ゴンッ、ゴンッ。
乱暴───と言うよりは叩く加減を間違えてしまったかのようなノック音に、リーファは我に返った。
扉の先にいる相手がヘルムートやシェリーであれば、こんなにぶっきらぼうなノックはしないだろう。
睦言も愛撫も訓練も全て止め、慌てて声を上げた。
「あ、は、はい!」
「そ、側女、殿っ………そっ、そこに、王は、おられる、だろうか。
いや、いるのは、分かっているのだが………っ」
声音からカールなのはすぐに分かった。しかし、しどろもどろとしている様子が扉越しにもよく伝わってきた。
(今までの会話、聞かれてたーーーっ!?)
リーファは一気に恥ずかしくなって、顔を真っ赤にした。
以前から、兵士達に部屋での声が聞かれていた事は知っていた。しかし、皆その話を口にする事はなかったから、リーファも気にしないように努めていたのだが。
こうあからさまに反応されてしまうと、さすがに心穏やかにはいられない。
「と、と、と、取り込み、中、ならば、次の機会に───」
「いっ、今大浴場に行かせますからっ!どうぞカールさんは先に行ってて下さいっ!」
カールの言葉を遮って、リーファは上ずった声を張り上げた。
そしてカールの返事を待たずに、
「ほ、ほらアラン様。カールさんが来ましたよ?
訓練は後にして、早くカールさんの所に───」
「まだ、だっ…!」
「えっ?!」
アランはソファから降りようとしていたリーファの腕を掴み、自分の方へと引き寄せた。腕の中に抱き寄せ、瞳にうっすらと涙すら溜めてリーファに乞いだした。
「なんでも、するっ………土下座でも…靴舐めでも、する………からっ。
早く………早く、続きをぉ………っ!!」
疼いていた体が急に冷え、ざわっと鳥肌が立った。
(魔力が、いつもより体外に出て行ってない…!?)
昨日とは違う状況に、リーファは困惑した。
この訓練は、扱い慣れていないアランの魔力を、リーファの魔力で無理矢理押し出す方法を取っている。
魔力剣の訓練と考え方は同じだが、魔力を通しやすい剣や発動体を持っていない為、自力で魔力を体外へ押し出さねばならず、身体的な負荷は大きい。
ただ、そうした負荷に気付けば、出しやすい場所から魔力を流すように体は出来ているのだ。
運動をすれば汗が噴き出るのと同じ理屈で、その場所を探り、流すコツを学ぶ為の訓練だった。
しかし、魔力が満たされる状態に味を占めたアランは、あろうことか意図的に魔力の流出を抑えているらしい。
「出て行こうとする魔力を無理矢理抱え込むとか、そんな事教えてませんよ!?
っていうか、土下座とかしてもらいたいだなんて、一度も言った事ないんですけど?!
そういう事するなら、無理矢理にでも魔力は返してもらいますからね!!」
変な事を覚えてしまったアランに腹を立て、リーファは彼のズボンのベルトを外し始めた。
「ひっ………い、いやだ…っ、やめろぉ…!!」
これから何をされるか理解してしまったのだろう。
暴漢に襲われている女の子のような悲鳴を上げて、アランはお
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