第8話 沈黙の魔法。A SHOT IN THE DARK
歓迎会終了後、マンションへの帰り道を歩くリエとアレク。
リエはアレクにお礼をする
「助けていただきありがとうございました」
「いえいえ」
「でも、昨日はスリッパ投げつけたり、酔っ払って命令したりしてすみませんでした」
「いえ、僕もメイドさんに指図するみたいな偉そうな言葉を使いすみません」
「いいえ、外国から来た偉い貴族の方だから環境も違うんだと理解してなかった私が悪いんです」
「リエさん、さっきからのイタリア貴族のその話は誰が言ってたんですか」
「沖田さんに、アレクさんは貴族の王子様って教えてもらいましたよ」
「ははは、そうですか」
【沖田、あいつシベリアの永久凍土に埋める!】と密かにキレてるアレクだった。
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2人がマンション前に到着した時。
「アレクさん、昼間のクレームと先程の居酒屋の件のお礼で、あした高円寺の街を案内しようと思うんですが、アッ!」
マンションのエントランスでリエがつんのめり転びかけた時、
「危ないっ」
アレクが素早く前からリエを抱きしめる。
「キャッ」
互いの息が顔に掛かるのが判る程に急接近する2人、目と目が会ってしまう。
「大丈夫ですか?」
「ふぁ」
リエは口から空気が漏れた様な声を出した自分への恥ずかしさと、眼前のアレクの透き通るような青色の瞳に魅入られ上気し、顔が真っ赤になってしまう。
リエの紅顔が映ったのか、アレクもリエの瞳に吸い込まれ顔を赤らめていた。
沈黙の魔法が2人に訪れる。
互いの呼吸音、体越しに伝わってくる早打つ心臓の鼓動、瞳の中の虹彩の微小な収縮。
「リエさん」アレクの声にならない声が漏れる。
「はい」反応するリエ。
2人の距離が自然と引力のようにゆっくりと近づく。
「スイヤセン、明日迎えに行きますんでバカは留置所にブチ込んどいて下さい」
携帯電話をかける声が聞こえてきた。
ハッとしたリエとアレクの魔法が解け、2人は声の主に悟られまいと素早く互いから離れるが、顔は真っ赤なままだ。
「オヤッ、さっきの居酒屋でのお二人さんですよね?」
マンションに入ってきた携帯電話の通行人、長髪細身髭男性が声をかけてきた。
「どうも」
アレクだけが返答する。
リエは居酒屋の件と今しがたのアレクとの事で声なんて出ようもない。
リエとアレクに深く頭を垂れて謝る長髪細身髭男性
「先程は、俺の連れが失礼な事をお二人にしてしまい大変申し訳ございませんでした。本人に変わりまして謝罪します」
「いえいえご丁寧にありがとうございます」
「私、高円寺で古着屋をしてる健吉と申します」
「アレクです。こちらはリエさん、酔っててしゃべれない感じでスイマセン」
「先程の酔ったバカ野郎を見に、警察署まで行ってきましてね。アタマ冷やす意味で明日まで留置所に入れとくよう警察に頼んできたところなんですよ。ところでアレクさんとリエさんはこのマンションですか?俺もこのマンションなんですよ。よかったら先程のお詫びに、俺の部屋で飲み直しませんか?いい日本酒をご馳走しますよ」
「いいですね」
同意するアレクだが。
「私、やめときます」
リエは、アレクとのいいトコロを邪魔する形になった健吉を無意識に睨みながら飲みの誘いを辞退する。
「そうですか」
「リエさんは飲み過ぎた様なんで寝てください」
アレクがリエをフォローする。
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「では、おやすみなさい」
アレクと健吉に挨拶しエレベーターに乗るリエ。
「本当にすいませんでした」再度謝る健吉。
「リエさん、明日よろしくお願いします」
二人に会釈するリエ。
上昇するエレベーターの中。
魔法の時間を破った健吉と空気を読まずに日本酒を飲みに行くアレクにイラッとして
「バカ・・・」
と呟くリエだった。
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