第27話 壮行会。WHO WILL YOU RUN TO

数日後、ライブハウス「REY MOMO」でリエとアレクの壮行会。

 最初はアレクが最後の焼き鳥屋飲み会を自身主催で行うと言ってたが、菱菱商事の社長がこれを聞きつけ「我が社の外国人VIPと優秀社員の卒業会は会社主催で行う」と言明。

アレクが高円寺で祝って欲しいと希望を出したので、リエがライブを行ったライブハウスで立食パーティをする事になった。

 繊維課を中心とした菱菱商事の関係者、近藤夫妻と沖田の日本政府関係者、若山と健吉、H@RUKAと音楽関係者とレオナルド・クルーズと付き人、そして怪我から復帰したトオルもパーティ会場に来ている。

 

 和気あいあいとした会場の雰囲気。

商社や政府の偉い人がアレクを囲んでシリアスな話をしている。その輪には近藤明日香もいる。

「アレクさん、次の大統領選挙には出られるのですか?」

「いえいえ、そこ迄は行かないと思いますが、日本政府とは長い付き合いをしていきたいと思います」

 リエもH@RUKAが連れてきた音楽関係者とシリアスな話中。

「リエ君、来月1週目からのレコーディングは頑張って下さい。それまでにオリジナルの作品を20曲は作って来て下さい」

「ひえ~」

 レオナルド・クルーズは女性達に囲まれ談笑中。

合コンする予定だった女性達はレオ様の方に流れてしまい、不貞腐れる沖田。

「レオ様、いつまで日本にいるんですか?」

「君達の笑顔を見たいから、日本に永住したいな」

「キャー!」

「早くアメリカに帰れっつーの」小声で愚痴る沖田。

 元UFCチャンピオンだったYOJIRO近藤洋次郎を男達が興奮して色々質問している。

「高校生の時、YOJIROさんの試合で泣きました」

「ありがとう」

「南アフリカでのフェイスオフの時の乱闘事件は興奮しました」

「あれは黒歴史ですよ」

「YOJIRO!YOJIRO!YOJIRO!」

YOJIROで盛り上がる男達を冷ややかに見る女性陣

「うるさいっ!男っていつまで経っても子供よね~」


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 繊維課の秋山部長の司会で壮行会が始まる。

菱菱商事社長や日本政府外務大臣や極東連邦共和国駐日大使のスピーチだけでなく、なぜか米駐日大使もアレクについてスピーチをする。

 偉い人のスピーチを聞いてるトオルと近藤洋次郎。

「YOJIROさん、アレク兄貴って物凄い偉い人だったんですね」

「そうだよ。ところでトオル君、警察に転職しない?」


「リエくん、アレクくん、壇上に上がってください」

秋山部長が本日の主賓を呼び出し、アレクとリエがステージに上がる。

二人は、今日が最後の日であり新しい旅立ちの日に向けて最高のオシャレをしている。アレクはこれからの戦闘服である仕立てた高級スーツを完璧に装着し、リエは繊維課に出入りしてるデザイナーと若山が作ってくれたパーティドレスを可愛らしく着こなす。

そして二人の指にはフォーダイトの指輪が嵌められている。


 アレクが挨拶する。

「みなさん、僕とリエさんの壮行会に来て頂きありがとうございます。僕は全てを失い、国を追われて一人で日本に来ました。その時は、絶望と孤独で死んだ方がマッシじゃないかと思う時もありました。しかし、日本政府と菱菱商事のおかげで本国への帰還と地位の復権がかないそうです。そして今では、こんなにも日本でたくさんのかけがえのない友人ができました」

「最愛のかわいい人も出来たしね」若山が茶化し、恥ずかしがるリエとアレク。

アレクがスピーチを続ける「日本に来て2ヶ月と短かったですが、僕は黄金の時を過ごす事ができたと思ってます。全てを与えてくれた日本国、ありがとうございます。国に帰っても日本を愛してます。日本国の友人でいたいと思います」

 挨拶するアレクに万雷の拍手が巻き起こる。アレクの卒業を悲しみ号泣する菱菱商事の女性社員達。

 リエにマイクを代わろうとしたアレクが最後に一言だけ言う。

「でもね、公安の沖田は嫌いだ。防弾チョッキの火薬が多すぎなんだよ!」

「アレクっ、しばくぞっ!」客席からアレクに叫ぶ沖田。

会場がドッと大爆笑になる。


 アレクからマイクを受け取るリエ

「私もレコード会社の契約が決まり、繊維課を卒業します。唯一の身内である母親が原因不明の病気になった為、大学の時からアルバイトで繊維課に入れてもらい、卒業後も継続して働かして頂きました。秋山部長や若山さんを始めとする菱菱商事の皆さんは、家族の様に私に接してくれて大変感謝しています。ありがとうございます。寂しいですが明日からは新しい職場で一流の歌手を目指して頑張っていこうと思います」

 秋山部長は大泣きしながら

「リエくん、アレクくん。失敗してダメになったら繊維課の正社員として復帰してくれたまえ」と司会しながら心の思いを吐露してしまい、会場が爆笑しながらも暖かい雰囲気に包まれる。

「リエちゃん」リエの姉がわりの若山もリエの卒業で大泣きしている。

 ステージを降りようとしたリエがマイクスタンドに戻り

「私も最後に一言。私とアレクさんを引き合わせてくれた公安の沖田さんに感謝します。沖田さんは愛のキューピッドです。でも、ワタシの初ライブをアレクさんが見れなかったので、やっぱりワタシも沖田さん嫌いです!」

「公安、公安って言うな!俺はもう公安で仕事できなくなるだろうが」再度、客席から叫ぶ沖田。

またまた会場がドッと大爆笑になる。


 ステージを降りたリエのスマホに着信が入る。病院からの電話の様だ。

「はい、はい、そうなんですか。ありがとうございます。よろしくお願いします」

パーッと顔が明るくなるリエ。

「リエちゃん、どうしたの」涙顔の若山が聞く。

「病院からの電話でお母さんが目覚めたそうです」

「やったー、よかったわねリエちゃん」嬉しさでリエに抱きつく若山。

「お母さん目覚めましたか、巨額の医療費で世界一の最先端の医療を投入しましたからね。よかったです」

「よっ、石油成金のおかげだな」アレクを茶化す沖田。

「沖田っ、てめえぶっ殺す」

「うるせえっアレク」

 胸ぐらの掴み合いをするアレクと沖田を「まあまあ、ビーバップハイスクールじゃないんだから」と健吉と近藤洋次郎が間に入る。アレクと沖田の小競り合いを、会場の全員が、子犬のじゃれ合いみたいなモノと笑って相手にしない。リエも笑って見ていた。


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 翌日、アレクは祖国へ帰り、リエは歌手活動を始めた。

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