3−5 マネージャーの場合
入学式の次の日から、朝練習は始まった。隣で寝ていた千紗姉と一緒に起きて、美沙が作ってくれた朝ごはんを食べて学校へ。千紗姉は黄色の可愛らしい寝間着を着ていたが、喜沙姉のような突拍子のない寝間着じゃなかったからいたって平穏な朝だった。
いや、毎日誰かしら隣にいるから慣れてると思ったら間違いだ。目を開けたら無防備な美少女が隣にいたら心拍数が上がる。日によってはピッタリと密着されていることもある。横を見たら、綺麗に長い睫毛が横に見えたり、瑞々しい真っ白な肌が触れていたり、真っ赤な柔らかそうな唇から小さな寝息が溢れていたり。
男子高校生には中々に厳しい刺激だ。刺激が強すぎる、本当に。でもやめてくれって言えないしなあ。
小学生の頃のやらかしで、心配になった三姉妹は当分の間ずっと一緒に眠っていた。その延長線上のことなんだろうけど、流石にもう平気なんだけどなあ。
隣を歩く千紗姉の横顔を見ながら、そんなことを考えていると目を完全に覚ましたのか、顎が上がる。この僅かな登校時間で意識を覚醒させるんだからすごいよなあ。ダメな部分を学校では見せないというかなりの猫かぶり。
朝練はかなり早く、六時半には始まる。それで一時間半弱練習をしてから、寮生は朝ごはんを食べて登校してくるわけだ。通い組も申請すれば朝ごはんを食べられるが、俺はしていない。千紗姉も申請していないからだ。マネージャーも申請すれば食べられるのだが、美沙が毎朝作ってくれるので問題ない。
美沙も好きだから問題ないって言ってくれるし、美沙の料理は美味しい。断る理由がなかった。
マネージャーは、実のところ七時過ぎに来ればいい。それから朝はあまりやることがないのか、少し雑用をすれば朝練は終わってしまうのだとか。それで朝ごはんを食べるというのもどうかということで申請しているマネージャーはいない。
部員が食べ始めたらやることが一切ないからだ。ジャージから制服に着替えるくらいしかやることがなく、朝ごはんを食べてこなかった人でも教室でパンを食べたりするらしい。マネージャーは皆通いなので朝ごはんを食べてから来る人が大半。家が遠い人は朝練に無理して来なくていいという待遇だし。
で、千紗姉は俺と一緒に登校するせいでちょっと早く着く。美沙に二度手間させないためだ。早目に来てゆっくり準備してから朝練のことをやり出すほうが身体的にも楽らしい。
朝練が終わった後、俺は着替えてから食堂に行って適当に駄弁っている。始業までは時間があり、ご飯も食べなくていいとなるとやることがないからだ。宿題とかが出始めたらやろうと思ってるけど。あと、野球でコミュニケーションは大事だし。
千紗姉と校舎まで一緒に行くことはしない。朝一緒に登校してるんだから、それで十分だろ。
「しっかし便利だよなー。昼飯もここに来れば食べられるんだから」
「そういうところも身体のバランスを考えて、だろうね。購買とかに行かなくて済むから、お小遣いそのまま使えて嬉しいよ」
「小遣いなんて寮生活で使う暇あるか?せいぜい飲み物買うくらいやろ」
「でも先輩とかはゲーム持ち込んでるだろ。お金使わなければ買えるんじゃね?」
「え。なんか寮生活めっちゃ楽しそうなんだけど」
もしかして夜だと誰かの部屋に集まってゲーム大会とかしてるんだろうか。いいなあ。野球ゲームくらいしかやったことないから、そういうのを誰かとやってみたい。中学校の頃はまだ小学校の頃のトラウマであまり野球仲間以外と遊ばなかった。そいつらと遊ぶ時は野球か野球ゲームのどっちかだったし。
「人によるぞ?夜遅くまで室内練習場使ってる人もいるし、宿題やってる人やゲームやってる人もいる。人それぞれだな」
「オレは素振りやってるで!」
「ほどほどにしなよ?授業で寝てたら寮生って厳しく怒られるらしいから」
「はっ。オレのこと舐めんなや!文武両道三間ちゃんとは地元でよく言われたもんや!」
