天まで届け

うさぎ赤瞳

第1話 高い場所が好き?

 プロローグ


「あなたは決してひとりではない。」


 耳障りに聴こえたものは、電磁波に乗り漂う、『創世主』からのご褒美であった。

 配られるのではなく、掴み取るのが『運』なのである。


 人が生まれた理由は、神棚にまつられていた。何時しか忘れ去られ、置き去りのままになっている。忘れものが多いのが、人の特質だからである。


『奇跡』で解るように、誰かが見ているのだ。その誰かは、生きているうちに必ず気付く。結果が積み上げられたものが『今』であるのだから、気付いてあげて欲しかった。


 奇跡を目の当たりにしたものは皆、『そんなバカな!。』と口にする。

 心と上手に付き合えれば、それすらも感動に変えられる。速いか遅いかは特質だが、そこに重きはなく、総てが個性に委ねられていた。


 

    一


 拓也は、休み時間になると、ジャングルジムに登り、遠くを眺めていた。小学生には時間の流れに左右されないものがあった。何時間も眺めていても飽きない。目で追えない先があるのが、宇宙の神秘と知っていた。ここで解ることは、『無邪気』か『天の邪鬼』ということである。


 目標を果てとしても、その果てに終わりはなかった。人が掴めるものは、手の届く範囲内でしかない。ずぅ~と先の、そのまた未来さきに希望がある、と信じていた。そう考えないと、人の小ささに打ちのめされて終うからだ。

 どんなに威張った大人たちにしても、なにも変わらないのである。現実に夢が重なることを知らないのは、経験が少ないからで、学習を疎かにしているからではなかった。


 友達が居ない訳でもなく、独りが好きなわけでもなかった。見えるものには限りがあり、見えないものを見える、と言ったところで、誰も信じてくれなかった。



    二



 中学生になると、希望は何時しか夢になっている。中学にジャングルジムがなかったからである。居場所を無くした者がすることは、心の隙間を埋めることであった。


 勉強はあまり好きではないが、躰を動かすと出るその汗が、気持ち良く感じられた。


 兄弟の居ない拓也が、運動部に入ったのは、わいわい・がやがや、という騒がしい触れ合いが、気を紛らわせてくれたからである。心にできた歪みには、自身すら気付いてなかった。


「おい、一年。」と呼ばれることに抵抗を覚え初めていた。ギスギスしたものの正体をそれに当て嵌めて、納得に導いていた。

 真面目に云われたことに従い、健気に従い続けている。真面目な性格が目指したものは、献身であった。


「あいつは言い付けに従うだけの木偶でくだ。」と、同級生たちにはそんな陰口を叩かれ、何時しかパシりにされていた。


 ある日のことである。

 家の事情で、お弁当を持たずに登校した。中学には購買がなく、担任に許可を得て、校外にパンを買いに出た。


 拓也をパシりにしていた先輩がそれを目撃して、授業終了後に屋上に呼び出した。

「お前、昼に校外へエスケープしやがっただろう!。」

 返答返しをして暴力を受けた経験から、言葉を呑み込み、それを理由に暴力を受けた。

 暴力が終わり眼を明けると、胸が高鳴った。ジャングルジムより高い屋上は、未来も見えるが、人々の生活を見下ろすことができたのだ。

 先輩たちの手前声に出さないが、

『この場所はまるで、天国のようだ。』と、眼を輝かせている。

 先輩たちはそれを不気味がり、『ヤキ入れ』から解放された。

 

 それからは、同級生たちの眼を盗んでは屋上に来ている。


 姿が見えないことで、先生たちが探すが、よもや屋上に居るとは思わなかった。

 暴力が行われた場所は、トラウマの曰くに据えられていた。

 先生が問い糾すと、

「校外にエスケープしたからヤキを入れた。」だった。

 勝手に指定した場所は、散策から外された。そのお陰で、拓也の居場所は護られていた。たった数日間でも、自分の記憶に刻み込むには充分であった。


 先生たちと先輩たちに見つかったとき、現世に未練すら、残っていなかった。

 両手を伸ばし、躊躇ためらいいもなく飛び降りた。

 その場に居る者の思考を止め、先生たちだけでなく、生徒たちの心も閉鎖された。その場に居合わせた者の時間は、停まったと錯覚していたのである。


 教室にいた生徒たちの悲鳴で現実に引き戻されるまで、僅か数秒間の出来事だった。



     三



 数日後、病院のベッドの上で、拓也が眼を覚ました。両脚は複雑骨折していて、二度と自力で立つことができない。とお医者様から宣告されていた。本人には、後悔が見えない。元々寡黙に見られていたから、廻りはそれで訊けないでいた。


