第357話 ショートコントみたいな展開
聖歌隊のお披露目もいよいよ終盤を迎える。聖歌隊が最後の歌を披露し、そこへ教皇が出てきた。教皇は住民達の前に出て行き、両手を広げると盛大な拍手が送られる。
そして、教皇が手を下ろすと拍手は鳴り止み、大聖堂は静けさを取り戻す。全ての音が鳴り止むと教皇は首を回して、住民達を見詰めると優しそうな笑みを浮かべた。
「全ての者達に祝福があらんことを……」
祈りを捧げる教皇に倣って住民達も神へ祈りを捧げる。
その姿を来賓席から見ているレオルドはぴくぴくと眉を動かしていた。
(なんともまあ見事なもんだ。主演男優賞があれば間違いなくお前だよ)
胡散臭い演技だと分かっているレオルドだが、他の者は知らない。教皇が邪神の復活を企んでいる事を。
何も知らない住民達はただ騙されているだけ。信心深く祈っている所悪いのだが、教皇が祈っているのは邪神である。真実を知ったらどうなるか。
きっと、発狂するかもしれないだろう。
それから、しばらく祈祷の時間が続いたが教皇が祈りのポーズを解いた事により住民達も元に戻った。
「今日は素晴らしい日になるでしょう。歴史が変わるのです。この時を以って」
(仕掛けてくるか!)
来賓席にいたレオルド達は教皇の雰囲気が変わったのを察して動き出した。
だが、それを許さんとする者達がいた。聖騎士である。ブリジットを始めとする聖騎士達がレオルド達を囲んだ。
レオルド達が動いたのを見てジークフリート達も動いたが、同じように聖騎士に囲まれてしまった。
これでは教皇の企みを阻止する事が出来ないかと思われたが、アナスタシアの一言によってブリジットが動揺してしまい動けなくなる。
「ブリジット! 貴女の正義はいったいどこにあるのですか!」
「アナスタシア様。わ、私は……!」
たじろぐブリジットを見逃さず、レオルドがバルバロトに抑えるよう命じた。
「バルバロト! ブリジットを抑えろ!」
「お任せを!!!」
とはいえ、ブリジットは聖騎士筆頭の実力者だ。その守りは固く、何者にも砕けないと言われている。
いくらバルバロトと言えども厳しかった。動揺しており、本来の実力を出せていないがブリジットはバルバロトの攻撃を防いだのだ。
「くッ!」
「ッ!」
「マジかよ。あの状態でバルバロトの剣を防ぐとか!」
「レオルド様!」
レオルドはシルヴィアの声を聞いて振り返ると、聖歌隊の足元から怪しげな光が出ていた。恐らくだが、あれこそ邪神を復活させる儀式の魔法陣であろう。
その儀式を止めるべくレオルドが走る。それをさせまいと聖騎士がレオルドを阻むがジークフリートが聖騎士をなぎ倒した。
「今の内に行け! ここは俺が抑える!」
驚くレオルドだったがジークフリートの一言で聖歌隊の元へと急いだ。
レオルドは用意していた道具を取り出す。ルドルフとシャルロットの三人で開発した
聖歌隊の足元に刺さった短剣は見事に魔法陣を破壊したかのように見えたが、怪しげな光は収まらない。
「バカなッ! 一体どうして!」
「フハハハハハ! やはり、邪魔をしてきましたね。レオルド・ハーヴェスト!」
「てめえ、まさか分かってたのか!」
「ええ、勿論ですとも! 貴方に呪いを弾かれた時、確信しましたよ。きっと、私の企みを看破していると。だから、
「じゃあ、俺がさっき破壊したのは!」
「そうです! ただ光るだけの魔法陣! つまり、邪神の復活は止められない! ハーッハッハッハッハ!」
「くそ! なんて言うと思ったか? バーカ」
「何!?」
「お前がそうすると思ってこっちだって何重にも対策してんだよ! ギル!」
その瞬間、ギルバートが聖歌隊の上空へと巻き紙を投げた。丸まっていた巻き紙はパッと開くと魔法陣が空中に形成される。
「あれは一体!?」
「シャルロット特製の転移魔法陣だ!」
「なんだと!? まさか……! 止めろ! 止めるんだ!!!」
「転移対策もしておくべきだったな、クソジジイ!」
「うわあああああああッ!!!」
転移魔法が発動し、聖歌隊は無事に救出された。これで邪神の復活は阻止する事が出来た。これにて一件落着だと誰もがそう思っていた時、崩れ落ちた教皇が愉快そうに笑い声を上げた。
「ククク、ハハハハハハハ!!! いや〜、流石はレオルド・ハーヴェスト。まさかこちらの策をこうも上回るとは。しかし、詰めが甘い。私が保険を掛けていることは見抜けなかったかな?」
「何を言って……ッ!」
ゴゴゴと大聖堂が突如として揺れ始めた。異変に気がついたレオルドはバルコニーへと飛び出して空を見た。
「おいおい、冗談だろ……! こんなの
レオルドが見詰める先には聖都を覆いつくす巨大な魔法陣。その魔法陣に聖都に住まう生きとし生ける者全ての魔力が吸われていく。当然、それはレオルドも例外ではなかった。
吸収速度こそ大したことはないが、魔力が減っていくのを感じる。
「ハハハハハハハッ! 聖女三人に聖都全ての者達が生贄となるのだ! さあ、我が神よ。今こそ降臨するときが来ましたぞ!」
「狂ってんのか、てめえ! このままだと、お前まで死ぬんだぞ!」
「それがどうした? 我が神にこの魂を捧げる事が出来るのだ。むしろ、喜ばしい事ではないか!」
「ッ……!」
元より狂っているから邪神を復活させようとしていたのだ。その為ならば自分の命すら惜しくない。それは教皇に取っては息を吸うのと同意義であった。
(くそ! まさか、こんな方法があるなんて……! それより、どうする? このままだと邪神が復活しちまう! しかも、それだけじゃなく俺もシルヴィアも皆魔力を吸い尽くされて死ぬ! どうにかしないと!)
絶体絶命の危機を迎えるレオルド。どうにかしなければと必死に思考を巡らせる。万策尽きたレオルドは分の悪い賭けに出るしかなかった。
「ギル、イザベル! シルヴィアを頼む! 俺は魔法陣を破壊してくる!」
「そうはさせんよ」
「ぐはっ……!? お前、まさか!?」
背後から強襲されたレオルド。彼の背後にいたのは教皇だ。しかし、様子が先程までとは違った。
その姿を知っているレオルドは目を見開いて驚いている。今、教皇には邪神の残滓が宿り、教皇の体を使っているのだ。
「いつの間に……!」
「ふむ……。つい先程かな。しかし、この体は碌なものではないな。やはり、若い体のほうがいい。特にお前。お前の体がいいな。あちらの小僧でもいいかもしれんが洗練されているのはお前の方だ」
「はっ。お生憎様、俺の体はレンタル不可能でね! 誰にも渡しはしねえよ!」
まあ、レオルドの体に真人の魂が混ざっており、そこへさらに邪神が割り込めば三つ巴になってしまう。流石にそれは勘弁願いたいところだろう。
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