覚悟
「さて、君に話したいこと、聞きたいことがもっとたくさんあるのだが、ここに
話を切り上げて動こうとするノヴォさんに僕は思わずポツリと呟いた。
「あの、僕でもなれますか?」
その一言に、ノヴォさんは
「僕でもなれますか?僕でも役に立てますか?僕は……」
拳をギュッと握りしめて思いを吐き出した。
「僕は僕達の故郷を取り戻したい。貴方のようにこの国のために、ラズリ様に、両親に恥じない立派な大人になって」
この時、ずっとルワカナと2人で誰とも会うことなく過ごしてきた僕は、久しく鼓動を再開した日常に自分の気持ちを抑えられなくなったんだ。
「僕も貴方のようになれますか?」
「おやめなさい」
しかし、そんな僕の想いはノヴォさんの穏やかな一言で容易に断ち切られてしまう。
遠くではヒヨドリの鳴く声が夕陽に溶けていった。
「私のようになってはいけない……」
空は赤みを濃くしてノヴォさんの悲しそうな顔を少し隠していた。
「見ただろう?彼らを。わざわざ命を捨てるようなものだ。そうでなくても彼らをこの世から排除しなくてはならない。どちらにせよ命を
罪……。覚悟……。
そんなこと、考えたこともなかった。
僕は夢を全て否定された気がして、すぐに言葉を返せなかった自分にひどく落ち込んだ。
「どうか打ちひしがれないでおくれ。君は何も知らないのだから。他にも事情があって複雑でね、皇国内でもこの地の復興は先百年は見えないと言われている由縁だよ」
ノヴォさんは
「優しい子だ。想像もつかぬ程辛い日々を過ごしてきただろうに。それでも信仰と思いやりを失わずいるのだから…。君の友達も含め保護しよう。ゆっくり人生を取り戻していくんだ」
ノヴォさんは続けて何かを話してくれようとしたみたいだけれど、聞き覚えのある声に
「リヒトォ!おっせぇぞぉ!」
───いけない!ルワカナだ。
───怒ってる。どうしよう、この状況をどう説明しよう。
肩を
ヒョコっと顔を出したルワカナは目が合うや否や、こちらを
「だ、誰だよオッサン……」
僕はそれとほぼ同時に再び
まだ1人残っていた屍人が、後ろ側からものすごい疾さで現れ、ルワカナに飛び掛かる姿が見えた。
息をする間も無く、屍人はルワカナの喉元を鷲掴みにして押し倒してしまった。
「あああああああああっ!」
それは今まで聞いたことのないような、初めて聞くルワカナの痛み苦しむ叫び声だった。
───な、何してるんだお前、やめろ!
僕は無我夢中で地面を蹴る。
屋上の
───ルワカナに手を出すな。
───いつもそうだ。僕達が何をしたっていうんだよ。
頭の中に、あの夜の光景が
世界に自分1人しかいないような、世界が真っ暗闇になったような孤独。
空っぽになった僕に、新しいものを埋めていってくれたのはルワカナだ。
全部ルワカナが支えてくれたから、一緒にいてくれたから、僕は今まで生きて来れたんだ。
正直、薄々わかってはいた。
お父さんとお母さんは多分生きていないだろうということを。
ルワカナは、もう僕に残された、たった1人の家族なんだ。
───もうあんな思いは嫌だ。
───もうこれ以上、僕から何も奪わないでよ!
───離せよお前!ルワカナに触るな!
「やめろぉぉっ!」
思いきり屍人に飛び掛かった。
屍人もルワカナから手を離して僕の方に向き直り、互いに取っ組み合いになる。
ルワカナが礼拝堂内の階段の中腹に崩れ落ちていく中、屍人と僕はお互いにもみくちゃになって
あまりの力にすぐ仰向けに押し倒されてしまっても、両手を掴み合い必死に抵抗した。
掴み合った手は燃えるような熱を帯びていた。
「返せよ!」
僕は掴み合ったまま自分でも信じられない程の声で叫んだ。
「全部!全部返せ!僕達が何をしたってんだよ!」
上から屍人のおぞましい声が
力で圧されそうになって間もなく、屍人の首筋に一本の針が
視界の右端に見えたその針はノヴォさんの腕当てから伸びていて、刺されて間もなく屍人は
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