第371話 ついに完成するのか!?
「まあ、そこまで無茶な要求はしませんよ。アッハッハッハ」
朗らかに笑っているレオルドに対して国王はこめかみを押さえている。
レオルドの言葉が真実か嘘かどうかは置いておいて、不安な種を蒔いてしまったのは事実だった。
「もう良い。情けない話だが、お前に相応しい褒賞を用意出来ない私の落ち度だ。それでも体裁は守られるだけマシというものさ」
二人は国王と臣下であり、主従の関係だ。
そして、御恩と奉公こそが封建制度であるからして国王がレオルドに対して褒美を用意出来ないのは力量を疑われる。
レオルドが特殊な為、不満を覚えたりする事はないが、これが他の貴族であったならば不満を抱くのは間違いない。
やがて不満は爆発し、離反され、謀反すらあり得るだろう。
そう考えればレオルドに一切のその気がない事に国王は救われていた。
「ふう……。随分と長話になってしまったな。レオルド、先程の話は考えてくれたか?」
「長期休暇を取れという話ですか?」
「そうだ。しばらく大人しくしていて欲しい……」
レオルドが一度行動を起こせば、何かが起きるのは間違いない。
先程も帝国の魔道列車を導入すると口にしていたから、もしも実行されたら国王としては堪ったものではない。
またレオルドに大きな貸しを作ってしまうからだ。
「大人しくとは言われても私は領地改革が忙しい身ですし、シルヴィアとの結婚式も準備しなくてはなりませんからね~」
長期休暇は確かに魅力的な話なのだがレオルドは多忙の身である。
領地の改革、シルヴィアとの結婚、そして待ち受ける魔王襲来という最後の死亡フラグ。
もうすでにゲームの事は頭から忘れて、レオルドは徹底的に魔王襲来に対して備え始めていた。
その一端としてシャルロットに頼んで魔王の探索を行っている。
しかし、シャルロットの能力をもってしても未だ発見出来ていない。
「(……シャルロットが見つけられないって事は魔王も相当こちらを警戒してるんだろうな)」
国王と話しつつもレオルドの頭の中は魔王襲来で一杯だった。
勿論、それだけが全てというわけではないが今最も警戒すべきは魔王の襲来なのだ。
先程、国王に話していた金儲けも魔王襲来に備えてのものだ。
軍備、物資、兵糧、ゼアトにはまだまだ足りなさすぎる。
目覚ましい発展を遂げているが、魔王襲来は恐らく想像している以上のものになるだろう。
「(魔王は神聖結界を恐れてシルヴィアを暗殺するくらい慎重な奴だ。シャルロット、シルヴィア、そして俺の三人を魔王は警戒しているに違いない。ここまで話題になってるんだから当然だろうけども……。シャルロットがいるから問題ないと言いたいんだけど……魔王がシャルロットの対策を怠るはずがないんだよな~)」
世界最強の魔法使いであるシャルロットがいれば、まず間違いなく敗北はあり得ないが万が一が無いという事はない。
魔王は狡猾で臆病である為、自分の脅威になりえる存在は徹底的に排除する。
それゆえに魔物にとって天敵とも言える神聖結界を持つシルヴィアを暗殺したのだから。
「(二十四時間付きっ切りでシルヴィアの傍にいれるわけではないからな。それにこちらの油断している所を狙ってくるだろうし……。まあ、ゲームでは姉の子供の誕生パーティに仕掛けてくるんだが……果たして今回はどうなるやら)」
当然、対策は練っている。
シルヴィアにはいくつもの防御系の遺物を渡している。
とはいえ、確実とは言えない。
「どうした? レオルド。先程から何やら考え込んでいるようだが、何かあるのか?」
「あ~、いえ、領地をどのように改革していこうかと考えていただけです」
「そうか。まあ、あまり根を詰めすぎないようにな」
「ご心配ありがとうございます。それでは、長くなってしまいましたが領地へ戻ろうかと思います」
「うむ。分かった。護衛をつけよう」
「お気遣いありがとうございます」
国王へ一礼してからレオルドはシルヴィアと共に部屋を出て行く。
二人は並んで廊下を歩いているとシルヴィアがレオルドに話しかける。
「レオルド様。先程は何を考えていらしたのですか?」
「陛下にも言いましたが、今後の領地改革についてですよ」
「嘘はやめてください。先程の表情は深刻な問題を抱えているかのようなものでしたわ。何を隠していらっしゃるのですか?」