「ウワァ。見えない。ちゃん付けも気持ち悪い」
「はっ倒すぞ智紀ぃ!」
いやだって。こんな見るからに脳筋ですっていう長身でガタイのいい、威勢のいい奴を文武両道でちゃん付けとか。イメージしろっていう方が無理じゃないか。
やっぱり寮は寮で利点あるなあ。同室の先輩たちとも仲良くなりやすいだろうし。でも家でも十分練習とか、練習後のケアもしっかりできる。ただでさえ私立の高校に通ってるんだから、お金の節約は大事だ。家族多いし、片親だから節約できるところはしないと。入学費と授業料タダになってるけど、千紗姉も通ってるからなあ。
推薦組は基本的に諸々の学費は免除される。でもそれと寮費は別。三年間学費を免除してくれるだけありがたいものだ。だから三間や千駄ヶ谷は東京に出て来れたんだろうし。下手な学校に行くより安上がりだったんだろう。甲子園を目指せて、親の負担も減らせるってだけで選ぶ先になるよな。
「それに今日はまだ本格的な授業始まらんだろ。教室や施設の説明、あとは身体測定だったはずや」
「あー。そういえばそんなこと言ってたな」
「めんどくせー。図書室とか使わないのに、利用方法説明されるんだろ?」
「僕たちには無縁の場所だ。家庭科の授業とか、選択芸術も免除にして欲しいのになあ。その間野球に充てたい」
「「「同感」」」
カリキュラムに含まれてるから仕方がないんだろうけど。学生の本分は勉強だから仕方がない。
野球特待生だからなあ。野球漬けでありたいけど、そうもいかない。学校によっては体育科とかスポーツ科などは午前中で学校が終わって、午後からは部活動に専念できるらしい。けどそういう場所で強豪ってあまり思い浮かばないんだけど。野球では、か。サッカーではそういうところがいくつかあるって雑誌に書いてあったな。
練習量や設備はもちろん大事だ。だけどそれが全てでもないだろう。練習量が全てだったらそういうスポーツ科がある学校が毎年甲子園で優勝している。そんな事実はないんだから、それが全てではない証拠だ。
帝王学園の野球部だって毎日練習をしているわけじゃない。土日は他校と練習試合をしたり大会があったりするので休める日はほぼないが、だいたい水曜日は休みだ。大会前だと金曜日とかに休みが来たりするらしい。
要はどれもバランスだ。
けど、つまらない授業を受けるくらいなら野球をしたいってだけ。そういう教科の先生方ごめんなさい。
野球部でゾロゾロと教室に向かい、自分たちの教室に入る。俺たちのクラスに野球部は俺と千駄ヶ谷だけ。随分偏ったもんだ。八クラスだから平均したら四人はいるはずなのに、たった二人。
自分の席に着いて荷物を置こうとしたら周りを女子に囲まれた。なんだなんだ。
「宮下君!昨日の練習見てたよ!宮下君ってもう一軍なんだね!」
「ボールすっごく速かったよね!中学では全国大会でたの?」
「私昨日マネージャーの面接受けたんだ!受かったら三年間よろしくね!」
「私も!」
「私もだよ!」
……ナニコレ?千駄ヶ谷の方を見ると千駄ヶ谷も囲まれていたが、女子は少なく、どちらかというと男子に囲まれている。こっちには全然男子がいない。
男子話しかけてこいよ!俺と仲良くしようぜ!名前と顔、全然一致しないけど!野球部じゃないただのクラスメートとバカやりたいんだよ!中学の時は遅かったから、高校になったら仲良い友達作りたかったのに。
友達ィィ!
女子は、なんというかイイ!だってこの人たちって昨日の人たちと一緒ってことでしょ。俺のこと見てないじゃん!俺の野球以外も見てくれて、友達になってくれそうな奴はいないのか。追っかけなんてオブラートに包んだ存在なんて要らないんだよぉ!
千駄ヶ谷、マジ助けて!
え、なんで蔑みの視線向けてんの?俺たち友達だろ?仲間だろ?
千駄ヶ谷ァァァ!お前だけが頼りなんだ!この状況を、どうにか!一生のお願いだから!
今のお前の方が羨ましいからな⁉︎男友達作れそうで、お前のこと見てくれてそうな女の子寄って来てんじゃん!
だって昨日お前、キャッチボールと走り込みしかやってなかったもんな⁉︎野球要素ほとんど評価されてないもんな!
お願いします代わってください、マジで!
「宮下君ってあのアイドルの宮下喜沙とどういう関係?昨日入学式に来てたけど、同じ名字なのは偶然?」
ああああぁ!喜沙姉のことも早速バレてんじゃねえか!
俺が何したってんだ!俺に普通の青春は寄越さねえってか?野球の神よ、野球だけやって他のことに目を向けるなってことか⁉︎
それとも青春の神が俺を苛めてるのか?まさか神々が結託してるのか?
俺の、普通の青春を、返せぇ!
それからの質問攻めにどうにかボロを出さずに躱した俺は、始業のチャイムが鳴ってすぐグロッキーになっていた。マネージャーになったらよろしくとか、中学時代の俺の話とか、そんなもんSHRが始まる前に話終わるわけないし、誰が受かるかわかったもんじゃない。
マネージャーって、一学年で二・三人だ。最大でも四人だろう。ぶっちゃけそこまでマネージャーは要らない。今日話しかけて来た奴全員はマネージャーにならないということだ。他のクラスでもマネージャー希望はいるだろうし。
一限目の体育施設の紹介が終わって、俺は机に突っ伏していた。この休み時間が貴重だ。流石にこうしてれば話しかけられないだろう。
「あの。大変だったね。宮下君」
そう考えていたら隣の席の女子に話しかけられた。話しかけられた以上は顔を見なければ。突っ伏してたままじゃ失礼だし。
今は隣のこの子しか話しかけてこないから、マシだった。
「……こうなることは、姉から忠告されてた」
「ははは。U-15に選ばれて、アメリカを圧倒しちゃったんだから有名税だよ。それに昨日のボールは、高校生全体を見ても速い方だったから」
彼女も昨日の練習を見に来てたのか。そういう外からちゃんと見てくれて、押しかけてこなければいいんだけど。
それに高校野球にも詳しそうだ。俺のストレートの速度を知っていて、それと高校野球全体と比較して話してくれてるんだから。こういう知識がある人がマネージャーだとありがたい。
求めているのはマネージャーであって、ファンではない。
「あー、悪い。君の名前、わかんない」
「まだ二日目だからね。木下奏です。よろしく」
「木下さん。改めて、宮下智紀です。木下さんもマネージャーの面接受けたのか?」
「まあ、帝王に来たのはそれがメインだし」
感じの良さそうな、普通の女の子だ。そうそう、こういう子でいいんだよ。髪も染めてない、肩にかかるくらいの髪の長さ。外に出ていることがわかるくらいの健康的な肌の色。千紗姉と同じ感じの肌だ。
というか、他の女子たちがなんというか、肉食系すぎる。そのせいもあってがっついてこない、ただ話しかけてきてくれるだけの子が貴重に見える。
本来貴重でもなんでもないはずだけど。
野球部のマネージャーになりたい女の子は多いけど、本質的な意味でマネージャーができる人は限られている。朝練はともかく、マネージャーは激務だ。
練習中もドリンクを用意して運んだり、ボールやヘルメットの用意、片付け。ナイター設備の操作にスコアブックの記入。トスバッティングのトス出し、カメラによる映像の撮影など多岐に渡る。
ただベンチにいるだけ、という人はマネージャーは務まらない。
「昨日面接してたのは知ってるけど、発表っていつだっけ?」
「今日のお昼休みに中央廊下に貼り出されるって。面接には四十人くらいいたけど、何人くらい受かるの?」
「二・三人」
「それだけなんだ……」
「数がいればいいってもんでもないからなー。恋愛目当てでマネージャーになる奴の気が知れない……」
「えっ!」
なに驚いてるんだか。頭の中お花畑で野球部のマネージャーが務まるはずないのに。
だってここ、帝王学園だぞ?甲子園常連校の。
ハハーン?もしかして。
