バレない浮気は異世界で
eLe(エル)
第1話 年上の女性
土曜日と言うこともあって、店内は少しだけ混み合っていた。プレゼント選びのヒントになるものがないか、ゆっくりと物色していく。ブランドのバッグや財布はあまり好まない。かといって、ネタに走るようなプレゼントもあまり受けが良くない。彼女なりにこだわりがあって、できるだけシンプルで使いやすい雑貨や洋服を好んでいたはずだ。
中々決まらないと腕を組みながら、ふと可愛い柄のマグカップに目が行く。ゆっくり手を伸ばした瞬間、右肩に衝撃が。
「痛っ!」
「あ、ご、ごめんなさい!」
ほとんど同時で、衝突した人も声を上げた。その衝撃でカバンを落とし、中身が散らばってしまう。幸いにもマグカップは無事で、隼也は急いで相手のカバンの中身を拾い集めて手渡した。
「あの、本当すみませんでした」
「ううん、いいの、気にしないで。私もぼうっとしてたから」
その人は年上の女性らしく、スラッとした見た目に白のタイトスカートとノースリーブ。バッグはどこかわからないけれど、ブランド物のようだった。ふと顔を見た時に年上と思ったものの、もう一度みるとさほど歳が離れていないようにも思えた。
「プレゼント選び?」
「え? あ、はい。そうです」
「そっか。これ、いいよね。私も迷ってて」
「それなら譲りますよ、これ。俺、まだ決まってないので」
「そう?」
そう言って、辿々しくマグカップを譲る。彼女はそれを受け取って暫く眺めた後、これに決めたと頷いて。
「じゃあ、お言葉に甘えて。それで、君は何にするの?」
「え、いや、それはこれから決めようと思ってて」
「ふうん。でも、なんとなくその感じじゃ決まらなさそう。手伝ってあげるよ」
待ってて、とマグカップを持ってレジに行く彼女。よく言えば人懐っこいが、悪く言えば馴れ馴れしい。こちらを年下と、何か確信があるのか、当たり前のようにタメ口だし、一緒に選んでくれと頼んだ覚えもない。正直少し不快だったが、うまいこと断れる自信もなかった。
「お待たせ。それで、あげる人は彼女? それともお母さんとか?」
「彼女です。誕生日なので」
「へぇ、いいね。20歳くらい?」
「22です」
「じゃあまだ大学生? あ、ごめんねさっきからズケズケと。マグカップ譲って貰っちゃったから、そのお礼と思って。お節介だった?」
「あぁ……いや、まあ、全然」
「ぷっ……嘘つけないの? まあいいや。それで、マグカップとかを見てたってことは、それなりに長いんでしょ。当たり障りのないものの方が好きな彼女?」
こちらが気を遣って言ったことが分かったのか、彼女は軽く吹き出した。どことなく同じ大学にいたような風貌だけれど、見れば見るほど年齢が分からない。そう言う時は大抵、思ったよりも年齢が上のことが多い。女性というのはそういうものだと、何かの本で読んだことを思い出した。
「まあ、そうですね」
「そっか。じゃあアクセサリーとかよりは雑貨の方がいいのかな。案外時計とか渡したことないならいいかもよ? 安いペアウォッチ。時計って沢山有っても困らないから」
「時計、ですか」
彼女が指差した場所にあったのは、少し小さめで革製ベルトと金縁の腕時計だった。ちょうどペアで買ってもそれほど高くない。凛音が着けるかどうか定かではなかったが、確かに時計を上げたことはなかったので、悪くないと思った。ただ、この女性が勧めてきたものをいきなり買うのは少し抵抗があったものの。
「確かに、いいですね。それじゃあこれにします」
「いいじゃない。喜ぶと思うよ、彼女」
「はい、ありがとうございました」
「いいえ。それじゃあ、頑張って。マグカップもありがとうね」
そう言って名も知らぬ女性と別れ、レジに向かった。ラッピングをしてもらい、少し待っていると先の女性が何やらカバンを漁っていた。気にしないでいたものの、随分とその時間が長いように思えて、思わず声を掛けた。
「あの、どうかしましたか」
「え? あぁ、さっきの。ごめん、さっきカバン落とした時に、キーケースをなくしたみたい」
「えぇ? それはマズいですよね。探しますよ」
「そんな、いいよ。他のところに置いてきたかもしれないし」
女性はそう言ったが、確かにさっきぶつかった時、かなりいろんなものが散らばった。キーケースを失くすというのはかなり大事だ。ちょうどレジでラッピングが終わり、それを受け取るついでにキーケースのことを話す。店員さんも手伝ってくれて、あたりを探してみたがキーケースは見つからなかった。
*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます