第337話 福利厚生バッチリなら逃す手はないやろ
植物型の魔物に襲われているところを二人に、助けられたキャロラインは感謝の言葉を述べた。
「ありがとう。助かったよ。あと少しで、養分になるところだった。はっはっはっはっは!」
呑気に笑っているが、本当に危なかった。あと少しでも、二人が遅ければ確実にキャロラインは養分になっていた。
「笑い事ではないのだがな。まあ、無事でよかった」
「はははは。なに、終わってみれば、些細な事だろう? そのようなことを一々気にしていたら、時間が勿体無いさ。さて、助けてもらっておいて悪いのだが、食料と水を分けて……いや、すまない。君達、見た所、何も持ってなさそうだね。ここら辺に住んでるのかい? 先程も、いい雰囲気であったし、恋人ではないのかな?」
「それは誤解だ。というか、俺の顔を知らないのか?」
「ん? もしかして、君は自分が有名人だとでも言いたいのかな? だとしたら、申し訳ない。私は日中、研究ばかりしていて世俗には疎いのだよ」
「……そうか。なら、言い方を変えよう。お前はこれから、どこに向かおうとしていた?」
「む? どうして、そのようなことを聞くのかね、と言いたい所だが、それが答えに繋がるのなら、答えようか。私はゼアトに向かっている最中なのだよ。かの辺境ゼアトには、レオルド・ハーヴェスト辺境伯がいるからね。雇ってもらおうと思い、向かっている最中なのさ」
「ほう。それは興味深いな。ちなみに雇ってもらうと言っているが、具体的にはどうするつもりだ?」
「ふふふ、それは簡単さ。こいつを辺境伯に献上する!」
そう言って、キャロラインが背負っていた鞄から取り出したのは、液体の入った薬瓶だった。それを見たレオルドとシャルロットは首を傾げて、キャロラインに視線を戻す。
「まあ、見ても分からないだろう。これは、
(こいつ、平気で恐ろしい事を言いやがる! まあ、貴族の中には相手が平民なら、製法だけ聞き出して始末するって奴もいるから、キャロラインが警戒するのも当然か……)
レオルドは、そのようなことはしないが、もしも、キャロラインの言うような事をすれば、死ぬのは確かだろう。彼女には戦う力はなくとも、錬金術で作った様々な薬品がある。その気になれば、街一つなら滅ぼせるかもしれない力を持っているのだ。
「面白いわね〜! これって従来品よりも回復量が高いって言うけど、具体的な数字はいくらなの?」
「…………一割増しだ」
言いにくそうにキャロラインは答えた。恐らく、先ほど自信満々に言っていたので、実は一割増しなのが恥ずかしかったのだろう。
「へ〜。でも、従来品のよりも一割増しなら十分じゃない。ねえ、レオルド?」
「ああ、そうだな。十分な成果だ」
「え、は? ちょ、ちょっと待ってくれたまえ! 今、レオルドと言ったのか? まさか、ゼアトの領主であり辺境伯である、あのレオルド?」
シャルロットの無視できない発言に、キャロラインは動揺を露わにする。つい、さっきまで普通に話していた目の前の人物が、まさかレオルドだと思わなかったキャロラインは困惑している。
「ふっ、そうとも。俺がレオルド・ハーヴェストだ。よろしく、キャロライン」
「そして、私はシャルロット・グリンデでーす! よろしくね、キャルちゃん!」
「な、ななななッ!? 辺境伯だけではなく、あのシャルロット・グリンデもだと……! は、はは、私は夢でも見ているのか?」
衝撃の事実にキャロラインは、夢でも見ているのではないかと頬を抓った。しかし、確かな痛みを感じて、夢ではない事を理解した。
「さて、積もる話はあとにしようか。まずは、シャル。屋敷へ戻るぞ」
「はいはーい。じゃあ、キャルちゃん。私の手を握ってくれるかしら?」
「あ、ああ。これでいいのか?」
「そうそう、そんな感じ。それじゃ、転移するから舌を噛まない様にしてね」
「え?」
キャロラインは確認する暇もなく、いきなり転移して、目の前の景色が一瞬で変わったことに驚いた。
「これはッ!? そうか。これが転移魔法。しかし、個人での使用は不可能と聞いていたが、流石は世界最高の魔法使いと言うべきか……」
戸惑うキャロラインであったが、シャルロットの事は知っていたので納得することが出来た。
「ようこそ、ゼアトへ。歓迎しよう、キャロライン」
「ふふ、なるほど。それで、私は雇ってもらえるのだろうか? レオルド辺境伯」
「そう結論を焦るな。まずは、お前の作った魔力回復薬を試したい」
そう言ってレオルドはシャルロットとキャロラインを連れて、ルドルフが働いている、ゼアトの研究所へ向かった。
研究所に着いた三人は、ルドルフの下へ向かう。やはり、新たな試みを始めるには、ルドルフは必要不可欠な存在だ。
「ところで、一つ気になるのだが、キャロライン。どうして、お前はフリューゲル公爵に雇ってもらわなかったのだ? お前はフリューゲル公爵令嬢とは仲が良かったのだろう? 卒業する際に声は掛けられなかったのか?」
「ふむ、そのことか。確かに、一度は声を掛けられた。が、考えた結果、断る事にしたのだよ」
「それは、どうしてだ?」
「私と仲が良いのはテスタロッサだけだ。しかし、いくら、仲が良かろうとも平民の私が公爵家で働く事など余計な反感を買うだけだと思ってね。それに、私の研究は危険を伴う。迷惑は掛けられない」
「ほう? それは俺になら、いくらでも迷惑は掛けていいと思ってのことか?」
「その通りだ。なにせ、あのルドルフ・バーナードを雇ったお方だ! ならば、私も研究の成果を見せれば、雇ってもらえると踏んだのさ」
「ははっ、正直だな。嫌いではないぞ、その考え方は。だが、まだお前を雇うかはわからない。その魔力回復薬が本当なら考えよう」
とは言うものの、レオルドはキャロラインを雇うつもりだ。元々、錬金術師を探していて、そこに
「もし、ダメだったらどうするつもりかね?」
「心配するようなことはない。試用期間を設けて、お前の能力を確かめさせてもらう。試用期間中は、素材などの費用はこちらが全て負担する。だから、お前は好きに研究を行い、その成果を俺に見せれば良い。勿論、給料も発生するし、衣食住は保証しよう」
「そ、それはなんとも魅力的な話だが、なにか裏がありそうで怖いのだが」
「なにもないさ。強いて言うなら、何の成果もないようであれば雇用はなし。王都にまで帰還を願うだけだ。その際には、帰りの資金も用意してやろう」
「なんとも、まあ、美味い話だ。しかし、私はここで雇ってもらうと決めたのだ。精一杯努力させてもらうとしよう。それに、資金は潤沢、設備は最新鋭! 逃す手はないさ!」
雇用主になるかもしれないレオルドの前だというのに、怖いもの知らずなキャロラインに、レオルドは笑みを浮かべた。逃がさないのは、こちらの台詞だと真っ黒な笑みを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます