『ゆめの壺』

やましん(テンパー)

『ゆめの壷』

 『これは、フィクションです。』


        🌃



 ある日、リサイクルショップに、へんな商品がありました。


 『ゆめの壷』です。


 なじみの店員さんに尋ねました。


 『これ、なんですか?』


 『さあ、わからないんだよね。なんに使うのか。ツマミ回しても、何も起こらないし。キレイだけど。持ち込んだ人は、ゆめの壷。と、呼んでいた。それだけ。』


 確かに、すごく、キレイです。


 ただ、焼き物ではないらしく、軽いです。


 貧乏にんの置物としても、まあ、悪くない。


 しかし、普通の置物ではなさそうです。


 中は、空洞になっていますが、底が上がっているので、なんらかの仕掛けがあるに違いないと思います。


 以前、ここで、105ドリムで買った、ぶたさんの顔が張り付いた不思議な物体は、いじった結果、ラジオである、と、判明しました。


 ラジオを鳴らすと、ぶたさんのお口が、もそもそと、喋るようにうごくのです。(実在します。)


 じつは、その手のラジオは、昔からありました。


 内部にモーターがあり、放送を受信すると、モーターに電流が流れて、お口が動くのです。


 ボリュームを上げると、流れる電流も強くなり、良く動きます。


 こいつは、FMラジオで、チューニングは、自動チューニングです。


 弱点は、感度が今一で、放送局にあまり近くない場所では、ロッドアンテナに、延長アンテナを付けてあげる必要がありますのと、受信してる周波数が読めないこと。


 ぶたさんだけではなく、かえるさん、その他、四種類あるらいです。


 また、たぶん、別のシリーズで、AMラジオになっていて、アナウンサーさんがぱくぱくするのもあります。


 こちらは、チューニングは手動なので、だいたい受信してる局の見当はつきます。


 ラジオとしての性能は、まあ、おもちゃクラスですが、近場の放送を聴くには十分。


       🐷


 しかし、この物体は、なんだろう?


 表も裏もわからないけど、確かにツマミがふたつあります。


 これは、おそらく、AMタイプのトランジスターラジオの定番です。


 ただし、スピーカーが、どこにも見当たらないです。


 壷の内部の底に、スピーカーがあるに違いないと思いましたが、光にかざしても、底があるだけみたい。


 ラジオとしては、ちょっと、不思議です。


 スピーカー完全内蔵型というのは、あり得ますが、音がくもるはず。


 カップラーメン型のラジオには、蓋をめくらずに閉めたままだと、そうなるのがありましたような。


 お値段は、やはり、100円。プラス消費税。


 おもちゃ大好きなぼくは、とりあえず、買うことにしました。



        🐸



 さて、夜が来ない昼はない。


 2階で、お布団にひっくり返しになって、壷をいじっていました。


 テレビでは、オカルト映像解明番組が流れています。


 UFOは実在したけど、幽霊はまだ、オカルトです。


 眺めていて、もうひとつ、問題があります。


 電池を入れる場所も、充電端子も見当たらない。


 『これは、不可思議。やはり、ラジオじゃないのかも。』


 でも、なら、何なのよ?


 ただの、飾りかしら。


 どうしても、わからない。


 ネットで調べてみましたが、情報がありません。


 それも、妙です。


 変わり種ラジオの種類なら、見つかるはず。


 あ、これか!


 と、思ったら、それは駅弁でした。


 ついでに、この、素材がプラスチックかどうかも、アヤシイような気がするのです。


 なんだか、羅紗のような手触りだからね。


 でも、織物のようには思えない。

 


 しかしながら、ついに、その晩は諦めて寝ました。



       💤🎠💤



 ぼくの夢は、非常にリアルで、長く、苦しいものが多い特徴があります。


 職場で孤立し、叱られ、無視され、意地悪されたあと、屋上で、針の雨に撃たれ、下から這い上がってきた忍者部隊に追われ、さんざんめった切りにされたあと、ついでに空から降りてくる宇宙人に襲われて、光線砲にさらされ、こっちも、指光線銃で反撃するも歯が立たず、さらには、突如出現した怪獣に喰われそうになり、おまけに、どこからかやって来た核ミサイル爆発に巻き込まれ、なんとか逃げる途中で川の氾濫に飲まれ、やっとこ脱出したら、火山の大噴火に出くわし、もう、ぼろぼろで、お家にたどり着いたら、お家はすでに、無く、知らない人ばかり。おしっこが氾濫しそうになり、もがきながら、やっと現実に帰ってきて、お手洗いに走るのです。


 それが、手を変え品を変え、毎日つづくのです。(これは、フィクションというより、ほんとに近い。)


 まあ、物理的な支障はなく、ひたすら、メンタルがすり減るわけです。


 壷の正体は分からないまま、そんな日々が、相も変わらず、一月くらい経過した、ある、夜明け前。


 ぼくは、ふと、何かが部屋のなかにいる気配で目が覚めました。


 ちょうど、乗っていた電車の運転手さまが、無謀にも、氾濫した川に飲まれた線路に踏み込んで行った時でした。


 『わわわあ。なにをする〰️〰️〰️〰️❗』


 と、叫び、枕元の懐中電灯を投げつけたのです。


 それが、その、何者かの頭を直撃したのです。


 深海魚みたいな、ぶよぶよで、内部が透けて見えている頭を。


 『ふやふやくにゃら〰️〰️〰️〰️。』 

 

 と、そいつは、伸びてしまいました。


 なんかわからないけど、侵入者です。


 ちょっと、ぬるぬるして、気持ち悪かったけど、長い電気コードと、荷造りガムテープでぐるぐる巻きにし、それから警察に電話しようとしましたが、なぜか、圏外。


 『らららららあ。』


 と、庭側の窓の外に、何かがいるようです。


 カーテン開けたら、なんと、小型自動車くらいの、UFOではありませんか。


 そいつは、目覚めて、言いました。


 『あなた。乱暴ね。しかし、地球人が、これほど、素早いとは。……….甘く見た。』


 『あなたは、何者か?』


 ぼくは、問い詰めました。


 『われわれは、オバクー星人だ❗』 

 

 そいつは、やたら、自慢そうに、言います。


 『オバクー星人?聴いたことないな。最近は、国連に、キャタピラー星人が来たと聞いたけど。』


 『彼らは、マイナーね。ただ、見た目は、淑女紳士。でも、実は狂暴。』


 『あらま。あなたは、メジャーかい。』


 『もちろんだよ。銀河では、メジャー12スターズと呼ばれるうちに入る。』


 『ふうん。そんな、スターが、家宅侵入か。』


 『きみたち、ありさんの巣に入るとき、わざわざ、挨拶するかい?』


 『比べるほうが悪い。なにしにきたの。誘拐かい。キャトルミューティ、なんとかか。』


 『われわれは、やつらみたいな、そんな、ハレンチな行為はしない。』


 『十分、はれんち!』


 『では、打ち明けよう。その、ゆめの壷を返してほしい。』


 『え? これ?』


 『そう。それ。それは、人間の夢を吸収する。それらは、我々にとって、最高の、食糧である。我々は、各自が、食糧採集する種族だ。気高い、夢ハンターである。なお、君たちには、なんの影響もない。』


 『夢ハンターに変身したり、しない?』


 『しない、しない。宇宙夢パンパイアは、実在するが、アンドロメダから出る技術は、まだもたない。やつらに、夢を喰われると、バンパイアになるが、我々は、連中のように、はれんちに、直接吸収はしないから、心配ない。君の夢のエネルギーは、非常に高い。貴重だ。ありがたい。感謝のしるしに、夢の壷型ラジオを、贈呈します。こいつは、超空間ラジオを受信できます。楽しいよ。では。』


 そいつは、さっと立ち上がると、巻き付いていたコードやガムテープが、するっと、落ちました。


 それから、触手みたいな腕を上げると、あの壷が宙に浮いて、その体にぶら下げていた、ずだ袋に収まったのです。


 『じゃね。ありがと。また、いつか。あなたは、長生きするね。必ず。』


 その生き物は、すらりと、窓の隙間をすり抜け、小型UFOは、飛び去った。


 ぼくは、気味悪かったから、もらった『ラジオ』は、国連UFO研究所にプレゼントしました。


 丁寧な感謝状が来たのですが……


 ついでに、ぼくは、黒服のエージェントに逮捕されたのでした。


 そうして、オバクー星に、移送されたわけ。


 てやんでぇ。


 なんて、連中だ。


 誰も、信用できないなあ。


 だから、ぼくは、お人好しと呼ばれるわけだ。


         🐦


 しかし、なにが、幸運か、わからないものであります。


 地球は、まもなく、キャタピラー星人に、まさに、踏み潰されたのですから。


 ぼくは、オバクー星にて、わりによい待遇で過ごしました。


 悪夢が、皮肉にも、役に立ったのです。





       ・・・・・・・・・



             おしまい



        





 




 



 

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