 たった数秒間の出来事が、同級生・先輩たちだけでなく、先生たちにもない経験を、拓也だけに与えられたのである。その内容を本人の口から聴くことはなかったが。


 拓也は毎日毎日リハビリをしている。怨念にも似た直向ひたむききさは、その場所に戻る為であった。

 学年が上がるころ退院を果たし、学校側が備え付けてくれたエレベーターで、その場所にたどり着いていた。

 拓也はそれでも未だ、リハビリを続けている。再び自力で立ち上がり、希望を掴み取る為である。


 拓也の努力に打たれたクラスメートたちと担任教師が見守る中、卒業式の前日に、拓也は遂に自力で立ち上がった。


 ゆっくりと振り向き、拓也が始めて語り始めた。


 皆、心配掛けちゃって、御免なさい。

 僕が心を曝け出せなかったのは、神様からのご褒美を隠していたからなんだ。

 皆に言ってしまうと、無くなるんじゃないか、と恐かったんだ。だから、黙っていたことを赦して欲しい。


 僕は皆と、本当の友達に成りたかった。

 怪我する前の僕は、皆の為と思い込み、嫌なことを進んでやろう、と決めていたんだ。

 先輩たちにしても同じ人間だから、いつか気付いてくれる、そう信じていたんだ。

 

 僕の努力が足りなくて、先輩たちに証明してあげられなかったけど、皆には証明出来た。だから、言わせて。悪しき慣習は無くそうよ。何でも受け継いじゃ駄目だ、と思っていたんだ。

 同じ学年の違うクラスメートたちにも、それを伝える為に、僕は頑張ってこられた。


 僕が飛び降りたのは、死ぬ為なんかじゃない。誰かが犠牲になってでも、変えないと駄目なことがいっぱいある、と気付いたんだ。目に映らない変わりに、放射で教えてくれたんだ。もう今しかない。それなら僕が犠牲になって、それを終わらせよう。そうじゃないと、僕のような人間がいっぱいになっちゃうから。

 そんなの悲しいでしょう。

 そんな未来に行きたい、と思う?。

 僕が飛び降りたのは、神様の手を取る為だったんだよ。


 とっても上品で、

 とっても綺麗な、女神様だった。


 女神様が僕に言ったのは、

『努力は必ず報われます。』だった。

 だから僕は努力を惜しまなかった。


 勿論、挫けそうなときもあった。

 そんな時にも現れて、

『もう少し、もう少しよ。』と励ましてくれた。

 応援されるって、力が出てくるものと知った。皆が後ろに居てくれるから、僕に期待してくれるから頑張れたんだ。

 

 だから云うね。


 有難うございました。


 僕の大事なクラスメートたちと仲間たち。

 僕みたいな人間でも、皆の期待に後押しされてここまでこれた。


 ここから先は一緒に努力して、悪しき慣習を無くそうよ。

 先輩たちが無くせなかったものを、僕たちで無くして行こう。


 これからも、よろしくお願い致します。



 追申


 ひとりで悩んでいる方が居たら、手を差し伸べて下さい。

 人はひとりで居ると弱者に陥り易いです。

 ひとりぽっちにしないようにして下さい。

 月や星のように、孤独に耐えるために生まれた、のではありません。

 宇宙の歴史は、ビッグバンから始まった、とされています。それでもビッグバンを起こす原因は、元素が創り出したもの、と考えています。


 疑問を疑問のままに置き去りにしても、後輩たちが困ります。

 今取り組んで是正に努めましょう。

 規則にしても人が創ったものです。

 現状にそぐわないものもありますから、先ずは守りましょう。努力したから意見を云えるのです。破る為にではありません。


 寝言は寝てから言うもの、と知っていますよね。




                   完結


 

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