「ひょっとして好きな人がもういるのか?先輩?それとも一年か?もしくは、後輩でもいいからいつかは野球部の人と付き合ってみたいとか思ってたり?」
「あはは……。そうじゃなくて、そういう恋愛とか宮下君気にしてるんだと思って」
「気にするぞ、そりゃあ。野球がやりたいんであって、最高の環境で野球するためにここに来たのに、恋愛脳の人に邪魔されたくないからなあ。あと、年頃ですし?年相応には恋愛にも興味がある」
「……恋愛にも、興味あるんだ?」
「野球部の連中なんてそんなもんだろ。モテたいなんて男子全員思ってるだろうし。彼女欲しいっていうやつは多いさ。マネージャー目当てか、関係ない子が目当てなんだか、人によるだろうけど」
でも千紗姉に欲情する野球部員がいたら目を潰してやる。別に告白しても、好きになるのも自由だ。ただ欲情したらマジでぶっ飛ばす。千紗姉がこの人なら、と思って付き合うなら祝福もする。
けど、付き合ってもないのに欲情する変態は要らない。そんな奴が野球部にいるってだけで虫酸が走る。
でも、千紗姉綺麗だからなあ。二人くらい好きになってる人がいてもおかしくはない。
「最低限マネージャーやるなら、仕事ができる人じゃないとなあ。仕事ほっぽって恋愛されても迷惑だろ?」
「それはそうだね……。マネージャーである必要ないから」
「そういうこと」
チャイムが鳴る。次の時間も施設案内だ。どれだけ使う施設があるんだか。
どうせ俺たちなんて教室と寮、グラウンドしか往復しなさそうなのに。
「マネージャー、今年は二人らしいな。CとEの子。名前まではわかんなかった。中央廊下、人溜まりできてたし」
昼飯を寮で食べながら高宮がそんなことを言う。G組は中央廊下に近いから話が聞こえてきたんだろう。
昼を一般生徒と一緒に食べられないのは仕方がないが、一般生徒と仲良くなるには体育とか行事でなんとかするしかない。でも野球部ってことで話しかけてくれる男子は多い。
女子に話しかけられるより、男子に話しかけられる方が嬉しいとか、どういうことだよ。恋愛脳よりも友情で話しかけてくれる方が心の安定になる。
脱線したが、マネージャーの話だ。片方はウチのクラス。
「千駄ヶ谷、クラスの女子の名前覚えてる?」
「全員は無理。ウチのクラスの女子か……。目が怖い人多いよね。その人たちじゃないことを祈るよ」
「なんや、お前らもか。オレらもめっちゃ話しかけられるけど、もうちょいお淑やかにせーやって思うで。わーきゃー五月蝿くて」
「三間のクラスもそんなんか。女子に偏見持ちそうなんだけど」
「やっぱり彼女は最高やったなって再確認したで……」
「元、彼女な」
「トドメさすなや!隼人ぉ!」
「トドメじゃなくて事実だ」
ウガァと叫ぶ三間。食事中は騒ぐな。普通の音量で話せ。
しっかしその恋愛脳の女子たちは大丈夫だろうか。将来的な意味で。いっときのステータスのために将来を決めてしまって。帝王学園が悪い学校とは言わないが、その彼氏ができる保障もなし。できたとしても結婚までいくかもわからない。
それで進路を決めるのはなあ。ウチが進学校だったら言い訳も効くんだろうけど、ぶっちゃけ学力は並みの学校だ。就職に強いとか進学に強いとか、そんな特色はない。
特色はスポーツ学校ということなんだから。
あ、三間は結局復縁できなかったらしい。ドンマイ。
「そういえば今週末から春の大会だけど、ベンチメンバーって明日発表だっけ?」
「練習なしでその発表だけだってな。一軍から選ばれるんだろ」
「俺らにはノーチャンなんかなあ」
「あの紅白戦くらいしか判断材料ないからな。アピールするにしても、春の大会次第。勝ち上がって関東にでも出られたら練習試合とかも組めないだろうから、それまでお預けだな」
「二軍ならGWの招待試合に出られるらしいぞ。勝ち上がったら最速そこだな」
「あー、僕には関係ない話だ。どうやったら二軍に上がれるんだろ」
さて。誰かが三軍に落ちたら代わりに二軍に上がるのか。そこら辺はさっぱりだな。
