首席の俺がニート大賢者の下僕になった件について

冬油はこ

第1章 後悔のない選択

プロローグ 愛しい君へ

ブランク・フィルロッドへ


前略


やあやあ、愛弟子よ。元気にしてる?

元気がなかったら新開発の『超元気マッスル今日から君も俺の息子の虜だよ♡』魔法をかけてあげよう。

ま、元気ならそんな魔法はかけないけど。


ちょっと遅れたけどセイライ魔法学園の入学おめでとう。君ならやってくれると思ったから嬉しい限りだ。

そのうち君がフィアンセを私の元に連れてくるのを満点の夜空の下で寛ぎながら楽しみに待っている。

ちなみにいま私は鉱物の豊かなアトラトス国を観光している。宝石がゴロゴロとあるもので、目がチカチカして自分の眼が宝石になりそうだ。そのうち観光の際にサングラスが必須になる日がくるかもしれない。

ま、師匠成分が足りなくなったら一時間以内にアトラトス国に来るといい。まぁ引き返しても最新の蒸気機関車で三時間は掛かるから実質無理なんだけどね、HAHAHAHAHA。

そのうち私から会いに行くのも視野に入れておこう。


そうそう。入学費や授業費、その他諸々全て払っといたから安心して勉学に励むといい。

毎日店の手伝いしないと学園に通えないは師匠として魔導士としての名がすたるものよ。

でも外食代や魔導書代は自分で賄え。

無駄遣いして師匠のスネをかじってニート生活するダメな子になるのは絶対に許さない。

そうなったらたとえ地球テラの裏側でもすっ飛んで駆けつけるからね。

ま、気ままに自由に君らしく三年間、悠々自適に学園生活を過ごして卒業するまで頑張れ。

君のために、弟子のために、そして私のために、青春を謳歌してくれたまえ。


追伸

ラーベルツ国の一番人気スイーツ最果てイチゴのショートケーキに合う紅茶を手に入れた。せっかくだからお守りついでに同封したからぜひ飲んでね。

捨てたら私の三年分の努力をドブに捨てることになるから絶対に飲んでね。絶対だぞ?



            ​愛しの師匠より



小さな紙に包まれた紅茶をポケットに入れて、手紙を折り畳み学生鞄の中に荒く突っ込んだ。


「紅茶より珈琲派なんだが……まぁいいか」


肘掛けに肘をついて頭を支えながら窓の外を見る。遠くに黒い岩肌が天高くそびえ立つ世界樹に巻き付こうと渦巻いた形をしており、世界樹は気にせず葉を瑞々しく青葉を輝かせる。

しかし、次の瞬間その光景は暗闇に包まれて備え付けられた魔電球ケロシンが暖光を放ち車内を照らした。

どうやらトンネルに入ったみたいだ。


「次はラーベルツ国〜〜次はラーベルツ国。魔法の叡智が全て集まるセイライ学園に、最高峰のパティシエが作るお菓子店、最新の魔道具が揃う魔導士の国に降りる人は〜〜荷物を準備してお待ちください」


低い男性の声が車両に響き渡る。

個室だからか、余計に響くので声が何度か脳内再生が繰り返された。

テーブルに置いた珈琲を飲み干し、再びテーブルに戻すと汽笛の音が聞こえて窓から陽光が差し込んでくる。暗転から一転、視界に収まりきらないほど街並みが広がっていた。


「あれがラーベルツ国か」


俺が魔導士になるための一番の近道。そして幾万も眠る魔法を学ぶことができるセイライ魔法学園のある国。

新たな魔法の妄想が次第に止まらなくなり、つい口元が緩んでしまう。


「どんな魔法があるのか楽しみだな」


しかし、彼はそんなことを考える暇もないほど奇想天外な日々を送ることになる。

【大賢者】と呼ばれる魔導士の頂点に立つ少女のわがままに振り回され……彼の学園生活は慌ただしい毎日になることをこの時の彼は知らない。

ラーベルツ駅が見え始めて、蒸気機関車は黒い煙を上げながら少しずつスピードを落としていく。





​───さぁ、新たな魔導士の卵達の到着だ​​。

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