「…………シルヴィアには隠し事が出来ないな~」
「フフ、浮気など簡単に見抜けますからね」
「大丈夫さ。俺はシルヴィア一筋だ」
「ッ! そ、それよりも一体何を隠していらっしゃるのかお聞かせください」
レオルドの一筋発言に照れたシルヴィアは顔を扇子で隠して、先程の質問に答えるよう目で訴えた。
「……ここでは誰が聞いているか分かりませんのでゼアトに戻ってからでもよろしいですか?」
「分かりました。それでいいですが、誤魔化したり、はぐらかしたりするのは駄目ですからね」
「分かってますよ」
それから二人は国王が呼んでいた護衛と共に転移魔法陣まで向かい、ゼアトへと帰還するのであった。
◇◇◇◇
ゼアトへ帰還したレオルドは屋敷へ戻り、部下を招集させ、会議を行った。
「今日集まってもらったのは定例会と報告のようなものだ。ギル、頼んだ」
「では、僭越ながら進行係をさせていただきます。まずは聖教国から正式な詫びがありました。それから、ゼアトに滞在していた司教が強制送還され、新たな司教が派遣されました。勿論、聖女アナスタシアによる厳正な選抜ですので御安心を」
「その言い方だと以前いた司教には何か問題があったようだな?」
「どうやら、お布施として多額の治療費を請求していたそうです」
「殺しておけばよかったか……。補填はしてあるのか?」
「はい。止む無く多額の治療費を請求された住民には補助金として支給しています。中には詐欺師もいましたが……」
「なるほど。処理済か」
「当然です。しかし、やはり人が増えてくると犯罪率も上がってきております」
「そうか……。ここ最近は急激な人口増加で犯罪者も増えたか」
「警備を強化し、巡回もしておりますが手が足りませんな」
「ふむ……」
ゼアトの騎士団は国境の警備、周辺の魔物の駆除、治安維持と多忙であり、人手不足でもある。
レオルドが言っている通り、ここ最近は目まぐるしい発展を遂げているゼアトには多くの人間が押し寄せている。
出入り口では簡単な身辺調査を行っているものの、犯罪者を見逃してしまう事もある。
「ジェックス。餓狼部隊から何人か巡回警備に回せないか?」
「無理だな。大将の指示に従って今はあっちこっちで情報収集してて、警備に回せるほど人がいない」
「むう……。バルバロト、兵士の募集の方はどうだ?」
「大変多く集まっておりますがこちらの採用基準に満たない者が大半です」
「…………ゾーフィー! お前の傭兵団は使えないか?」
「僕のところも無理だよ。君に言われた通り、色んな商会に潜り込ませてるから人はいないよ。それに僕の団は少数精鋭だし」
「ちッ! 使えんな!」
「僕だけ辛辣じゃない!?」
「この場に呼んでもらってるだけ有り難いと思え」
「いや、まあ、それはそうなんだけどさ~。もう少し、優しくしてくれてもいいんじゃないかな~」
「帝国に引き渡すぞ」
「うぐ……」
ゾーフィーことゼファーは帝国から指名手配をされているのでレオルドのもとで匿ってもらっている。
レオルドとしては元帝国守護神のゼファーは貴重な戦力である為、重宝しているのだが、私情で皇帝を裏切っている男なのである程度の警戒はしていた。
「ふう……。まあいい。ルドルフ、回復薬のほうはどうなっている?」
「量産体制が整っておりますので出荷はいつでも可能ですよ」
「上々だ。今まで暴利を振るっていた生臭坊主共に天誅を食らわしてやる」
「おやおや、またしばらく大陸が荒れそうですね~」
「くっくっく、経済を引っ掻き回してやるさ」
あくどい笑みを浮かべるレオルドに部下達は釣られて笑う。
それでこ我が主だと頼もしそうに。
「さて、一番のお楽しみは……」
ひとしきり笑ったレオルドはキラリと瞳を輝かせてマルコを見つめる。
「完成間近ですよ。レオルド様!」
「流石だ! サーキットの準備を急いだ方がいいか?」
「一応、ローラーで耐久テストを行ってますが実際に走らせてみたほうがいいと思います」
「よし! なら、開拓するか!」
いよいよ自動車が完成すると知ってレオルドは興奮を抑えきれないようで、会議が終わるまでずっとソワソワしていた。
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