明日は練習休みかー。家に帰って練習するか、ここで自主練するか。自主練は禁止されていないが、名目上は身体の休養日だ。自主練も推奨はされていない。
「明日どうする?」
「お前の家が気になる。行っていいか?」
「あ、それは俺も!」
「俺もだ!」
「アイドルに会わせろ!」
「よーし、喜沙姉目的の野郎は連れて行かねえからな?家の場所も教えねえ」
「バカな⁉︎」
「はっ。俺のようにそんなことなんとも思っていないように装えば──」
「お前も禁止だ!」
「しまった⁉︎」
俺の家に行くってなったらいきなり騒ぎ立てやがって。下心丸見えなんだよ。そんなバカを家に案内するわけないだろ。
というわけで明日俺の家に行く面々を決める争いが始まった。醜い争いだ。これだけで昼休みが潰れるんだから、こいつらって真正だと思う。
あと必死に下心隠そうとしている奴。明日喜沙姉は大阪にロケで泊まりだ。大学からそのまま事務所寄って、新幹線で大阪に行くから会えないぞ。
後でメールしておこう。
ウチのクラスのマネージャーというのは、隣の席の木下だったらしい。監督や千紗姉たち現役のマネージャーが面接をしたらしいけど、恋愛脳の女子はとことん落としたらしい。木下はお眼鏡にかなって良かったな。
新しくマネージャーとして入ったとはいえ、放課後の練習の際に自己紹介とかもなく、いきなり練習の手伝いをさせられたらしい。俺たちも気にせず練習に打ち込んでいたけど。
いや、数人は気にしてたか。
昨日に比べると一年女子が減ったからか、ギャラリーが減っていた。上級生は元気に見に来ていたけど。一年生はマネージャーになれなかった層がごっそり抜けた感じだな。
練習が終わって帰り道で千紗姉に一年マネージャーについて聞いてみた。
「予想通り、仕事に真面目だよ。面接で聞いたことにちゃんと答えられたのはあの二人だけだったからね。それ以外は男目当て」
「なんて質問したのさ?」
「去年のウチの野球部の、夏と秋の成績。春はわかんないかなと思って除外したって香具山先輩が言ってた」
「夏は甲子園二回戦、秋は東京大会ベスト四だっけ」
「そう。マネージャーやる気ならそれくらい調べなさいって話」
「千紗姉の時は?」
「一昨年のドラフトにかかったOBの球団と順位」
「それもそれで」
そういう、帝王学園の野球部に興味のある人間しか受からないというわけだ。まあ、適した面接内容なのかもしれない。
野球部のこと興味無かったら、続けられないだろうからな。
「知識だけ詰めてきた人が受かったりしないの?」
「そういう人って仕事が大変で辞めてったらしいよ?裏方の大変さわからないでやってきたらそうなるでしょうけど」
「はー。面接の内容がバレたりしないの?野球部についてなんでしょ?」
「教えてくれる先輩もいるんだろうけど、受からなかった人は漏らさないわよ。マネージャーは部員に一番近い女子。そこに入り込める人が増えたら、狙ってる子を奪われるかもしれないじゃない」
「……本当にあの学校の女子が怖くなってきたんだけど」
え、なに?他の強豪校のマネージャーも同じような人種が受けてるの?どこもこんな感じなの?
それとも帝王学園が特殊なのか?
でも強豪校によるけど、マネージャーなしとか、男子マネージャーのみって学校が多いのも事実か。そういう女子ならいっそ受け付けなくしちゃえばいいんだけど。……面接も面倒だろうからなあ。その煩雑さを解消するためにマネージャーなしも一つの手か。
「まあ、木下ちゃんと福圓ちゃんはそんな子たちじゃないから多分大丈夫」
「その福圓さんがC組の人か」
「その二人にはあたしとあんたが姉弟ってバレてるけど、喜沙姉のことはまだ。クラスの方はどう?」
「聞かれたけど、答えなかった。マジで男子が救いだよ……。女子が怖い」
「御愁傷様」
チャット 三姉妹の秘密の花園
1年早く生まれてたら:それでお姉。二人のマネージャー、どんな感じ?
