第15話 魔術特訓夜の部・前編
昼の訓練も騒々しいが、夜の訓練も別の意味で慌ただしくはある。
───コンコン。
湯浴みを済ませ時間を潰しながらその時を待っていたリーファの耳に、いつものノック音が聞こえてきた。
「あ、はい」
「入るぞ」
扉の先から短く声をかけ、アランが側女の部屋へと入ってきた。どうやら今日の仕事は全て終えてきたようだ。
「…取っ散らかっているな」
アランは側女の部屋をざっと眺め、怪訝に眉根を寄せた。
ガラスのテーブルには、赤ワインのボトルとワイングラスが二個、魔術関連の本や巻物を幾つか置いていた。普段は部屋に持ち込む事はないから、それを気にしたらしい。
体を温める為に飲んだ赤ワインで、思ったよりも酔いが回ったようだ。頬に赤みがさしたリーファは、気の緩みを恥じて主に頭を下げた。
「す、すみません。夜出来る訓練が他にないものかと調べてたら、こんなになってしまって…」
「毎晩私を蕩かし喘がせ翻弄しておいて、更に秘戯を模索していると?
ふふ、研究熱心だな。また上等兵に
「も、もう。そういうのじゃなくてですね…!」
「ああ、分かっている。
私を想って考えているのだろう?大いに励んでくれ」
そう言ってアランは満足そうにリーファを抱き寄せ、ワインの風味香る唇に軽くキスを落とした。
(…やだ、もう…はしたない…)
唇に残るキスの感触と、ワインの残り香を味わうように舌なめずりするアランを見て、変に興奮してしまう。リーファは
「が、頑張ります…。
…これから湯浴みですよね?では、私もお手伝いに…」
「いや、いい。今日は上等兵と裸の付き合いをする約束をしてしまったからな。
お前はここで調べものを続けていろ」
どことなく上機嫌なアランを見て、リーファは昼の訓練の事を思い出す。
詳しくは聞いていなかったが、どうやら『どちらがリーファをより悦ばせられる体か競いたい』らしく、大浴場で体の見せ合いを提案していたようだ。
(より悦ばせられるかなんて、見ただけで分かるのかな…?)
リーファが抱かれてみないと分からないような気がしたが、恐らく勝敗を決めたい訳ではないのだろう。親睦を深めるのが目的か。
「分かりました。…あの、あんまりカールさんを苛めないであげて下さいね?」
「ふふん、心外だな。お前には苛めているように見えるか。
大体、城下でも浴場で友人達と親交を深めるものだろう?」
意地悪く嗤って見せるあたり、アランも分かってやっているようだ。
(困った事にならないといいけど…)
カールがアランを快く思っていない理由までは分からないが、アランはこんな調子だし、リーファとしてはせめて関係が悪化する事態だけは避けたい。
リーファは悩ましげに唸って考え込んだ。実家に浴室があるのでそう頻繁ではなかったが、城下の浴場へ友人と足を運んだ事くらいはある。
「うーん………そう、ですねえ…。
湯上がりに友達と一緒に飲むレモネードは格別でしたけど…」
少ない経験談を何とか掘り起こすと、アランは朗らかに微笑んだ。
「ああ、それはいいな。
ならば、お前は我々の湯上がりに合わせてレモネードを脱衣所に持ち込むように」
「分かりました。姿見の側のテーブルへ乗せておきますね」
「任せたぞ」
そう話を切り上げるものだから大浴場に向かうのかと思ったが、アランはそうはしなかった。リーファを軽々と抱き上げ、ソファへと歩いて行く。
されるがまま、ソファに座るアランの膝の上に座らされてしまい、リーファは困惑した。
「え?あの、アラン様?」
「上等兵と待ち合わせている時刻まで、まだ時間があってな。
少しばかりなら、訓練に付き合ってやらんでもない」
どうやら拒否権は無いらしく、アランはリーファが羽織っていたショールを脱がせ、空色のネグリジェのボタンを外して行く。
(時間をかけてやる訓練なのに…)
唇を尖らせて不満顔を作るが、リーファは溜息一つで諦め、アランの上着とワイシャツのボタンを外していった。
「付き合うのは私なんですけど…。ちょっとだけですからね?」
「ああ」
ねだるように見つめてくるアランに苦笑を返し、リーファはその唇にキスをした。
ゆっくりと舌を絡め、アランの魔力を受け入れる支度をする。同時に、はだけたアランの胸元に手を差し入れた。
口内を貪りながらアランの素肌に指を這わせ、指先に精神を集中させた。自身の魔力を、指からアランの肌へ伝わせていく。
「…ん、ふ…ぅ」
リーファの魔力が体に入り込んできて、アランが艶っぽく声を上げた。荒く吐息を零し、辛そうに顔を歪め始めた。
一度唇を離し、アランに訊ねる。
「…魔力が流れていく感じ…分かります…?」
「体の…内側に、何かが…鈍く蠢く………。だから、何だという感じだがな…」
ソファに膝を立ててアランと向かい合わせになったリーファは、どこか惚けたアランの頬を撫でて笑った。
「最初は、そういうものらしいですよ。
慣れてくると体液を媒介にしなくても、肌に触れるだけで魔力を流せるようになります。
こんな風に───」
アランの首の後ろに手を回し、リーファは魔力を流し込む力を強めた。
ワイシャツを脱がしながら背中を愛撫すると、アランが身を震わせて熱い吐息を零した。
「あ、ああ、ゾワゾワ、する。すごく、すごく、いい…!
もっと………もっとだ…!」
伽をする時だってこんなにねだる事はそうそうない。アランは興奮に瞳を潤ませ、リーファの背中に指を這わせてきた。催促するようにリーファを掻き抱く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます