第二夜 嫉妬したと思ったら百合だった。(2022/7/22)
ふっ、と瞼を開くと白い光が見える。白い壁に白い床に大きな窓、白いレースカーテン。少しぼんやりしていたが、だんだんと意識が戻ってくる。戻る、というのが正解なのか判らないが、この場所に意識が置かれる感覚が、する。している。
話し声が聞こえてくる。左側から女性の声が、右側から男性の声が。コラコラ、人を間に置いて話すんじゃないよ、どっちかが移動しなさいよ。
「僕そんな言われるほどすごくないよ〜」
「そんなことないですよ〜」
え、あ、この右側にいる男の人、私の彼氏だ。じゃあ私を挟んで話してもらう方がいいな。さっきの撤回、このまま続けなさい。
「え〜正人さん素敵じゃないですか〜」
「そ、そうかな?」
「私、正人さん好きですよ?……恋愛的な意味で。」
「え?え〜そうなんだ……」
オイ、そこの男、照れてんじゃねえぞ。いや、照れるなと言われる方が難しいか。この左側にいる女性、言動はさておいて可愛すぎるからな。モデルかと思うくらいのスタイルに美しすぎるほどの顔がついている。正面から見なくても、この人は「美少女」ということが理解る……
想像したことがあるだろうか。浮気相手が自分より美人だったパターンを。私は無い。なぜなら、私が付き合う人は浮気をする前に別れるような真面目なタイプだと思っているからだ。というか、その人にとって私より良い人がいるとは思えない、と考えているからなあ。
では、想像したことがあるだろうか。自分の彼氏が、自分の目の前で自分より明らかにビジュアルの良い女性に誘惑されているのを。私は無い。だが、今ここでその事態が発生している。
まあ、分かるよ。良いんだよ、正人はさあ。性格もいいし可愛いしさあ。分かる分かる。でもま〜、私の前で誘惑するたあ、結構な自信をお持ちですなあ!そしてそれがうまくいってますなあ!
そうよな、この「左側の美少女」可愛いよな、分かる分かる。でもま〜、隣に私いるんですよ。ちったあこっち見ないかい。顔を赤らめてる場合じゃないよ。あーた、ばれてるよ。なびいてるのバレてるよ。
心の片隅では茶々を入れてみても、もう片隅で湧き上がるのは嫉妬心。明らかにこれは嫉妬している。ここで「正人の彼女は私よアピール」をしても良いが、そうすると気まずい雰囲気が流れてしまう。
あ、そうか。わかったわかった。私がこの「左側の美少女」を落とせば良いんだ。
右側に置いていた視界を100%左側に移動させ、身体の向きも完全に左側に向ける。さりげなく少し左側に寄ると、「左側の美少女」がこちらを見る。
目を見つめながら「かわいい、」と小声で言って、軽く頭を撫でる。そこでまた少し距離を詰める。同性だからか怖がられることもなく、逃げようともしない。「左側の美少女」は、私と合わせていた大きな瞳を瞼で隠しながら、頭をちょっと下にさげ小さな顔を髪で覆い、照れている。
「本当、かわいい。髪の毛サラサラだし、肌は白く透き通って、ピンクのチークがよく似合う。手足は細くて守りたくなるし、洋服もよく似合ってる。すごくセンスが良くって手入れが行き届いてる。」というような褒め言葉を、「左側の美少女」の頭をゆっくり撫でながら小声で独りごちていると、にわかに「左側の美少女」はスッと私の手を取って立ち上がる。
私たちは手を繋いで、そのまま白い部屋を出た。そして、二人で楽しくどこまでも歩いた。
嫉妬したと思ったら百合だった。
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