マネージャーめんどい:野球知識しっかりある子。最初だったからか熱心だったよ。
1年早く生まれてたら:そんなこと聞きたいわけじゃないってわかってるでしょ?
マネージャーめんどい:別に智紀のこと狙ってるとかはないと思うよ。聞かれたわけでもないし。男なら誰でも良いって感じもしない。
トモちゃんが遠くに〜:失礼しちゃう!トモちゃんに魅力がないってこと⁉︎
1年早く生まれてたら:いやいや、それはないよ。お兄ちゃん既に女の子に囲まれてるらしいし。わたしたちのお兄ちゃんだよ?
マネージャーめんどい:まだ試合で活躍したわけじゃないからね。でももう二軍だし、春大会が終われば練習試合に出るだろうから。心配するならその辺りからかな。
トモちゃんが遠くに〜:でも女の子に囲まれてるトモちゃんも見たくない〜!
1年早く生まれてたら:出た。お姉ちゃんのわがまま。
マネージャーめんどい:気持ちはわかるけれど。でも大丈夫。あの学校の女はみんなやばい奴って智紀洗脳しておいたから、囲まれても恐怖しか覚えないよ。帰りにも女子怖いって言ってたし。
トモちゃんが遠くに〜:千紗ちゃんナイス!
1年早く生まれてたら:でも、それって多分普通に接してくれるマネージャーは除外だよね?そこのところは?
マネージャーめんどい:……。
トモちゃんが遠くに〜:千紗ちゃん?まさか⁉︎
1年早く生まれてたら:もしかしてもう女狐どもが⁉︎
マネージャーめんどい:ああ、いや!多分恋愛感情的な意味だったら大丈夫。みんな智紀には純粋に野球の実力で評価してるし、あたしがいるからか、真面目で良い子って言われてる。あたしと比較されてるんだろうね。
トモちゃんが遠くに〜:そういう子たちは潜在的にトモちゃんを狙ってるものなの!本当に千紗ちゃんはそういう洞察眼がないわね!
1年早く生まれてたら:ホント、そういうところお姉は!女は素性を隠すこともできるの!何とも思ってないフリして、水面下ではお兄ちゃんを狙ってるに決まってる!中学時代でもそうだし、未だに中学校でお兄ちゃんを知ってるメスガキどもがお兄ちゃんのこと探ろうとして来るんだから!お前らなんかお兄ちゃんの眼中にも収まってねーよ!バーカ!現実見やがれ!
マネージャーめんどい:フルボッコだ⁉︎あと、美沙!言葉悪過ぎ!
1年早く生まれてたら:こんくらい普通!それにこれチャットだし!現実では猫かぶってるよ!わたしと同じ状態の女が一定層いるってこと!突撃しかないバカな女ばっかじゃないってお姉は覚えて!
トモちゃんが遠くに〜:厄介なのは素性隠している方に決まってる!千紗ちゃん、マネージャーの女たちも要観察対象よ!
マネージャーめんどい:うげぇ。やること増えた。注視するけどさあ、どうやって判断するの?智紀の話題出す?
1年早く生まれてたら:そんな藪蛇突かなくていいの!日常会話で判断すればそれで。絶対どこかでボロ出すから。何もしないままだったら恋愛なんて発展しないもん。
トモちゃんが遠くに〜:こう、乙女レーダー的なものでビビッと感じ取ってよ!
マネージャーめんどい:無茶振りだ⁉︎
1年早く生まれてたら:やっぱりわたしが学校を支配しないと……。お姉だけじゃ不安だ。
トモちゃんが遠くに〜:そうねえ。一年不安だわ。あ、美沙ちゃん。明日トモちゃんのお友達によろしくね?
1年早く生まれてたら:うん。任せて。どういう人たちか見極める。
マネージャーめんどい:あれ?あたしは?
トモちゃんが遠くに〜:千紗ちゃんに任せてもねえ?
1年早く生まれてたら:そうだね。わたしがどうともするから。
マネージャーめんどい:信用ないな⁉︎
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