才城迷子のカタルシス☆帳 ~星蓮海岸の歌姫~

水原蔵人

↓第1話 さいしょの、ものがたり。『プロローグ』

 その日は嵐だった。


 魔物のように唸りをあげる豪雨が、容赦なく人の領域を犯していく。

 海も空も陸も。

 灰色に侵食された世界は、この世の終わりのようだった。


「クックックッ……」


 ひとけのなくなった海岸で、薄気味悪い笑いが木霊こだまする。

 ぼんやりと肩を揺らすその人影は、誰かに語りかけるように両腕を広げた。


「女神よ! 今こそ愚か者に罰をあたえるときだァッ! さぁ! この世界ごと滅ぼしてしまえェェッ!!」


 狂ったように目を見開いて、呪い殺すように声を荒げる。

 嵐の音に掻き消されながらも、人影はしばらく呪文のような言葉を並べていた。


 傍から見れば、その姿は何かに取りかれたようにも見えただろう。

 しばらく海岸に高笑いが響き、そして時間は過ぎていく。


 嵐は一向におさまる気配をみせなかった――



       ☆       ☆       ☆



 ――数日後。


 静かになった海岸で、とある死体が発見された。

 名前も身元もわからない、男性の死体だ。

 しかも、誰もよりつかない岩礁に逆さまになって引っ掛かっていた。

 彼はいったい、なんの目的でこんな場所にやってきたのだろう?

 まるで呪いにでもかかったようなその有様を見て。

 やってきた『迷探偵めいたんてい』は、のちにこう言った。


『Xさん』――と。





――――――――――――

●お読みいただきありがとうございます。

 次回の更新は本日『20:57』の予定になります。

 お時間のある方は、ごゆるりとお立ち寄りください。

 それではまた(^^)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る