第342話 現状、手詰まりなんだよな~

 宿へ戻ってきたレオルド達を待っていたのは、大聖堂に侵入したギルバートであった。そのギルバートの後ろにはイザベルとバルバロトが控えている。その姿を確認したレオルドは不敵に笑い、全員を引き連れて部屋の中へ入る。


「それで、どうだった?」


 早速、レオルドはギルバートから報告を聞いた。恐らく、レオルドは自分が考えているとおりになっていると確信しているようで、口元がにやけている。しかし、その顔はすぐに崩れることになる。


「残念ながら、坊ちゃまが仰っていた事は確認できませんでした。教皇猊下は聖歌隊を作っておられるようで子供を集めていたそうです。それから、行方不明の子供は他国に引き取られたとのことです。確かな証拠はありませんでしたが、書類は確認できました。もっとも、偽造かもしれませんが、そこまでは確認出来ませんでした」


「そんな馬鹿な……」


 まさかの報告にレオルドは頭を抱えることになる。今まで運命48ゲームとほとんど同じ歴史を辿っていただけに、今回の報告はレオルドを混乱させた。本来であれば、教皇が子供を生贄に捧げて、邪神の復活を目論んでいるはずなのだが、ギルバートからの情報では聖歌隊を作っているとのこと。

 これは、運命48にもなかった事態だ。どのように対処すればいいのか、レオルドも分からない。それに、シルヴィアと聖女に民衆を扇動してもらう作戦も潰えた。肝心の子供達が行方不明ではなく、聖歌隊になっているのだから、教皇を批難することも叶わない。


(嘘だろ……! 聖歌隊ってなんだよ!? そんなのゲームにも……。いや、落ち着け。ここは現実なんだ。今更だろ。もっと情報が必要だ。しかし、何をどう調べる? 他国に引き取られた子供が本当に存在するのかを確かめるか? いや、それは流石に時間が掛かり過ぎる。ここは一旦、情報を整理しよう)


 レオルドは、運命48の攻略知識と現実との差異を確認する。運命48では、聖女アナスタシアが教皇の企みを知って阻止するために、ジークフリートを連れて聖教国に戻ることから始まる。聖都で起こっている事件を解決していくことで、教皇の企みが邪神の復活ということを突き止めて、アナスタシアとジークフリートが中心になって教皇と対峙することになる。

 そこで、アナスタシアが聖女として、更なる覚醒を果たし、ジークフリートと共に、邪神に乗っ取られた教皇を倒すまでが聖都での一連のイベントだ。


 しかし、現実では違う。まず、レオルドがシルヴィアと婚約したことを知って、教皇は婚約祝いをしたいと言って二人を聖都へ呼び寄せた。そして、レオルド達以外も聖都へ来ており、聖女アナスタシアとジークフリート一行がいる。さらには、運命48で偽聖女扱いされたアストレアまで聖都にいる。そして、極めつけが聖歌隊の結成だ。ここまでが、レオルドが知っている情報だ。


(う〜ん……。アナスタシアに会いにいくか? ジークフリートと一緒にいるってことは、多分、教皇が何かを企んでいることを知っているはず。まだ、この段階では邪神の復活だとは知らないが、教皇が怪しい動きをしていることを知っているはずだ。彼女から情報を共有してもらえれば、先手を打てるか? ただ、問題は俺なんだよな〜。少なくとも、アナスタシアには嫌われてはいないと思うんだけど……、他がな〜)


 レオルドが腕を組んで唸っていると、シルヴィアが声を掛ける。


「あの、レオルド様? 何か、お考え事でしょうか?」


「……ええ。少々、厄介な……、あっ!」


 心配そうに見つめてくるシルヴィアを見て、レオルドは名案を思いつく。というよりは、簡単な事に気がついた。自分がダメなら、他の人間に任せればいいのだと。


「殿下。頼みたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「レオルド様が私にですか? ええ、勿論です! 私に出来ることなら、どのようなことでもお任せください」


「そこまで気合を入れなくても。えっと、聖都にいる聖女アナスタシアから情報を得たいのです。しかし、彼女の側にはジークフリートと他にもいるので、私が近づくと警戒されてしまうので、お願いできないでしょうか?」


「それくらいでしたら、お安い御用ですわ! 私にお任せを!」


「ありがとうございます」


「お礼はいいですわ。それよりも、お聞かせください。ギルバート様からの情報で、もう、心配するようなことはないと思うのですが、どうして、そこまでなさるのですか?」


「確かに、ギルからの報告で心配するようなことはないと思うのですが、不安が拭えないのです。なにか、見落としているのではと」


「なるほど。それで、何かを知ってそうな聖女様にお話を伺うのですね」


「ええ。そこは殿下にお任せしますので、私は別のことを調べておこうと思います」


「わかりましたわ。しかし、こういうことなら、もっと部下を引き連れて来るべきでしたわ。そうすれば、もっと、情報を得ることが出来たでしょうに」


「ああ、モニカ達ですね。確かに、彼女達が協力してくれれば、もっと情報を集めることが出来たでしょうね」


「過ぎたことを言っても仕方がありませんわね。では、明日、私は聖女様にお会いしますね」


「はい。よろしくお願いします」


 そういう訳で、レオルドは、もう少し情報収集をする事にしたのだった。聖歌隊の結成、聖女アナスタシア、偽聖女アストレア。そして、教皇による邪神復活の儀式。予測もつかない未来にレオルドは立ち向かう。

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