第14話 同胞探し・3~呪術師の目的
「おっと、動かないで下さい」
会話に乗じてサイスを強く握り締めると、呪術師がリーファの行動を制止してくる。
「あなたは、このグリムリーパーを助けに来たのでしょう?
だが、ワタシとしてはこの方陣を壊されるわけにはいかない。ですから───」
───ヴゥン
「…!」
呪術師の腕にはめられていた腕輪が怪しく光り、紫色の刃を生み出した。それを、そっとハドリーの頬に添える。
「こうさせて、もらいましょうか」
頬に触れると、じり、と音が鳴った。途端、さっきまで余裕綽々だったハドリーが痛みに顔をしかめる。
「ぐ、うぅ…!」
苦悶の声をあげるハドリーに、リーファは声を荒らげた。
「は、ハドリーさん。非実体化は?!」
「そ、それがねえ。この中心の方陣、どうやら”
実体化を強制されて動けないんだよ」
「そんな…!」
かつてマルセルにつけさせられた事を思い出して、リーファの顔が渋くなる。
あれからもアランが同じものを購入し、体を求められる度につけさせられていたから、不自由さは十分理解しているつもりだ。
(でも、”
かつての諸々を思い出して、ふと思いついた事があった。
「わたしの事は気にせず、君は帰りなさい。
この男に殺されようが方陣の栄養分になろうが、わたしの結果は変わらない───いたい、いたい」
ハドリーの説得を遮るように、見ようともしないで紫の刃で頬をえぐる呪術師。
「グリムリーパーに女性がいたとは知りませんでしたよ。
あなたがたは長命で、優れた魔力を持ち合わせ、魔物でも人間でもない特異な存在だ。
───隠れ家に持ち帰って、じっくり調べたい所ではありますが…。
あなたのその目。ワタシに服従するつもりはないと見える」
舐め回すように見つめられ、リーファは怖気に拳を握りしめた。
生理的嫌悪だと本能的に悟る。丁重に扱われようとも、あの呪術師には触られたくない。
「…ええ。私は操を立ててる方がいるから」
「ならば尚更ここに来るべきではなかったですねえ。
この状況、同じグリムリーパーならば見殺しにはできないでしょう?
───さあ、武器を捨ててこちらへ。ふたり仲良く、移動方陣のエサになって頂こう」
「──────」
口の中で小さく舌打ちして、リーファはサイスを手放した。宙に放られた長大なサイスは、あっという間に霧散する。
意を決して、リーファは円陣の中へ入る。呪術の陣を抜け、移動方陣も通り過ぎ、ハドリーを捕えている円陣の前で足を止める。
呪術師が一歩ハドリーから離れると、リーファの腕を掴んで乱暴に円陣へ押し込んだ。
「ぎ、───っ?!」
円陣に入り効果はすぐに現れる。リーファの体から力が抜け、立っていられずにその場に崩れ落ちた。羽織っていたマントがじりじりと溶けていき、ボロボロになっていく。
着ていたシャツがボロキレのようになって行き、羞恥に顔をしかめてリーファはハドリーを見やる。溶けた部分はさておき、牧師の服はしっかり形を成している。
「その牧師服は教会の支給品か何かで?」
「いやいや、自前だとも。でも、誰に遭うとも知れないんだから服だけは着ておきたいじゃないか。そこは全力で死守するよ」
「顔半分沈んでるのに余裕ですね?!」
突っ込みを入れているうちに、シャツは溶け肌着が露わになっていく。
一方、用が済んだであろう呪術師はまだそこにいた。円陣に囚われ肌を露わにしていく女を眺め、口の端を吊り上げて楽しそうだ。
(さっさと帰ればいいのに)
胸元を腕で隠していると、じわじわとブーツが溶け、素足が見えてきた。
只々見られるだけなのも腹が立ってきて、リーファは試しに呪術師に訊ねた。
「…一つ、聞いても?」
「ん?何です?」
「何故ラッフレナンド領内に移動方陣を?
この国は魔王領と対立してる。
鉱物資源に恵まれてるから、魔術師にとっては気になる環境かもしれないけど。
国を侵略しても、国として体制を整える前に魔王軍に攻め落とされるのがオチじゃない?」
リーファの問いに、呪術師は小馬鹿にしたように口の端を歪ませた。
喋る事に意味はないような気もしたが、誰かに聞いて欲しかったのだろうか。どこか誇らしげにリーファに語ってくれる。
「あなたは勘違いしている。
確かにこの地一帯に広がる資源は魅力的だが、そんなもの、他の土地で幾らでも手に入るのです」
「じゃあ…」
「カロ=カーミスの遺産───」
「!!」
その名前に、リーファは息を呑んだ。
どこか恍惚とした表情で天井を仰ぎ、呪術師は言葉を続ける。
「魔術師王国マナンティアルの、最後にして至高の王…。
カロ=カーミスが残した遺構は、何もあの王城だけではないのですよ?」
ラッフレナンドの興りに登場する魔術師の国と王の名前は、世間的に知られていない。忌むべき名として、
せいぜい、魔術師王国の城をラッフレナンド城としてそのまま再利用している、と伝えている程度だ。
故にそれら忌み名を知っているのは、物好きな研究者か、当時の関係者と縁を結んだ者達だけに限られている。
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