第14話 伝わりそうもない自己開示・1
結局、ラッフレナンド城へ到着したのは日が沈んだ後。夕餉の時間をやや過ぎた頃合になってしまった。
食堂の料理長は、森へ出かけた兵士やアラン達の分を残しておいてくれたので、何とか食事にありつく事が出来た。しかし煮物は切れてしまったらしく、ヘルムートは心底残念がっていた。
夕食を済ませ、そのまま浴場へ赴いて湯浴みを済ませたリーファは、側女の部屋に戻ってきていた。慌てて入浴を済ませた為、体は湯気が立ち、髪はまだ濡れたままだ。
解けた髪を頭にかぶせたタオルで拭きながら扉を開けると、まだ部屋の明かりは灯っていなかった。
(戻りは急だったし、火を灯すのを後回しにされたかな…?)
扉を開けたままにし、廊下の明かりを頼りに部屋の中央まで来た直後、リーファの背後にいきなり影が出来た。
振り返る間もなく、後ろから抱え上げられてしまう。
「うおっ?」
「遅い」
聞こえてきた声はアランのものだった。
彼はまだ湯浴みを済ませていないようで、出かけた時のままの格好だ。頬もひんやりしている。
自分の髪で彼の服を濡らさないようタオルを押さえながら、リーファは頭の上の主に声をかける。
「す、すみません。
あの陛下、髪がまだ濡れてるんですが」
「知るか」
宙ぶらりんのままベッドまで連れてこられて、リーファは猫の子のように放り投げられた。顔面からベッドへ着地する。
「ぶへっ」
続いてアランもベッドに乗り上げてきた。
廊下の明かりを背にしているからよく見えないが、何だか楽しそうに笑っているような気がする。
獲物を追い詰めるようにじりじりと這ってくるアランに気圧されて、リーファもじりじりと後ずさりをした。
「さて、先日の話の続きをしようか」
「な、なんの話でしたっけ?」
「しらばっくれるな。早く子供が欲しいのだろう?」
その言葉は、禁書庫でエニルとやりとりをした時のものだと思い出す。
「いやあれは、陛下の言葉を要約しただけで」
「私は、側女は寝所で待てと言っただけだが」
「…だから、その」
「さあ、どうしたい」
ベッドの端に追い詰められた。アランの長い金髪が頬と肩にかかる。
(な、なんで?)
近づくアランを見上げ、リーファは只々困惑した。
この部屋での逢瀬は、今日に至るまで何度もあった事だ。
リーファは、側女の務めを果たす為に何度も『抱いて下さい』と懇願したものだった。
しかしアランが応じる事はなかった。
適当にはぐらかして寝てしまうか、リーファを弄り倒して部屋を出て行ってしまうか、いずれかだった。
幾ら肌を整えてもアランの及第点には届かない。お眼鏡に適う事などない。寵愛など得られるはずもないと。
抱いてもくれないのに『子を産め』と言われるのにも慣れてしまう程、リーファの意欲はとうの昔に無くなっていたのに。
(なんで今更、迫ってくるの?)
アランの気持ちは、以前から分からない事だらけだ。考えても仕方がないのかもしれない。
でも、それ以上に。
(なんで私、気持ちが竦んでるの…?)
絶好の機会だった。今なら『抱いて下さい』と言えば応えてくれるかもしれない。
迫るだけ迫って
(い、言わなきゃ───)
アランは愉しそうに待っている。待たせるのは良くない。
気持ちが変わらないうちに。早く。出来るだけ迅速に。
ベッドを濡らさないように髪をタオルで押さえながら、リーファの上ずった声があがった。
「か…!」
「か?」
「髪を、乾かしても、よろしいでしょうか…?」
愛想笑いを浮かべたリーファのお願いに、アランの顔から笑みが消えた。
(───あ、やっばい)
そして、かちんと、何かが鳴った気がした。
「そんなに髪が気になるなら切ってしまえ!丸刈りにしろ手伝ってくれる!」
「ぎゃーっ!やめて下さい!やっとここまで生え揃ったんですからいやーっ!」
髪を鷲掴みしようとしてきたアランの手を
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