第25話 デュエット。TONIGHT
1時間後、高円寺駅前。
ご機嫌なリエとゲンナリしたアレクが駅前に行くと、若山と健吉が満面の笑顔で待ち構えていた。
「若山さーん、健吉さーん。遅い時間にむり言ってすみません」
「リエちゃーん、ライブ終わって数時間経つのにアレク君と一曲デュエットしたいって元気よね~。アレク君、女に嘘ついたらダメなのよ」
「ハハハ」
「リエさん「ME IN HONEY」のピアノの使用予約はできてますよ」
健吉がアレクに近づき軽くボディブローを当てながら
「まっ、傷ついた体でしんどい事させられるって、アレクさん観念するこった。怒った女に男は従うしかないから。ガンバッテーガンバッテー」
「健吉さん、それUインターのベイダーです」プロレスツッコミをするアレク。
駅前で四人で集まってると、目の前に赤いVESPAが止まる。H@RUKAが来た。
「リエさん、面白い事考えるわね。じゃあ、ワタシは先にピアノ触ってるから」
H@RUKAが先に焼き鳥屋「ME IN HONEY」に入っていく。
焼き鳥屋「ME IN HONEY」。
焼鳥だけを食べに来る客、ここのオープンエアーのストリートピアノ演奏目当てで遊びに来た客、健吉が集めた高円寺中の知り合い、数時間前のリエのライブを見てた観客、そして高円寺駅前でウロウロしてる者たちが焼鳥屋「ME IN HONEY」にやってきた。1時間で集まった観客約100人。
満員の観客前でアップライトピアノ前にはH@RUKAが座り、リエ&アレクの前座で即興ピアノ演奏をして盛り上げている。
H@RUKAの演奏を聞きながら緊張しているアレクにリエが話しかける。
「アレクさん、もうすぐですからね気を楽にして下さい」
いい気なもんだ、君は歌手になるための訓練をしてきた人で、僕はカラオケで歌うだけの素人で疲れた体で歌わされるのだから、と思ったが口が裂けてもリエには言えないアレクであった。徐々にリエとアレクのカップルパワーバランスが変わって来た様だ。
H@RUKAがPIANO演奏を一旦やめMCを始める
「ピアノ演奏聞いて下さりありがとうございます。ここで一曲、未来の歌姫リエさんと彼氏のアレクさんがデュエットを歌います。曲はウエストサイド物語より「Tonight」。お聴き下さい」
アップライトピアノの横にリエ&アレクが立ち、マイクなしの地声だけで始めるようだ。アレクは緊張でガチガチだ。
「アレクさん、緊張といて」
リエがアレクの顔を掴んで強引にキスをする。驚いたアレク。
「うおーっ」突然の二人の熱いキスに盛り上がる観客。
(え~い、ままよ!)アレクはリエのキスで腹を括ったようだ。
リエのキスを合図に、H@RUKAがピアノ伴奏を始める。
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♬ Only you~ ♬
リエが映画オリジナルのキーでミュージカル口調でゆっくりシットリと歌い始めると、観客から素人ではない上手すぎるプロだとのドヨメキがおこる。先程のリエのライブを見てた観客はスマホでムービーを撮り始める。
♬ And there’s~ ♬
続けて、アレクがオペラよりのバリトンボイスで歌い出す。2mのハンサム白人がバリトンボイスで歌を上手く歌い出したから女性を中心とした観客は堪らない、一気にリエとアレクの「Tonight」に引き込まれていく。
♬ Tony~ ♬リエはアレクの方を向き、♬Only you~ ♬アレクはリエの方を向く。
♬Tonight ~ ♬ここで二人が観客に向かいユニゾンで歌い出し、ピアノ伴奏も盛り上がる演奏だ。観客たちはリエとアレクのデュエットに美しい愛の賛歌の波動を受けてしまう。駅前の焼き鳥屋なのに、小さなコンサートホールにいるような錯覚に陥ってしまう。
♬Today the ~ ♬
観客に向かって歌っていたリエとアレクは、互いを見合う体勢でデュエットを続ける。二人のデュエットは、最高潮を迎え、観客は二人の歌にデュエット以上の愛の行為を見てしまい聞き惚れてしまう。
♬But here ~ ♬
エンディングに近づく、リエとアレクは両手を握り合って互いを見つめ合いながら二人の世界だけになって歌い続ける。リエとアレクのユニゾンが互いを慈しみ合う愛の賛歌となって観客の心に刺さり、ウットリしてしまう者、濡れてしまう者、感動で号泣してしまう者までいた。
♬me tonight~ ♬
そして最後を二人は歌いきる。ピアノの伴奏が終わる。
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一瞬の静寂のあと、焼き鳥屋「ME IN HONEY」は盛大な拍手で包まれる。
リエとアレクはH@RUKAに促され、カーテンコール風に互いの手を取ってお辞儀する。
「BRAVO!」「感動した!」という者や、見知らぬ者同士が感動で抱き合って泣いてる者達も居た。
そして、やはりリエとアレクのデュエットをSNSに早速アップロードする者もいた。
「良かったね、アレクさん」リエは大好きなアレクと大好きな「Tonight」
を歌えて感激してアレクの方を向く。
「はい・・・」と返答したアレクだが、夕方のテロリストとの戦いによるダメージや今回のデュエットでの過労が蓄積し、緊張の糸が途切れたのか失神してその場に崩れてしまう。
「アレクさん!」「きゃー!」
騒然とする高円寺駅前であった。
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