第4話 赤ちゃん

その後、ママは私に、ましてやパパにも何も相談せずに契約書にサインをした。これを知ったのは家のポストにクローン計画について書かれた紙か届いているのを見つけてからだった。

「どうして俺やサキに相談しなかったんだ!」

「私は、あの子に生きて欲しいから……!」

「でも、クローンの百合は生前の百合じゃない!」

パパとママの喧嘩は酷くなっている。でも、ママはお姉ちゃんのクローン計画を着々と進めているのはあたしから見ても分かった。そして、お姉ちゃんの事故から大体半年経った日曜日のお昼、あたしはママに連れられて病院へ向かった。

「ママ、病院で何かあるの?」

「会いに行くのよ」

ママは鼻歌交じりで車を運転していた。こんなに気分が良いママを見たのは結構久しぶり。前は、えっと、多分、お姉ちゃんがバドミントンの県大会で3位を取った時かな。あの時はママ、赤飯炊いてお祝いしたなぁ。あたし、赤飯好きだから何だか嬉しかったのを覚えてる。

やがて大学病院の駐車場に車が止まった。ママに連れられるまま、あたしは病院の中に入る。暫く待っていると白髪が混じったお医者さんが出てきた。

「西野さん、こちらです」

おじさんについていく。ママとお医者さんが入った部屋の扉の横には新生児室。赤ちゃんの泣き声があちこちから聞こえてくる。

「こちらです」

ママの顔がぱあっと明るくなった。目の前にはスヤスヤと眠っている赤ちゃんがいた。

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